第37話 勇者達

「魔力0って……」


 僕のステータスは、神様の底上げによって、決して低くはないと思う。だが、魔力の欄には、魔力0という、あまり信じたくない情報が記されていた。


「えっと……、拓さんは魔力がなくても強いですし、落ち込まないでください!」

「……ありがとう、ミル」


 ミルの優しさに涙が出る。


「……拓様、この【スキルブースト】とは?」

「文字だけを見ると、スキルの威力を上げているとか?」

「……スキルの威力を上げるのかもしれません」


 どちらも推測の域を超えない。だから、次の戦闘の時に色々試してみようという話になり、今日のところは、お開きとなった。


「それじゃあ、明日にでも近くの森にーー」

「すみません!明日はレイさんとお買い物に行こうと思っていまして」

「……お買い物?」


 首をかしげているレイに、ミルは耳打ちで何やら話している。そして、レイも「……なるほど」と納得したのか、少し微笑んだ。


「……明日、お買い物に行ってきます」

「そっか。じゃあ僕も、明日はゆっくりこの国を観光でもしようかな」


 明日の予定をお互いに伝え、僕達はベッドに潜り、夜を明かした。


◇ ◇ ◇


「じゃあ、行ってきますね」

「……行ってきます」

「うん、いってらっしゃい」


 昨日の儲けの半分を二人に持たせ、宿の前で別れた。……そういえば、二人と別行動になったのは初めてだな。

……大丈夫だろうか。変な人にはついていかないだろうか。そんな不安が一気に襲ってきた。


(……大丈夫、二人とも子供じゃないんだから)


 少なくとも、僕よりはしっかりしているはずだ。二人を信じて、観光を楽しむことにした。


ーーーーーーーーーー


「さて、どれがいいんだろ・・・?」

「うーん……」


 私たちは、メインストリートにある雑貨屋に来ています。敷いてある布の上には、とても綺麗な指輪が並んでいます。赤色の宝石を埋め込んでるものや、指輪自体が宝石なものがありました


「値段が、すごいね……」

「……だね」


 宝石が埋まっているのですから、高くて当然です。

 しかし、プレゼントなら、少しでも高いほうがいいはずです。何より、拓様にはたくさんお世話になりました。なので、出来る限りのお礼をしたいのです。


「これなんてどうかな?」


 ミルさんが手に取でした。、花緑青色(エメラルドグリーン)の真珠が付いている指輪でした。とても綺麗な色をしていて、少し見惚れてしまいました。


「……なんでこれ?」

「この宝石の石言葉を見てみて」


 ミルさんにそう言われ、その指輪が置かれていた場所に置いてある値札の下あたりを見ました。そこには、商品の石言葉が記されていました。


【アマゾナイト】

石言葉:希望を与えてくれる希望の石


「希望の石……」

「うん、なんか拓さんぽくない?」

「……ふふっ、確かに」


 私の村に来た時、拓さんは魔王軍を一度退けてくれました。村の人から見て、拓様は希望の光に見えたでしょう。 

 ミラス王国でも、絶望しかけていたミルさんを助け出しました。

 確かに、拓様は希望を与えてくれる方です。


「……じゃあ、これにしよう」

「なら、お会計だね」


 私たちは、指輪のお会計を済ませ、雑貨屋を出ました。


「これからどうする?」

「……観光でもする?」


 せっかく王都まで来たのですから、観光しないのは勿体ないです。

 王都には、色々な観光名所があると有名なので、楽しみです。


「-----!!」

「------!?」


 しかし、今後の計画を立てている私たちの耳に、誰かが怒鳴っている声が聞こえてきました。離れすぎてよく聞こえませんでしたが、雰囲気的に罵声を言っているようでした。


「……何をしているのでしょうか?」

「あ、あそこの路地のところに人が集まってる。あそこからかな?」


 メインストリートからつながる細い路地、そこに何かを取り囲むようにして国民が集まっていました。  

 しかし、大道芸の人などは見えません。皆さん、路地のほうだけを見ていました。


「やっちまってください!勇者様!」

「盗人に制裁を!勇者様!」


 近づいてみると、国民は【勇者様】という方を応援しているようでした。

 私は、あまり勇者様には良いイメージがありません。私の村が襲われているのをしっていながら、何もしてくれなかったからです。

 勇者様も暇ではないことは重々承知ですが、それを理由に故郷を見捨てるのは、やはり納得は出来ません。

 

 人混みをかき分け、中心に行ってみると、そこには正真正銘、勇者様とそのお仲間達が立っていました。そして、勇者様たちの視線の先にはーーー


「ッーーーー!」


 亜人の猫人族の女の子が、血がにじんでいる腕を抑えながら、勇者様達を睨みつけていまいた。


「では、さっさと殺ってしまおうか」


 勇者様はそう言うと、腰に携えていた鞘から刀身を抜き、彼女の前に突き出します。彼女は、足も怪我しているのか、逃げ出せないでいました。

 そして、勇者様が剣を振り上げてーー。


「だめっ……!!」


 その瞬間、私は気づいたら彼女を庇うようにして、勇者様との間に割り込んでいました。


「誰だい、君は?」

「レイさん……!」


 ミルさんも、私と同様に勇者様と彼女の間に割り込みました。

 すると、勇者様は明らかに機嫌が悪くなり、顔が徐々に歪んでいきました。


「どいてくれるかな?」

「……どいたら、あなたはこの子を殺しますよね?」

「あたりまえじゃないか。そいつは盗みを働いたんだ。罰を受けなければならない。常識でしょ?」


 勇者様は、淡々とそう述べました。一見正しいことを言っているようですが、実際に言っている事は、めちゃくちゃでした。


「……盗みだけでは、人を殺してはいけません」


 殺人や、国家転覆などの重罪なら処刑をする場合がありますが、物を盗んだだけで処刑は聞いたことがありません。

 しかし、勇者様は当然のような顔で、言いました。


「人?人なんてどこにいるんだい?」

「-------」


 絶句しました。あろうことか、勇者様は猫人族を、人と認識していなかったのです。


「誰だって、動物が悪さをしたら、捕まえるか殺すでしょ?それと同じさ」

「動物って……」


 ミルさんも、勇者様の主張に絶句していました。

 彼女を見ると、悔しそうに歯を食いしばっていました。当然です。自分が人ではなく動物扱いされ、見下されているのですから。


「……私たちは、どきません」


 もし、拓様なら。


「はぁ……話通じない感じか」


 ここで、逃げないと思いますから。


「だったら、まとめて死んでもらうよ?」


 勇者様が剣を振り上げました。

 私たちは剣になれますが、拓様がいなければ意味がありません。つまり、勇者様の剣を受け止める手段がないということです。避けるにしても、細い路地ですから、そんなスペースはありません。


(……私、死んじゃうのかな)


 振り下ろされる剣が、ゆっくりに見え、お父さん、お母さん、ミルさん、そして拓様の顏が脳裏に浮かびました。これが走馬灯なのでしょうか。

 

(……ごめんなさい拓様。一緒に強くなるという約束、果たせませんでした)


 約束を破ってしまうことに対しての謝罪。そしてーー、今日買った指輪を嵌めて欲しかったという願望とともに、ある気持ちが胸をいっぱいにしました。


 --大好きです。拓様。


キンッ!


「なっ!?」


 死を悟った瞬間、金属同士が衝突したような、甲高い音が聞こえました。それと同時に、振り下ろされた剣の軌道が変わり、私の真横にある地面に刺さりました。


「……これは」


 そこには、さっきはなかった片手剣が地面に転がっていました。そしてーー


「僕の大切な娘達に、何してるんだよ」


 目の前に、空中から拓様が降りてきました。

 






                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  

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