第25話 逆転

 幾度となく金属がぶつかり合う音が、部屋一帯に響き渡っていた。剣と剣が重なり合う度に空気が揺れる。繰り出される斬撃を弾き返し、また受け流して攻撃を避ける。攻撃をしようと追撃するも、すぐさま反応され剣で防がれる。


「はぁっ……はぁっ……」


 ……やばいな。体に疲れを感じ始め、攻撃の精度や速度などが落ちている。もしこのまま戦い続けるとなると、不利になるのは僕の方だ。ゴートは人造人間だからスタミナという概念は存在しない。


『……少し時間を稼いでください』

「えっ……?」


 レイは急に僕にそう言った。初めは何言ってるか分からなかったけど、レイを見てすぐに分かった。


『我が身に力を与えよ……』


 レイが詠唱を始める。剣が徐々に発光し、光をその身に纏い始める。そう、レイは魔法を使おうとしているのだ。以前にグラインとの戦いで活躍したあの魔法だ。あの魔法なら、いくら硬い人造人間だろうが関係ないはずだ。


「……!」


 ゴートは剣の異変に気付き、剣を振り上げて突っ込んでくる。僕はそれを左に避け、出来るだけゴートと間合いを取る。剣を掠めた壁や棚は抉れ、その剣の威力を見せつけていた。でも、僕は止まるわけにはいかない……少しでも詠唱の時間を稼ぐために。そして、その時はやってきた。


『道を開け!シャイニングソード!!』


 剣は完全に光を纏い、眩い光を主張するかのように部屋中を照らす。僕は光り輝く剣を構え、ゴートに接近する。所詮は機械、急に間合いを詰められ、次の行動へと移りきれていない。


(今ならいける……!!)


 そう確信し、剣を横に振りかぶる。狙うは首。胴体を切断しても完全に戦闘不能になるかは不明。だが、頭を切断できれば、少なくとも視界は奪える。そう思い僕は首に向けて剣を振るった。……しかし直後、そんな考えは浅はかだと実感した。


「なっ……!?」


 ガキンッと鈍い金属音が鳴る。剣は確かに首を捉えていた筈だ。しかし、今僕の剣が捉えているのは、左腕に付いている剣だった。驚くのも束の間、横から強い衝撃が加わる。


「ぐっ!?」


 咄嗟に腕で防御したが、そのまま僕は吹き飛ばされた。転がりながらも態勢を作り、足から着地して勢いを殺す。殴られたのが右腕のランチャーで良かった。もし左腕の剣だったら、僕はタダでは済まなかっただろう。


「速い……見えなかった……」


 いくらレイの魔法が強力でも、首に剣が届かなくては意味がない。僕は諦めずに何度もゴートに接近して首を狙った。しかし、どんなに死角から攻めても必ず剣で防御される。防御された剣を、滑らせて首を狙うも、強い力で振り払われた。


 ……八方塞がり。ただただ時間が過ぎ、次第に僕の体力も底を突こうとしていた。息は上がり、肺も痛い。光を発していた剣も、いつのまにか光を失っていた。ゴートを見ると、一切疲れた様子もなく、こちらを見下ろしている。圧倒的不利。


(くそっ……魔法が奴の首に届けば…!……っ!これは……)


 腰に手を当てると、ある感触が手に伝わる。……出来るかもしれない。これを使えば、ゴートに刃が届くかもしれない。僕は最後の望みを、腰に携えていた物に託した。


 「はぁあぁあ!!」


 僕は叫びながらゴートとの間合いを詰める。ゴートがそれに対応するために、ランチャーを構える。銃口の中で熱されている火薬を見てすぐに横へ避ける。僕のすぐ横をランチャーの弾は通り過ぎ、背後で爆発音が聞こえた。しかし、僕は振り返らず前へ疾走する。ゴートの背後に回り、剣を首にめがけて振るった。


「…………!!」


 予想通り、ゴートは剣を防御した。道具屋で買ったロングソードを。ゴートは剣が変わっている事に気付き、間合いを取ろうとした。しかし、もう遅い。


『道を開け!シャイニングソード!!』


 逆の手に持っていたレイの剣を、ゴートの首にめがけて振るう。ロングソードに対応してしまった左腕の剣ではもう間に合わない。しかし、ゴートは右腕のランチャーで防御した。しかし、もう引き下がれない。これが最初で最後のチャンスなのだから。


「いけぇぇぇぇ!!」


 僕は全力で剣を振るった。レイの剣はランチャーを切断して、そのまま一直線にゴートの首に向かって刃を走らせる。そして、終わるのは一瞬だった。バキッと何かが折れる音と共に、ゴートの頭部と胴体が分かれる。支えを無くした頭部は、地面に無造作に転がり、胴体は力なく倒れる。そして、数秒もしないうちにピクリとも動かなくなった。


「か……ったのか……?」


 イマイチ実感が出来ないまま、力なくその場にヘタリ込む。しかしすぐに、ミルちゃんの事を思い出して、避難させた場所へと向かう。ミルちゃんがいるであろう破壊された穴を覗き込む。


「っ……!?」


 確かのそこにはミルちゃんはいた。しかしそれは、ミラス王(?)に口を塞がれ、奥に続くドアへ連れてかれる瞬間だった。

 









 

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