第35話 依頼

魔物の素材を売った僕達は、道具屋を出て、薬屋を求めて大通りを歩く。


「さっきの店主、感じ悪かったですね」


「もうちょっと愛想よくしてほしかったね」


 ミルは頬を膨らませ、道具屋の不満を口にする。少し子供っぽいミルの姿を微笑ましく、温かい目で見ていると、ミルと目が合った。


「今、子供っぽいって思ってましたよね?」


「そんな事ないよ」


「だったら、目をそらさないでくださいよ!?」


 そんな会話をしながら歩いていると、薬屋という看板を見つけた。

 道具屋とは違い、おしゃれ風なお店に、薬屋という看板が不釣り合いだと思ったが、まぁ、そこは店主のセンスだろう。

 僕は、薬屋の扉のドアノブに手をかけて押すと、カランカランッと鐘の音と共に扉が開いた。


「……誰もいないのかな?」


 扉を開けた時の鐘の音で、店員さんが来ると思っていたが、その気配が一切しない。とりあえず、棚に飾られている漢方?や調合薬を見ながら店の奥へ向かう。


「あの~」


 やはり返事がない。しかし、カウンター奥にあるテーブルには、薬草を煎じるすり鉢などが無造作に置いてあり、その横に、まだ湯気が立っているお茶が置いてあるのを見る限り、ついさっきまで誰かいたはずだけど……。


「た、拓さんっ……!」


 カウンターの奥を見に行ったミルが、テーブルの下を見て青ざめている。僕は急いで向かい、テーブルの下を確認する。


「なっ……!?」


 そこには、白目をむき、口から泡を吹いて倒れている、一人の女性がいた。


◇ ◇ ◇


「いや~、驚かせてしまって、すまないね」


 あれから数分後。僕達がどうしたら良いか分からず、あたふたしていると、倒れていた女性が目を覚ました。

 まさか起きるとは思わなった僕達は、まるで化け物を見たかのような反応をしてしまった。


 毛先にくせっ毛がある紫髪で、褐色肌の女性は、毒素を中和させるお茶を飲みながら、僕達に謝った。

 薬屋とは思えぬ肌の露出に、目のやり場に困る。


「で、なんで倒れてたんですか?」


「ん?あぁ、対魔物用で作った毒薬の強さを確かめるために舐めたんだが……、意外にも毒性が強くてな。いやぁ、まいったまいった」


 軽快に笑う女性に、僕もミルも苦笑する。一歩間違えれば死んでいたかもしれないことを、こうも簡単にできるとは、なかなか豪快な女性だ。


「本当に、大丈夫なんですか?」


 ミルが心配そうに言った。

 今は元気でも、さっきまで泡吹いて倒れていたのだ。心配するなと言うほうが難しい。


「私には、【毒耐性(中)】があるんでな。ある態度の毒なら大丈夫だ」


 【毒耐性(中)】を以ってして、失神するくらいの毒性って……考えただけでもぞっとする。そして、その毒薬を作ったこの女性にも。


「そういえば、まだ名を名乗っていなかったな」


 女性は、持っていたお茶をテーブルに置き、改めて僕達に向き直った。


「私は、マラ・ランディース。この国で薬屋兼医者をしている。よろしくな」


 「僕は伊藤拓です。一応、冒険者になるのかな」


「ミルです。拓さんとレイさんに同行しています」


 軽く自己紹介を済ませ、本題へと入る。


「今日は、薬草を売りたくて訪ねたんですが」


「おぉ、そうだったのか。じゃあ、物を見せてもらおうか」


 僕は、背負っていた袋の中から、薬草を入れている袋を取り出す。袋いっぱいに詰まっている薬草を、マラさんに見せる。


「ほう」


 マラさんは、薬草を見てニヤリと笑う。やはり、この薬草は上質らしい。流石レイ先輩、マジぱねぇっす。


「銀貨100枚でどうだろう」


「分かりました」


 僕は、マラさんから銀貨100枚をもらい、袋に入れる。 

 これで一応、僕達の目的は達成されたし、お店を出ようと椅子から立とうとした瞬間、マラさんに止められた。


「ちょっといいかい?あんたら、冒険者なんだろ?だったら、一つ依頼を受けてもらえないかい?」


「依頼……?」


 話を聞くと、どうやら毒草を取ってきてほしいらしい。なんでも、その毒草は、王都を北に行った渓谷にしか生えていないらしく、魔物や盗賊なども住み着いているため、女一人では取りに行けないという。

 それに、その毒草はとても毒性が強く、さっきの毒薬の数十倍だとか……。何に使うんだそんな物……。


「でも、なんで僕達に?」


「この薬草は、どれも上質だ。多分だが、薬草の品質や種類を見分ける事ができるのだろう?その目に頼りたいと思ったのさ」


 なるほど。たしかにレイの【鑑定】のスキルなら、毒草を見分けることができだろう。


「でも、「見分ける」とは、どういう……?渓谷に見分けがつかないほど毒草が生えているわけもありませんよね?」


「たしかに、それほど薬草や毒草は生えていない。だがな、私が欲しい毒草と酷似している植物……いや、あれは魔物の一種と数えるのが適切だな。それを誤って引き抜いてしまうと、最悪死に至る。マンドラゴラーー名前ぐらいは聞いたことあるでしょ?」


「まぁ……」


 マンドラゴラ。小説やゲームなんかで登場する死の植物。根茎が幾枝に分かれており、個体は人型に似ている。本来は、個体に毒があるのだが、恐らく今回は、引き抜くと悲鳴を上げ、引き抜いたものを発狂させる方のマンドラゴラのようだ。


「物が物だけに、誰も引き受けてくれなくてね」


「……事情は分かりました。しかし、その依頼は僕達にメリットがありますか?」


 誤ってマンドラゴラを引き抜いてしまったら、即アウト。そんなハイリスクを背負うんだ。それなりの見返りがなければ割に合わない。一歩間違えれば即死。それに見合う見返りーーメリットを。


「もっともな意見だ。そうだねぇ、私の胸を揉み放題ってのはどうだい?」


「ブフォッ!?」


 何を言い出すんだこの人!?そんな事で僕が動くと思っているなら、大間違いだ。

 いくら形がよくて、ふっくらと程よい大きさの魅力的な胸を揉み放題と言われたって、僕は揺るがないぞ。


「……」


「何で黙っているのですか?拓さん」


 殺気。冷気。背後から向けられる絶対零度の視線と、いつもよりトーンが低く、凍えそうなくらい冷たい声音。これ程の緊張感は、レイの村で仮面の男ーーデュランに向かっていった時以来だ。


「後で、レイさんと一緒にお話があります」


 ……それはどんなお話なのでしょうか?少なくとも、うれしい話ではなさそうだ。


「んんっ、そんな事では僕達は依頼は受けません」


「冗談だよ。そうだねぇ、これなんかどうだい」


 マラさんは近くにあった紙とペンを取り、サラサラっと何かを書き始めた。そして、自分の親指を噛み切り、紙に押し付けた。


「はい、これ」


「これは……?」


「薬剤ギルドへの紹介状。これを持って行けば、無償で薬剤ギルドに入れるよ。薬剤ギルドはいろんな場所にあるし、あんた達の薬草なら、そこら辺の店よりも高値で買ってくれると思う。それに、後々役に立つと思うし」


 無償でって事は、普通なら金を取られるとか?でも、薬草が高値で売れるのは素直にありがたい。正直、レイのスキルがあれば、もうお金に困らないってことか……。


「分かった。でも、何でこんなものを……?」


 無償で出入り出来る紹介状を作れるとは。かなり薬剤ギルドで地位があるはずだ。しかし、それでは、わざわざ個人で営業をしなくても……。


「細かい事はいいだろ」


 マラさんは、あまり聞かれたくなさそうにしていた。少しもやもやしたが、無理に話を聞くのは良くないだろう。


「じゃあ、頼んだよ」


「分かりました」


 そう言って、僕達は薬屋を出た。



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