第26話 もう一つの部屋

「何してるんだっ!!待て!!」


 僕に見つかってミラス王(?)は、慌てて奥の扉の中に入っていった。僕もすかさずミラス王(?)を追って扉を開く。


「な……なんだよこれ……」


 しかし、扉の向こうに待っていた光景は、僕の想像をはるかに超えた地獄だった。女の子が鎖で首を繋がれており、首についているのは、ミルちゃんが付けているのと同じ物だと分かった。服も薄い布生地に汚れが付いており、どんな扱いされたか想像に難くない。女の子の顔は、絶望しきった顔で涙を流していた。体には異常なまで痣があり目を背けたくなる。


「くっ!!まさかゴートがやられるとは……!!」


 部屋の奥に、ミルちゃんを拘束しているミラス王(?)の姿があった。顔に脂汗を滲ませて、焦りの表情をしている。そして、おもむろに近くにいた女の子の鎖を外し、自分の前に押しやる。


「さっさと立てこのグズ!!役に立たねぇんだから、せめて俺の壁となれ!!」


 そう言って、次々と女の子を壁と称して自分の前に投げ捨てる。女の子達は、僕に斬られると思い、また涙を流した。しかし、叫ぶ事なくただ震えているだけだった。


「この……クズ野郎がっ!!」


 僕は、その光景に耐えきれず叫ぶ。怒りで体が震える。今すぐにでもミラス王(?)を叩斬ってやりたい。しかし、考えもなしに突っ込んで剣を振るっても、狭いこの部屋だと女の子達にも当たってしまう可能性がある。そんな事は絶対してはいけない。


「クックック……お前は甘いなぁ」


 ミラス王(?)は、ミルちゃんと女の子を手繰り寄せ、二人の首の前でポケットからナイフを取り出し押し当てる。ミラス王(?)は卑しい顔を浮かべ、口元を釣り上げた。既にその顔には焦りなどなかった。


「剣を戻せ。でなければ、こいつらがどうなっても知らんぞ?」

「くそっ……!!」


 ここで逆らえば、皆んなが危険に晒される。僕は渋々ミラス王(?)の指示に従う。ロングソードを投げ捨て、レイは人の姿に戻り、僕の隣に立った。レイは、ミラス王(?)を親の仇のように睨んでいた。


「そうだな……そこの女もこっちに来い」

「なっ……!?」


 ミラス王(?)は、 ニタニタと気持ちの悪い顔でレイを見る。当然、そんな事従えるはずがない。僕はレイを抱き寄せ、ミラス王を睨みつける。しかし、ミラス王(?)は、手に持っているナイフを僕に見せつけるかのように上下に動かす。くっ!と奥歯を噛み締め、悔しさを噛み殺す。


「……大丈夫ですよ、拓様」

「レイ……?」


 レイは、僕の腕を解き、ミラス王(?)の方に向かっていく。待って!と声をかけると、レイは振り返って微笑んだ。


「……拓様なら、助けてくれると信じていますから」

「っ!!」


 ミラス王(?)の所に行くなんて、レイも嫌な筈だ。だけど、ミルちゃんや他の皆んなの事を考えると、自分も人質になるのが最善だと考えたのだろう。とても危険な事だ。それでも、信じてくれたのだ。この僕を。元の世界ではイジメられて自殺した僕なんかを、信じてくれているのだ。……その信頼を、裏切れるわけない。


「絶対に……皆んなを助け出してみせる……!絶対にだ!!」


 これは決意だ。誓いだ。自分の心に刻み込むように叫ぶ。ミラス王(?)は、そんな僕を嘲笑った。


「クックックッ……この女さえ奪っちまえばお前は何も出来まい!」


 どうする……武器はゼロ、道具もポーションだけ。考えろ!考えろっ!!僕は部屋全体に視線を巡らせる。部屋にあるのは、女の子が繋がれていた鎖、そして調教にでも使ったのか鞭が、真横にある棚にあった。


(これだけあれば……!)


 僕は棚にあった鞭を手に取る。使い古されてボロボロだが、打つ部分は長く、リーチが長い。これならいけるはずだ。ミラス王(?)は、鞭を手に取った僕に警戒する。


「妙な真似をするなっ!?少しでも動いたら、コイツらの首元を掻っ切ってやる!!」

「動かないよ。だって……」


 動く必要なんてないのだから。僕は手に持っていた鞭で、ナイフを持っている手に打ち込む。突然訪れた痛みに、ミラス王(?)は思わず手からナイフを落としてしまう。そして、近くにあった鎖をナイフに当てて遠くへ飛ばした。


「くそがぁ!!」


 ミラス王(?)は、優位に立ってたのが一転して、劣勢になり苛立ちを隠せていない。レイとミルちゃんは、自分達を脅す物が無くなり、もう傍にいる必要がないと判断したのかミラス王(?)の傍から離れ、僕の所へ戻ってきた。


「すごい……」

「……拓様ですから当然です」


 ミルちゃんの感想に、レイがドヤ顔をする。レイさん、何故あなたが得意そうにしているのですかね?そんな事をしている間も、ミラス王(?)は、頭を掻きむしって額に青筋を浮かべている。


「もう諦めたらどうだ」

「諦める?この俺が?」


 ミラス王(?)は静かに呟く。


「そんな事、するかぁぁぁ!!」

「っ!?」


 ミラス王(?)は、急にこちらに突進してきた。反射的に体を仰け反って躱すと、ミラス王はそのまま部屋の外へと走っていく。逃すか!と追うと、ミラス王は引き出しの中から小さな箱を取り出しているところだった。そして、ミラス王(?)がその箱を開けると、紫の禍々しい光を放つ水晶が入っていた。


 


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