3章 王都編
第34話 王都『ヴェリシア』
翌日、僕達は宿を出た。燦々と輝く太陽に目を細めながら、僕達はとある場所に向かった。
メインストリートを西に数十分。そこには、僕達が初めに潜った南門と同じ作りの門が佇んでいた。南門よりも苔や蔦が巻き付いており、どこか年季を感じる門だった。
「やけに馬車が多いな……」
西門の近くに、数台の馬車が止まっていた。初めて見る馬車に興味を惹かれていると、馬車のほうがいいのでは?という考えに思い至った。
「馬車に乗るのって、いくらくらいなの?」
「そうですね……ピンキリなので断定は出来ませんが、一人につき銀貨一枚が一般的です」
「銀貨一枚……」
財布(代わりにしている袋)の中には、銀貨五枚ほどしか入っていない。三人で乗るから、銀貨三枚……現状では痛い出費だ。
「おや?英雄様ではないですか。このような場所に何か御用でも?」
馬車に乗るか悩んでいると、初老の御者が話しかけてきた。
「いえ、馬車に乗るか悩んでいまして……」
「それでしたら、私の馬車に乗りませんか?」
「え?でも……」
「実は、私もお願いしたいことがありまして……」
話を聞くと、どうや王都『ヴェリシア』に行く道中に、魔物が大量発生しているという。護衛で冒険者を雇うにしても、それなりの金額でないと、受けてくれないらしい。
そこで、僕達を乗せる代わりに、護衛して欲しいとの事。もちろん、僕達は快諾した。
馬車のごつごつとした板に尻が痛み、お世辞にも乗り心地がいいとは言えないが、何日もかけて歩くよりはマシだ。
何度か道中でイノシシ型の魔物が襲ってきたが、兎の魔物よりは遅いし、ゴートよりは攻撃力も高くない。街で買った剣の慣らしも兼ねて、剣を振るう。
「あの、これ貰っていいですか?」
目の前の、先ほど殺したイノシシ型の魔物を指さす。この魔物を解体して売れば、それなりのお金になるはずだ。幸いにも、ミルは魔物の解体できるし。
「もちろんですとも」
初老の御者は快諾してくれた。
ミル曰く、この魔物は部位が多く、良い値段で売れるらしい。
レイも、休憩時に近くの森などで薬草を取ってきてくれた。これを売れば、お財布事情は改善するだろう。……あれ?僕、お金稼げること何もできてなくない?魔物を倒しても、お金が手に入るわけではない。ミルの解体技術があってこそだ。……軽くへこんだ。
◇ ◇ ◇
ミラス王国を出て半日、日も暮れ、星がちらほらと見え始めたころ、王都『ヴェルシア』の門を潜った。
御者にお礼を言って、僕達は今日泊まる宿を探す。
「しかし、やっぱり大きいな……」
「ですね……。私達の街の何個分なのでしょう……」
元から大きな街に住んでいるミルにとっても戸惑っている。当然、僕もだ。
そこで、僕はあることに気づく。レイが全然会話に入ってこない。
「レイ、大丈ーー」
「きゅぅ……」
「レイ!?大丈夫か!?」
レイが目を回していた。僕達はレイを担ぎ、急いで宿を探し、ミルに受付を任せて、レイをベッドに寝かせる。
熱はない。どうやら、急に大勢の人がいる場所に来たことによるカルチャーショック(身体的)が起きたのだろう。元々、小さな村の箱入り娘だったレイにとって、異世界だったのだろう。ミラス王国とは比にならないし。
静かな場所に来たことで、少し落ち着いたようだ。ベッドで小さく寝息を立てている。
「拓さん、今日中に薬草や魔物の素材を売ってしまいませんか?」
「そうだね。まだ寝るには早いし、いいかも」
僕達は、薬草と魔物の素材が入っているバッグを担いで、ミルと宿を出る。
外に出ると、酒場などでバカ騒ぎをしている冒険者の声や、大道芸を見ている通行人の歓声で、すでに暗くなっている空にも関わらず、賑やかだ。
「道具屋ならあっちにありましたよ」
ミルはそう言うと、来た道を指さす。この宿に来る道中に見かけたらしい。こんな
大きな街で、道具屋を探そうかと考えていたから助かる。
「じゃあ、行こうか」
ミルちゃんの道案内により、僕達は道具屋の前に来た。ミラス王国の街にあった道具屋よりも少し古い、僕の目の前にあるお店の扉に手をかける。
ぎぃっと軋む音を立てながら、木製の扉が開く。中に入った瞬間、かびの臭いに顏を歪める。お店がこんな臭いをさせていいのか?なんて思いながら、店の奥に進んでいく。
店の奥。そこにはカウンターがあり、気難しい顔をしたおじいさんが座っていた。
「……何をお求めで?」
僕とミルをジロリと、あまり気分良くない視線を向けてくる。
「え、えっと……」
おじいさんのあまりの威圧感に少しビビりながらも, 背負っていったっ袋の中から魔物の素材を取り出す。
「これ売りたいんですけど……」
おじいさんは、魔物の素材を手にもって、あらゆる角度からじっくりと査定する。
「ほう、中々上質な素材を持っているじゃないか。殺して数十分で解体しなければ、ここまでの物は手に入らん。よっぽど良い解体師がいるようじゃな」
「あ、ありがとうございます」
思いのほか褒めてくれたことに驚いていると、おじいさんが奥から、何かが入っている袋を持ってきた。
「ほれ、持っていきな」
「これは?」
「代金だよ。売りに来たんだろ?」
僕が袋の中身を確認してみると、銀貨が入っていた。それも数百枚。
「えっ!?こんなに!?」
予想外の金額に驚愕する。これから薬屋に行って、薬草を売るのを考えると、かなりの資金ができる。
「ここまでのは、中々店に出回らねぇからな。さっ、用事が済んだなら帰んな」
おじいさんはそう言うと、手でしっと払ってくる。どこか、気分の悪い気持ちで、その店を後にした。
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