第36話 プレゼントとステータス

「さて、用事も済みましたし、宿に戻りましょうか」

「だね。レイの様子も気になるし」


 薬屋を出た僕達は、魔物の素材と薬草を売るという目的を達したので、大通りを通って、宿に戻ることにする。

 大通りに並んでいる店を眺めながら歩いていると、とある店を発見した。


「髪留めか」


 それは、とある雑貨屋だ。店の外に、大きく宣伝をするように髪留めが並んでいた。

 花柄のものや、宝石がついているものと、様々な髪留めが並んでいた。髪留めが華やかだからなのか、ほかの店よりもキラキラとした印象を受けた。


「はぇ~、綺麗ですね」


 ミルは、髪留めを手に取り、目を輝かせていた。やはり、女の子はこういう可愛いものが好きなのだろうか?

 知識がないなりに、僕もざっと髪飾りを眺めると、赤い花柄の髪留めが目に入った。

 ミルの左目と同じ色のその髪留めが同じ印象をうけて、思わず手に取る。


「ミル、ちょっと来て」

「ん?なんですか?」


店内を物珍しそうに見て回っていたミルを呼ぶと、トテトテと僕の元に来た。年相応の行動に、不覚にもキュンっとした。


「これ、どうかな?」

「これは……?」


 僕は、持っていた花柄の髪留めを、ミルの前髪に付ける。髪留めの部分の前髪が上げられ、印象ががらりと変わった。大人っぽくなったっというか……。なんだろうこの気持ち。

 年頃の娘が、少し背伸びをしたくておしゃれをしているのを見た父親の気持ち。成長は嬉しいけど、少し寂しいみたいな。……何言っているんだ僕。


「うん、とても似合ってるよ」

「あ、ありがとうございます」


 ミルは、嬉しそうな、恥ずかしそうな顔をした。うんうん、喜んでくれたようでよかった。


「すみませーん、この髪留めをください」

「えっ、良いんですか?」

「もちろん」

「ありがとうございます!大切にしますね!」


 ミルは、自分の前髪についている髪留めを触る度に嬉しそうに微笑んでいた。

 髪留めの代金を払い、僕達は雑貨屋を出て、宿に戻ろうと歩みを進めると、またもや一風変わった露店があった。

 夏祭りなどでよくある屋台風のそのお店は、店員さんらしき人と、土台に乗っている大量の紙は、色画用紙などではなく、綺麗な、皴一つない白紙だった。


「これは?」

「ここは、ステータスを確認する紙を売っているお店です」


 おぉ!ようやく見つけた。ミラス王国にそれらしいお店がなかったから、半ば忘れかけていた念願のステータス用紙!

 値段を見ると、銀貨一枚という良心的なお値段だった。どうやら、このステータス用紙は、冒険者には欠かせないアイテムらしく、気軽に買える値段にしてるのだとか。

 僕と、レイと、 ミルの分のステータス用紙を買い、僕達は宿に戻った。

 

 宿に戻ると、レイは既に起きており、ベッドの縁に腰かけて、足をプラプラとさせながら僕達を待っていた。


「レイ、起きてたんだ」

「レイさん、大丈夫?」

「あっ……」


 レイは、僕達を見た瞬間、一瞬嬉しそうな顔をしたが、何故かすぐに頬を膨らませ、拗ねだした。……もしかしたら、レイだけを残して出かけた事を怒っているのだろうか?


「一人残しちゃったのは謝るから、機嫌直してよ。ね?」

「拓様……鈍感……」

「拓さん……」


 何故だろう。少女二人から、呆れた視線を向けられている。あれ?違った?

 

「あ、そうだ。せっかくステータス用紙買ってきたんだから、ここで確認しない?」


 僕は、二人の視線から逃れようと、今日買ってきたステータス用紙のことを切り出した。


「……そうですね」


 ふぅ……なんとか話題を変えられた。

 僕は、バッグの中から三枚の紙を取り出し、その内の二枚をそれぞれに渡した。

 やり方を教えてもらったが、思った以上に簡単だった。用紙を持って、脳内に自分の名前を浮かべ、「ステータス」と唱えれば良いらしい。


「……では私から。ステータス」


 レイがそう唱えると、白紙だったはずのステータス用紙に、文字が浮かび上がってきた。


【名前】レイ=イリラース 


【レベル】2 


【力】21 


【素早さ】34


【忍耐力】28


【魔力】55 


【スキル】〈アクティブスキル〉武器化、ライトニングソード、鑑定 〈パッシブスキル〉自然治癒(武器化時)、危険察知(小)


「次は、私ですね。ステータス」


【名前】ミル=ミラス


【レベル】2


【力】28


【素早さ】29


【忍耐力】35


【魔力】62


【スキル】〈アクティブスキル〉武器化、〈パッシブスキル〉千里眼(魔眼効果)、精霊会話(中)


 まずレイの危険察知(小)が気になるな。名前からではどの程度の危険が察知できるかが分からない。敵の殺気とかか?

 そして、一番気になるのは、ミルの魔眼という単語だ。やはり、オッドアイなのは理由があったらしい。左目の紅眼が魔眼なのだろうと、容易に予想できた。


「拓さんのはどうなんですか?」

「……気になる」


 僕のステータスか……。ワクワクしないわけがない。小さいころからゲームなどに触れてきた僕にとって、自分のステータスを見るなんて、ロマン以外の何物でもない。あわよくば魔力が高くあってほしい。せっかく魔法ありの世界に来たのだ。魔法を使いたい。


「ステータス」


 僕は、期待を胸にその言葉を口にした。


【名前】伊藤拓


【レベル】3


【力】124


【素早さ】163


【忍耐力】190


【魔力】0


【スキル】〈アクティブスキル〉武器変化(対象者)〈パッシブスキル〉武器使い(加護)、能力底上げ(加護)、スキルブースト(スキル持ち武器所持)


 僕が能筋だという事が証明された。

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