第38話 新しい武器
~数十分前~
観光と言っても、どこを見ればいいのか分からず、適当にそこら辺の屋台で買った焼き鳥(らしきもの)を咥えながら、街中をあてもなく歩いていた。
「てか、この焼き鳥美味しいな……なんの肉だろう?」
適当に買ったつもりだったが、思った以上に美味しかった。二人の分も買っておけばよかったかな?
二人がいないことに、若干の寂しさを覚えつつ、色々な店を見て回る。やはり、異世界というだけあって面白いものがたくさんある。
「……やっぱ、ゲーム機とかはないよねぇ」
元の世界の癖で、何を買うでもないのに、お店の売り物などを見てしまう。それも、娯楽物を求めて。
異世界は楽しいが、娯楽が非常に少ない。ボードゲームの一つもない。あったとしてもスポーツくらいだ。しかし、異世界のスポーツが、僕の常識が通用するはずがない。
先ほど広場で見たサッカーらしきスポーツは、ボールが浮いていた。どうやら、ボールにだけ魔法を付与して良いらしい。まさに、異次元サッカーのイ〇イレだ。
「おっ?」
店を眺め歩きをしていたら、武器屋にたどり着いた。現在の僕の武器は、一本のロングソードだけだ。これから、どんな敵を相手にするか分からないし、武器は増やしたほうがいいかもしれないな。
「おう坊主、何を探してるんだ?」
店の中にある武器を眺めていると、奥のほうから巨漢の店主らしきおっちゃんが出てきた。
「いや、特に何を探しているってわけじゃないけど、別の武器も使ってみたくて」
「ほう?今は何を使ってるんだ?」
そう言われ、腰に携えているロングソードをおっちゃんに見せる。
「片手剣か。なら、短剣なんてどうだ?」
「短剣?」
「あぁ、片手剣よりはリーチが短いが、片手剣と要領は同じだ。まぁ、盾もあるから、全くってわけにはいかねぇけどよ」
「へぇ」
試しに、近くにあった片手剣を手に取る。重さはロングソードより軽い。ロングソードよりも威力は落ちるが、その代わり機動力と小回りが利く。リーチが短いのは、盾でカバーするってことか。
「盾って、武器かな?」
「は?盾は防具だろ」
「だよなぁ……」
僕が加護で使いこなせるのは武器だけだ。盾を使いこなせるか分からない。実戦で試そうにも、リーチの短い短剣だと、下手したら殺られる。
「あっ、そうだ」
僕は、近くにあった短剣をもう一本手に取る。そう、双剣だ。
「これなら、僕でも使いこなせる」
「いいのかい?双剣はベテラン冒険者でも、めったに使いこなせない武器だ。近距離のノーガードの殴り合い。手数で相手を圧倒できるが、一歩間違えると命を落とす。まさに諸刃の剣だ。それでも、双剣を選ぶのか?」
武器屋からの忠告。武器を扱う人からの忠告は、重みが違う。だけどーー
「うん。それに、一歩間違ったら死ぬ事なんて、今までに何回かあったんで」
「……坊主、いったいどんな旅してんだよ。まだ20にもなってないだろ」
おっちゃんが、呆れて笑う。まぁ、僕も無茶をしていると自覚はしている。だけど、後悔はない。それで二人を助けられたんだ。
「じゃあ、これをーーん?なんか騒がしいな」
「あ?あぁ、いつものだよ」
「いつもの?」
路地のところに、人だかりが出来ていた。大道芸をやっている風でもないし……何の集まりだ?
「勇者だよ。いつもの恒例、見せしめの殺し」
「見せしめって……勇者なんでしょ?それじゃあ、まるで魔王じゃないか」
「はははっ、魔王か。でもな坊主」
おっちゃんが、一段と声を下げていった。
「魔王と対等に渡り合うのは、案外魔王と同じ奴なのかもな」
「魔王と同じ奴か……。おっちゃん、これいくら?」
「ん?あぁ、二本で銀貨6枚だ」
僕は銀貨6枚を袋から取り出し、おっちゃんに渡した。
「じゃっ!また来るから!」
「おう」
おっちゃんに別れを告げ、人だかりに向かう。勇者がどんな人なのか、確認しないといけないと、何故か思った。そして、同じくらいに嫌な予感もした。
「くっそ、見えない……」
人だかりに来たのはいいが、人が多すぎて肝心の勇者が見えない。足に力を溜め、思い切り上へ飛び、上空から勇者を見る。
「--!?」
しかし、上空から見た勇者を……いや、勇者達を見て絶句した。女の子に剣を向けているのだ。その一人は、まだ小学生ぐらいだろう。獣耳があることから、亜人とか獣人とか呼ばれる種類だろう。だけど、僕の目を引いたのは、もっと他のことだった。
ーーなんでそこにいるんだよ、レイ!!ミル!!
勇者は既に剣を振り上げている。今から向かっていたら間に合わない!!
……!そうだ。なにも短剣は、持つだけの武器じゃない。
僕は、先ほど購入した短剣を勇者の剣に向けて投げる。短剣は、勇者の剣にあたり、わずかに剣の軌道が変わり、レイとミルから外れる。その隙を逃さず、近くにあった屋根の縁を蹴り、レイたちの頭上まで移動する。レイ達を勇者から守るために、二人の間に降り立つ。
そして、僕は怒りの気持ちを込めて言い放った。
「僕の大切な娘達に、なにしてんだよ」
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