第25話 episode:25

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「梨々花ちゃんってさ~お祭り行った事あるの?」

浴衣と夏の甘い空気で幸太郎君をメロメロにさせちゃう大作戦決定後の放課後。

麗は心配そうに梨々花に問う。

「それくらいあるわよ。」

「あるの?!いいな~。麗もお祭りとか行ってみたいな~。」

梨々花の脳内には去年の夏が映し出されていた。

「何を言ってるのよ。去年梨々花の家でお祭りをしたじゃない。」

去年は麗が花火を見たいと駄々をこねたため、夏目家の庭に屋台を作り上げたわ。

さらに雰囲気を出すため、近くの川から打ち上げ花火をあげたはず・・・。

「あれは有所正しいお祭りとは別物だよ~!!」

「有所正しいお祭り?」

「有所正しいお祭りは、たくさん人がいてみんなでわいわいするものなの!」

「去年もわいわいしたじゃない。」

「去年は4人しかいなかったでしょ!」

麗は携帯で検索しながら、お祭りの正しい雰囲気を伝えた。

「・・・。とにかく、すごい人じゃない?」

「そうだよ!!みんなが一か所に集まるのだもの!」

「・・・。いやになってきたわね・・・。」

「え?!」

なんでわざわざ人込みに行かなくちゃいけないのよ。

「また去年みたいに家の中に屋台を作ればいいじゃない。」

「そんなの・・・絶対にダメ!!」

「なんでよ。」

「お祭りの雰囲気が大事なの!!」

雰囲気?と梨々花は疑いの眼差しを麗へと向ける。

「例えば!これを見て!!」

麗が取り出したのは得意の恋愛漫画であった。

開かれたページには人込みでこっそりと手をつなぐカップルである。

「これは・・・。」

「お祭りマジックだよ!!」

お祭りに行くと手をつなぎたくなるの!!と麗は目をキラキラさせる。

「お祭りマジック・・・。」

「そうだよ!!周りもそういう雰囲気なのだから自然とそういう雰囲気になるものなの!」

よくわからない理屈を並べる麗であるが、今の梨々花には“幸太郎と手をつなぐ”このことしか頭に入ってこなかった。

「分かったわ。梨々花、雰囲気に流れてくるわ。」

お祭りに行ったことのない麗の信用性を疑う人もおらず、話は前向きに進んでいったのであった。

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「真琴~華恋~お待たせ!!」

正門には既にクラスの違う2人が揃っていた。

「いや、私たちも今来たところだ!!」

気にすることない!と真琴が熱く肩を組んできた。

「麗の家に行くのは久しぶりね。」

「そうだな~いつも秘密の花園には集まるが、本家はいかないからな!」

「お母さんはいつもみんなに会いたいって言っているよ~。」

麗の言葉に3人は苦笑いをする。

「和子さん・・・久しぶりに会うわね。」

「ああ・・・和子さんは元気なのか?」

「ん~昔からなにも変わってないよ!!」

“昔から変わっていない”

変わっていないということは・・・

「相変わらず一日中お酒を嗜んでいるのね。」

「そうだね~毎日日本酒を片手に生活はしているかな!!」

笑顔で答える麗に対して、さらに笑顔がひきつる3人であった。

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学校から徒歩10分程度の場所にある、大きな日本家屋の豪邸。

そこは有所正しい茶道の家元、春野家の本拠地であった。

日本庭園が広がる庭を通り抜け、大きな門を抜けた先に春野家の玄関はある。

「ただいま~!!」

「「「お邪魔します。」」」

「おかえりなさいませ。お待ちしておりました。」

「私の部屋に行くから、お茶とさっき伝えたものをよろしくね!!」

「既に準備は整っております。お部屋にお運びいたしますね。」

着物を着た女性は丁寧にお辞儀をすると、廊下の奥へと消えていった。

「さあ!梨々花ちゃん!浴衣を選ぶよ!!」

麗の部屋は久しぶりに来たけど・・・

「こんなに物がたくさんあったかしら?」

左右を見渡すがどちらを見ても本本本・・・

「いつしか漫画があふれちゃってね~・・・。」

「ぜひ今度改めて遊びに来るわ。」

梨々花は目をキラキラさせている。

「ぜひぜひ~!!」

「梨々花もすっかり漫画の虜だな!!」

真琴も物珍しそうに本棚を見渡す。

「真琴も読んでみれば~?」

「いや、私はこれでしか文章読まないからな!!」

「真琴それって・・・。」

「新聞ね。」

「真琴は昔から変わらないね~!」

「そういえば幼稚園の時から読んでいたね・・・。」

真琴の鞄から出てきた新聞を見て3人は苦笑いをする。

“ガラッ”

いきなり麗の部屋のふすまが開き4人の視線が開いたふすまに向く。

「やっほ~~~!!」

「・・・。」

「あっ・・・。」

「ご無沙汰しています。」

「ちょっと!お母さん!急に開けないでよ~~!!」

そこに現れたのは

(酔っぱらっている)麗の母親、春野和子であった。

「えへへ~!驚かしちゃった!!」

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とある立派な日本家屋の家。

その広い一室に女子高校生4人と夕方から日本酒を片手にへらへらと笑っている1人の大人の姿がそこにはあった。

和子さん・・・。

相変わらずいつでも呑んでいるな。

「事情は麗から聞いたわ~!浴衣が必要なのよね!!」

今回ばかりはこの酔っぱらった大人に頼るしかない梨々花はため息をつく。

「無理を言ってすみません。」

「なにをいってるのよ~!いつでも頼って頂戴!ちょっと~早く運んでくれる?」

和子の指示に奥からたくさんの人がぞろぞろと現れる。

手には大量の生地と飾り達。

「わお!」

「すごい数・・・。」

「そこに並べて頂戴。」

主は酔っぱらっているがさすがこの国を代表する茶道の家元である。

急な頼みにも数十種類の鮮やかな生地が並べられる。

「さぁさぁ!みんな好きなものを好きなだけ持っていきなさい!!」

(味方であるとやはり頼もしいわね・・・。)

「いや、今回は梨々花の浴衣を!」

「私たちはただの付き添い・・・。」

「いいじゃないの~せっかく来たのだから~!!」

和子はブイサインを4人へ向ける。

「お母さんもこういっていることだし~~!選ぼうよ~!!」

麗も多くの生地を前に目をキラキラさせている。

しばらく何種類もの生地を真剣に選ぶ女子高校生たちの姿がここにはあった。

「私はこれにする~!!」

一番初めに声を上げたのは麗であった。

「おお!!なんともかわいらしい柄ではないか!!」

「麗らしいわね。」

「いいと思う。」

麗は女性らしい桃色のサクラがちりばめられた生地を選んでいた。

「私はこれ。」

その後、華恋は紺色に睡蓮の柄が入ったものを即決していた。

「んー・・・。」

肝心の梨々花はその後も眉間にしわを寄せていた。

「梨々花ちゃん気に入ったものがなかった?」

「いえ、むしろその逆よ・・・。」

全部が可愛く見えて選ぶことができない・・・。

「たしかにどの柄も可愛い。」

「梨々花ちゃんならなんでも似合いそうだな~!!」

「じゃあ、これなんてどう?」

和子はニコッと一枚の生地を渡す。

「これは・・・」

「椿よ。」

「椿。可愛いわ!」

「ふふふ。椿の浴衣にはね美しさと“発展”という意味があるのよ。」

「発展・・・。」

「それだけ真剣に選ぶのだもの!なにかあるのかと思ってね~!」

(麗といい和子さんといい、察する能力がほんとに優れているわね。)

「ふっ。気に入ったわ。梨々花はこれにする。」

そうして無事に浴衣の柄を決め終えたのであった。

「ちなみに麗の浴衣には始まりや豊かさ、華恋ちゃんの浴衣には知性美なんて意味が付いているのよ~!!」

みんなピッタリね!と和子はウインクをした。

「酔っぱらっていてもさすが家元ね。」

「あ~梨々花ちゃんが今冷たい事言った~!おばちゃん悲しい~!!」

こういうところも麗そっくりだな。と梨々花と華恋は再びため息をついた。

「おお!みんな素敵な生地ではないか!!」

「真琴こそ、余裕そうだけど選んだの?」

「私はこれにした!!」

「・・・。」

「えっ、なにそれ?!」

「真琴・・・あんたなんで眼鏡柄の生地選んでるのよ!!」

「あははは!!真琴らしくていいじゃない~!!みんな祭り当日が楽しみね!」

和子の大爆笑により浴衣選びは幕を閉じたのであった。

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