星巡りの結末 九 三根岸の本懐
二人と一鬼が進んだ先は、槐が元居た
「それで、これが私の身分証明さ」
そこでここまでの経緯を話していた三根岸は、
三根岸が手帳を開いて問志達に見せれば、その中には確かに目の前の人物と同じ顔の男性の写真が貼りつけられ、その下には彼の名前も記載されている。
しかし槐はそれを見ても、三根岸に対して鋭い眼差しを緩めなかった。
「そんなに怖がらなくてもよくないかい?確かに私たちの言う保護は君たちにとって都合が悪いことかもしれない。だけどそれは伽藍化が進んだ鬼の話で、君のように誰かに
「信用シて欲しいなら、お宅らの実働部隊が何処に隠れているか教えて欲しいもんだね」
「いいや、私一人さ」
三根岸の返事を聞いて、槐は更に目の前の男を睨んだ。
「嘘つけ。キキョウ局員の手帳は本人にしか開けない。だからアンタは確かに『キキョウ局の三根岸兼次』なんだろう。だケど、その手帳は調整器関連の部署に所属している連中、つまりは非戦闘員のもんだ。相当伽藍化が進んでいる鬼の、それも体内に、いくら局員だからって非戦闘員だけで入らせるほど上も馬鹿じゃあねえだろ。下手しなくても死ねるぞ」
「おっと、思っていたよりも私たちの内情に詳しいね?本当に私だけなんだ。ちょっと所ではない事情が有ってね」と、感心したように三根岸が言う。
「どんな事情ナんだか」
三根岸は敵意がないことを主張するように両手を広げ肩の位置まで持ち上げていたが、槐の態度が変わらないことにため息を吐いた。
「やれやれ、警戒心が強くて困るな」
「こっちはお嬢サんの安否が掛かってんだ警戒心も強くなるわ」
「でも君、此処に引き摺り込まれてそのお嬢さんを危険に晒してないかい?」
「そレは悪いと思ってる」
「僕は大丈夫なので気に病まないでくださいね」
「…………ソうかい」
槐は少々気まずそうに問志を
「わかったわかった。全部話す。私はね、此処にいる鬼に会いに来たんだ。上からの命令が下る前にね」
三根岸はそういって座布団の上に座ると、積み上がった本の塔を物色し始めた。そうして一冊の本、もといアルバムを手にして
「此処は現実世界に居場所がなかった人間の逃げ場所になっていたと言っただろう?二十年程前、私もその内の一人でね。あの頃彼女に出会えていなかったら今頃どうなっていたか」と、三根岸はあっけらかんと笑う。
「だけどちょっとした事故が起きて、彼女とはそれっきりになってしまったんだ。そこから
「……無事に会エたとしてソイツ、お宅のことをまだ覚えているか怪しイもんだが」
「だろうね。覚えていてくれたらそれは嬉しいけれど、彼女が安らかであるなら大した問題じゃないさ。さて、伽藍化の進んだ鬼はキキョウ局管轄の箱庭へ収容されるのが常。けれど彼女は色々と規格外だから、それが難しい。今日中にうちの実働部隊が此処に派遣される予定になっているが、伽藍化が進行しているとバレてしまえば、討伐を免れない可能性の方が高いだろう」
「お宅、
「まあね。仮に彼女と私がこの後 血の契約を結べたとしても、伽藍化の進行具合によっては童子石の崩壊の歯止めになってくれない。最期になるかもしれない
三根岸はアルバムに入っていた一枚の写真を槐と問志に差し出すと、被っていた中折れ帽子を脱いで自身の灰色の前髪をかきあげる。
「……なるホど、この坊主がお前か」
「そういうこと」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます