第32話 服と新たな目的
ミルちゃんの家から離れて数十分。この国の中心部にあるメインストリートに足を運んだ。道に沿うようにして、雑貨屋、道具屋、武具屋、武器屋と、色々な店が並んでる。
僕達は、次の国に向けて、食料や武器防具の補給をしに来ていた。
「これでいいかな」
僕は、食料が入っているバッグを背負う。念のために多めに買ったが、流石に重い……。レイとミルちゃんが「私が持つ(ちます)!」と言ったが、女の子に、これは持たせられない。こういう時のための男だろう。「大丈夫だよ」とやんわり断るが、何度か食い下がった。しかし、言っても無駄だと判断したのか、不満そうな顔して渋々引き下がってくれた。
「さてと、次はあそこだ」
「えっ、あれですか?」
僕が目線を向けた店に、二人はキョトンとした。それもそうだ。何故なら、その店は、女の子の服だけを扱う店だからだ。
外にサンプルとして、小さなマネキンに女の子の服が着せられていた。赤を基調にしたワンピースが店先に出されていることによって、人の目を集めているのだろう。僕も、その集められた一人だ。
「よく考えたら、年頃の女の子に、毎日同じ服を着せるのはマズイなって思って」
「……私は別に」
「わ、私もです!今はこの服で十分ですし……!」
僕は、二人の服を見る。レイは、村から着てきた、白色のモコモコの服で、ミルちゃんは少し大きめの、黒色の長袖を着ていた。今のままでも十分可愛いが、流石にこの服を毎日着させられない。食料などの最低限の物は買い終わったので、その余りのお金で買うつもりだ。
「さっ、行こ」
「あっ……」
僕は、二人の手を握って、お店へ向かった。レイとミルちゃんの顔が少しニヤケている気がする。やっぱりか。女の子はやっぱり可愛い服が好きなのだ。これから行く店に、胸をときめかせているのだろう。よかったよかった。
店内に入ると、色々な服が棚に綺麗に収納され、またハンガーなどにかけてあった。店内を見渡すと、当然のように女性や女の子が多かった。ちらほらと男性がいるのは、父親か彼氏なのだろう。
「何が欲しい?僕、こういうの全然分からなくて……」
元の世界では、パーカー愛用者だった僕は、ファッションなどに興味はなかった。だから、どんな物が良いか等、僕は全く分からない。
「あら、ご兄妹の方ですか?可愛らしい妹さんですね」
僕が服とにらめっこしていると、お店の店員さんだと思われる女性が話しかけてきた。どこかふわふわな雰囲気に、優しい笑顔が印象的な女性は、接客業をするために生まれてきたのではないかと錯覚するほど様になっていた。
「えっと、あの……この子達の服を見てまして……。この子達に、似合う服ってありますか……?」
あいも変わらずコミュ症を発揮して、しどろもどろになりながらも、ふたりの服を見繕って貰うよう頼んだ。僕よりも遥かにセンスも知識もある店員さんに任せた方が良いだろう。
「分かりました。少々お待ちください」
女性店員さんはそう言うと、棚やハンガーなどから服を取り出し、何着か僕達の元に持ってきた。見ると、6着以上はあるであろう服の山を僕に手渡す。なるほど。この中なら一着くらい二人に似合う服があるかもしれない。
「では、もう一人分の服を持ってきますね」
「へっ……?」
これが二人分じゃないのか……?まさか一人分だけで6着以上持ってくるとは予想していなかった。この服を全部買うわけにもいかないから、この中から似合う一着を見つけ出さなければならない。僕が軽くげんなりしていると、横から熱い視線を感じた。
「わぁ……」
「すごいです……」
二人の目が、服をみたとたん輝きだした。……やはり女の子にとって、服とは魅力的なようだ。嬉しそうな二人を見て、この山から一着選ぶなんて大したことないと思い、ふっと笑った。
◇ ◇ ◇
「これなんてどうでしょうか!?」
……あれから数時間。僕達は、未だレイとミルちゃんの服を選んでいた。横には、多くの服の数。
どうやら、この女性店員さんは、可愛い服を着る女の子が大好きなようで、レイ達が試着する度、徐々に興奮してきたらしく、いろんな服をレイとミルちゃんに着せていた。すでに二人は、女性店員さんの着せ替え人形になっていた。
「あぁ、こんなに可愛らしい女の子に、可愛い服を、この手で着せられる日が来ようとは……!」
最初の笑顔は営業スマイルだったらしく、今は興奮やらで違う意味での笑顔になってた。今の笑顔の方がいきいきとしているのは、見間違えではないだろう。
流石のレイ達も疲れてきたのか、喜んでいた顔も、今では真顔だ。この歳で心を無にするとは、この子達すごい。
「……!この服は……」
流石にこれ以上ここにいる訳にもいかず、知識がないなりに服を探し始めた。すると、棚の一番上の右奥。目立たない場所に置かれたその服に、僕は衝撃を受けた。
「これって……制服……?」
黒のブレザーに、チェックのスカート。流石にワイシャツまではなかったが、手触りといい、これが学校の制服なのは間違いない。それも、日本の……。
「なんでこんな物が……」
元の世界では見慣れた物だが、この世界ではあるはずのない服。僕は、この服を見て、ある可能性に行き当たった。
「僕以外にも……日本人が……?」
「どうかされました?」
僕が、制服を握りしめて動揺していると、女性店員さんが僕に話しかけてきた。咄嗟に僕は、「いえ……」と答えたが、未だ動揺が残っていたのか、声が震えていた。
女性店員さんは、そんな僕を不審そうに見つめた後、手に握られていた制服を見て、「あぁ」と、何かを察したような声を出した。
「その服、珍しいですよね。私もこの店に来るまで見たことも無かったです」
どうやら、この服は普段、あまり売られていないらしい。その事実が、より一層、日本人がこの世界にいると言う事実を裏付けていた。
「あの……この服、どこで仕入れたか分かりますか?」
もしかしたら、日本人に会えるかも……と、少し期待しながら訪ねた。
「少々お待ちください。仕入表を確認してみます」
女性店員さんは、店の奥にあるドアに入って行った。そして数十分後。女性店員さんが、名簿を持って扉から出てきた。眉間にシワが寄っており、とても難しそうな顔をしていた。
「……どうかされましたか?」
「いえ……、仕入表を確認したのですが、その服の仕入先がどころか、名前すら無いんです……」
どこで入手したのか、どんな名前なのか、全てが不明な服。こんな事は初めてだと、女性店員さんは言った。やはりそんな簡単にはいかないかと、少し肩を落としたが、新たな目的もできた。
(僕以外の日本人……、どんな人なのか見てみたい)
これは、僕の勝手な目的だから、レイ達を付き合わせる訳にはいかない。この事は黙っておいた方がーー
「……拓様。何か、隠し事をしようとしてませんか?」
「うぐっ……」
「バレバレですよ」
二人に、あっさりとバレてしまった。何とか誤魔化せないかとレイ達を見るが、真っ直ぐな眼差しに、誤魔化せそうにないと諦める。日本人という部分は触れずに、自分の同郷の人がいるかも知れないと、二人に話した。
「……では、今後はその人の捜索も目的に追加ですね」
「拓さんと同じ国出身の人か……どんな人なんだろう」
二人が、すぐに僕の目的に賛成してくれた事に、どこかこそばゆい思いをしながら、二人にお礼を言った。
「では、お二人の服を選ぶ続きを始めましょう!」
女性店員さんの、その一言で、先ほどまで微笑んでいたレイ達の表情が、一瞬して無になった。
……頑張れ。僕は、そう応援するしか出来なかった。
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