第41話 零人の能力
威勢よく言い放ったのは良いけど、勝算などあるはずがなく、ただ、全力で零人を足止めすることだけを考えていた。
実力差は明白、経験も天と地ほどの差がある。だけど、止めなければならない。この先に行かせてはならない。レイ達のためにも。
「へぇ、急に威勢がよくなったね。さっきまで絶望みたいな顔していたのに」
僕を茶化すような言動をしているが、目も、耳も、気配でさえ僕に向いている。決して油断しないのは、流石勇者という感じだ。
お互いにお互いの行動を予測し合う。どちらが先に仕掛けるか、何をするか、どう避けるか、全ての行動を読みあう。イメージしあう。
そして、動いたのは、奇しくも同時だった。
「「っ……!!」」
ガキンッと鈍い金属音が響き渡る。剣同士が重なり合った瞬間、薄暗い路地裏を明るく照らす程の火花が散った。お互いの全力がぶつかり合う。
「くっ……!」
力比べで押し負けたのは、僕の方だった。勢いをつけた分、反動も強い。後ろへはじかれ、体制が崩れた隙を狙い、零人が横に一閃する。
咄嗟に片手剣でガードしたが、零人の純粋な腕力によって弾き飛ばされ、壁に激突する。背中に痛みを感じると同時に、肺に入っていた空気が無理やり吐き出される。零人は、僕に向けて剣を突き出し、続けて追撃する。
僕は、剣を間一髪の所で避けると同時に、零人の足を払う。零人が体勢が崩れたところで、零人の後ろの襟を掴み投げ、地面に叩きつけ、零人を仰向けの状態にする。その上から、僕が馬乗りし、首元に短剣を突き付ける。
「これで……、勝負ありだ」
「……結構力強いね。これでも、並みの人の数十倍の腕力を持ってるんだけど」
首元に剣を当てているのは、これ以上動くと刺すぞという警告だ。零人もそれを分かっているのか、抵抗しようとしない。
「この力も、特殊能力かな?それとも魔法?」
「……だったら何だよ」
「いやね、それだと拍子抜けというか、肩透かしというか」
どういう事だーーーと言いかけた時、いつのまにか僕の体は宙に舞っていた。いや、飛ばされていたというのが正確だろうか。まだ状況把握が出来ていない僕に、追撃するように、吹き飛ばされている僕の真横まで飛び、背中からかかと落としをされた。
「これでも、まだ10%も出してないよ?ほらほら、立って立って」
地面に叩つけられた僕に向かって、まるで楽しんでいるかのように煽る。
くそっ……ダメージが大きい。呼吸がうまく出来ない。手も足も出ないとは、恐らくこの状況の事を言うのだろう。
「……ねぇ、死ぬ前にさ、君が授けてもらったものを教えてよ」
「誰が……」
「だよね。だから、僕から教えるよ。僕は魔法の才能と、武器の才能」
「才……能……?」
加護じゃなくて、才能?なんだこの違い。まさか、一人一人の授けられた力って、別々なのか?
「知りたいって顔だね。だったら、君のも教えてよ。それが交換条件だ」
「……知ってどうする」
「別に。ただ、情報は多いほうがいいでしょ?」
……話すのと話さないのでは、どちらがメリットが多い?話せば、僕の加護の力がバレるが、零人の才能という力の詳細が分かる。
……話さなかったら、僕の加護がバレることはないが、何も情報を得られない。それに、用なしになって殺されるだろう。
……話すしかないのか。
「……武器を使いこなせる加護と、身体能力向上の加護だ。これでいいだろ」
「ふうん、なるほどねぇ。加護か」
正直に答えないという選択肢もあったが、この不利な状況に、嘘をつくのはリスクが高い。だから、レイ達が武器になれる事を伏せた。これまでも知られてしまえば、僕達に勝ち目などない。
「まぁ、約束は守るよ。僕の才能は、あらゆる剣と魔法が使えるようになる」
そして、と零人が続ける。
「君の加護とは、圧倒的に違うところがあるね」
「違うところ……?」
どちらも使いこなせるようになるという共通点があり、名前の他に違うところなど見当たらない。
「才能と加護の圧倒的な違い……それはーーー」
零人がそう言いながら、自らの剣に魔力を注ぎ始める。その瞬間、剣から炎が噴き出した。剣の内部から、まるで生きているように激しく動き、剣にまとわりつく。
まとわりつかれた剣の刀身が、灰色から綺麗な赤色へと変わる。炎も、剣にまとわりついてから一向に消えない。
まさに、よくRPG等にある魔剣というやつだった。
「才能は、その才能を『発展』させることが出来る。それが加護との圧倒的な差。つまり、加護は、才能の下位互換という事だ」
メラメラと燃え盛る剣を、僕に向けながらそう言った。
「じゃあ、もういいよね?」
そう言いながら、ゆっくりと僕に近づいてくる。よけようにも、まだ体が思うように動かない。こんなところで死ねないのに……!動け、動けよ……!
零人が、とうとう僕の目の前に立ち、剣を振り上げる。
僕が死を悟った瞬間ーー
「待ちな」
どこからか、そんな声が聞こえた。どこか毅然とした女性の声。どこかで聞いた事のある声。野次馬を押しのけながら現れた女性に、僕は驚愕し、零人は渋い顔をした。
「……何ですか」
「その子は、私の知り合いだ。お痛はよしな」
そこに現れたのは、昨日会った薬屋の店主だった。
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