第43話 合流

 マラさんと別れた後、レイ達を逃がした路地裏へと急いだ。

 零人達を路地裏に行かせなかったからと言って、路地裏の奥が安全とは限らない。そこらへんにゴロゴロといそうな、無駄に厳ついチンピラとかが住み着いている可能性もゼロではない。

 路地裏は、まるで迷路のようになっており、行き止まりなども多い。レイ達と会えることすら、危うくなってきた。


「上からなら……」


 僕は、上空に向かって思い切り地面を蹴り、上空から迷路のような路地裏の全体図を見る。すると、僕から向かって右の方向に、小さな集落……いわゆるスラム街が見えた。あのスラム街にレイ達がいるかどうかは分からないが、行ってみる価値はある。

 迷路のようあ路地裏を地道に走っていくのは面倒なので、忍者みたいに、そこら辺に建っている建物を足場に、スラム街の方向へと急ぐ。

 一度こんな忍者っぽい事をしてみたかったから、多少なりテンションが高くなっているのは見逃してほしい。


◇ ◇ ◇


 スラム街に辿り着て初めて感じたのは、異臭のよる不快感だった。どんなと言われれば、腐卵臭のようだと答えた方が分かりやすいかもしれない。(嗅いだことないが)

 スラム街に入ると、異臭とは別の淀んだ空気が漂っていた。負の空気とでも言うのだろうか。スラム街の住人は、泥や垢などで汚れたよれよれの布の薄着と、薄い布のズボンを身に着けていた。そして、入ってきた僕を、鋭い眼光で睨みつけた。どうやら僕は、歓迎されていないらしい。


「帰れ、人間」

「ここはお前らが来る場所ではない」


 見れば、スラム街の住人は全員、獣耳等が付いており、亜人だという事に気が付いた。中には、レイ達が庇っていた女の子と同じ種族の亜人もいた。

 どうやら、このスラム街は、亜人だけの、亜人のためだけのスラム街のようだ。人間である僕が歓迎されないのも、納得できる。

 それでも、レイ達を見つけ出さないといけないからと、歓迎されていないことを百も承知で声を掛けてみる。


「あの、人間の女の子二人と、亜人の女の子一人、この街に来ませんでしたか?」

「人間が話しかけんな。早くこの街から出ていけ。殺されたくなかったらな」


 やはり、僕の話を全く聞いてくれない。どうしようかと立ち往生していると、誰かに声を掛けられた。


「あんたが、拓様って奴か?」

「拓様って……、もしかして!」

「あぁ、人間の女なら俺ん家にいる。娘を助けてくれたらしいからな。その礼だ。着いてきな」


 声を掛けてきたのは、40代くらいの、がっしりと筋肉が付いている大柄な男だった。頭には女の子と同じような猫耳が付いており、親子だというのは嘘ではなさそうだ。

 男に言われるがまま着いていくと、土や泥などで汚れたコンクリート型の家があり、男はその家の中へと入っていった。


「「拓様(さん)!!」」

「ぐふっ!?」


 僕も家の中へ入ってみると、レイとミルにダブルタックルをされた。零人との戦闘で負った傷などにダイレクトアタックされ、僕はノックダウンした。(何言ってんだ僕)

 レイとミルに会えた喜びと痛みから、少しおかしな言動になったが、二人が無事なのに安心した。

 レイとミルも同じなのか、僕に抱き着いて離れない。レイは抱き着いたまま微動だにせず、ミルは僕の腹部におでこを擦り付けている。やめなさい、僕がキュン死してしまうから。


「あっ」

「……フンッ」


 家を見渡すと、レイ達が守った女の子もいた。でも、僕と顔を合わせてくれない。何故か嫌われているようだ。僕、何かしたっけ?なんか最近、無自覚に女の子を怒らせている気がする……。


「ほら、アスレ。お礼ぐらい言ってこい」


 アスレと呼ばれた女の子は、嫌々に、本当に嫌々に僕達にお礼を言った。


「ありがとうございました……。これでいいでしょ……」


 アスレちゃんは、そう言うと、家を出て行ってしまった。呼び止めたが、さすがは猫の亜人。ものすごい速さで出て行ってしまった。


「すまんな。本当は何か礼として何か渡せたらいいんだがな。何も渡せるものがないんだ」

「い、いえ、大丈夫ですよ」


 この人たちは、生きるだけでも精一杯なのだ。そんな人達から何か貰う気なんてない。それに、守ったのはレイ達だ。僕はそれの手助けをしたに過ぎない。貰う権利があるのは、レイ達だろう。


「なぁ、一つ聞いていいか?」

「何ですか?」

「なんであいつを守ってくれたんだ?」


 その質問に答えるのは、レイ達の方がいいだろう。なんせ、守った張本人なのだから。僕がレイ達に目配せすると、レイ達はその視線に気づいて少し考え、こう言った。


「……助けなきゃって思ったからでしょうか」


 そう言ったレイは、レイの村の時に、僕を助けてくれた時と重なって見えた。


「……そうか」


 男は、安心したように、嬉しそうに微笑んだ。まるで何年もその言葉を待っていたかのように。


「もしかしたら、あんた達なら、あいつのヒーローになってくれるかもな」

「ヒーロー?」

「あぁ、もう消えてしまったヒーローに」


 男の人は、近くにあった棚から、一冊の絵本を取り出した。何度も読み込まれたのか、ページの一枚一枚がよれよれになっている。

 そこには、『わたしのヒーロー』という題で、拙い文字と共に、アスレちゃんの理想のヒーロー像が描かれていた。

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