第24話 人造人間

 僕の視線の先には、先程まで戦っていた兵と軍服までは同じでも、殺気や筋肉などは他の兵など比べ物にならないくらい鋭く大きいゴートが佇んでいた。その視線は真っ直ぐ僕を見据えており、ゴートの威圧とも呼べる迫力が僕の肌をピリつかせる。


(ミルちゃんを逃がしたいのに……くそっ!!) 


 今、胸の中にいるミルちゃんを逃がそうとしても、ゴートやミラス王(?)は逃がしてはくれないだろう。頬に伝う汗を拭うのも忘れ、ゴートに全神経を向ける。一瞬でも気を抜けば殺られる……そんな確信があった。先程から煩い心臓の音を感じながら、瞬時に動ける姿勢を作る。そして、始まるのは一瞬だった。


「っ!?」


 ゴートは地面を蹴り、僕との間合いを瞬時に詰める。それを、半ば反射で横に飛び回避する。すると、ゴートの拳は僕の背後にあった壁をいとも簡単に粉砕する。その余波により、僕は避けた先にあった木箱に体ごと衝突する。痛む体をそっちのけで胸に抱えていたミルちゃん達の無事を確認する。


「よかった……」


 見た感じどこにも傷があるようには見えない。ホッと息をするのもつかの間、ゴートは振り抜いた拳を引き、僕の方を見る。


(またあのデカイのが来る……!)


 先程は奇跡的に避けられたが、今度も避けられる保証などどこにもない。それに、胸の中にいるミルちゃんやレイもこのままでは危ない。


「レイ、今剣になれる……?」

「……なれます!」


 レイは体を発光させると、僕の右手に吸い込まれるようにして僕の手元に戻る。あとはミルちゃんだけだ。出口から……いや、出口は僕達の真反対にある。あそこまでミルちゃんを逃すのは至難の業だろう。そもそも、僕が無理してあの扉からミルちゃんを逃したとして、そこから外まで守ってあげられない。


(あれは……)


 僕が壁に視線を向けると、先程ゴートが壁を粉砕して現れた時に出来たと思われる大きな穴があった。距離もそれほど遠くない場所にある。あそこなら、逃すのは無理でも避難させることぐらいは出来るかもしれない。


「ミルちゃん!あの壁の穴に向かって走って!」

「で、でも……!」

「大丈夫、ゴートは僕達が止めるから!早く行って!」


 ミルちゃんは意を決したように、穴に向かって走り出した。ゴートが穴に向かっているミルちゃんに視線を向け、大きな手をミルちゃんに伸ばし捕まえようとする。


「させるかっ!!」


 僕はさせまいとゴートに剣を振るう。しかし、ゴートは片手だけで剣を受け止め、もう片方の手でミルちゃんを捕まえようとする。


「だから、させないって言ってるだろっ!!」


 僕は掴まれてビクともしない剣の柄にぶら下がり、前後に勢いを付けてゴートの顎を蹴り上げる。ゴートは急な死角からの衝撃にヨロリとバランスを崩す。剣を掴んでいた手も緩み、剣を自由に動かせるようになった。僕はこれを好機と思い、剣をゴートに向けて振りかぶる。


「………!」


 しかしゴートは、バランスを崩した体勢から僕の横腹を蹴りつける。ぐらりと揺れる視界で、振り上げた剣をゴートめがけて振り下ろす。しかし、横腹を蹴られて狙いがずれ、ゴートの右肩に刃が当たる。


「っ……!硬っ!?」


 振り下ろした剣は、ゴートの右肩に当たった瞬間、火花を散らして跳ね返される。まるで鉄でも斬っているような感覚を感じながら、僕は後ろに飛びゴートから距離を取る。


「はぁっ……はぁっ……」


 流石に、大勢の兵を相手にした直後に、ミラス王(?)とゴートと戦うのは体力的にも辛い。徐々に脚も重くなってきている。このまま持久戦に持っていかれるのはまずい。少しでも体力を回復させようと、ゴートと一定の距離を保つ。


「なっ……!」


 しかし、それは長く続かなかった。突然ゴートの右腕が機械のように形態を変え、まるでランチャーのようになる。その銃口は僕に向けられ、銃口の中では火薬が熱され、赤く光り出している。


「おいおいおいっ……冗談だろ……!?」


 まさかの攻撃に驚愕しているのも束の間、恐らくすぐに発射される砲撃を避けようと右に転がる。その瞬間、先程まで立っていた場所に、爆音と共に大きな閃光が通過した。その衝撃波を受けながら転がり続け、部屋にあった本棚に激突する。


「まじ……かよ……」


 閃光が納まり、閃光が通過した場所を見て愕然とした。そこには、壁も天井も残っていない無残な部屋の一部があった。もし、あの砲撃をまともに受けていれば命はなかっただろう。ゴートはゆっくりと銃口を下ろし、僕達を見る。その瞳は、赤々と輝いていた。


「なるほどね……さっきの金属みたいな感触はそれが原因かよ……」


 ランチャーの形になった右腕を見ながら吐き捨てるように言う。ランチャーは連続で撃つ事は出来ないのか、すぐに撃ってこない。僕は、またランチャーを使われる前にケリをつけようとゴートに剣を振るう。


「くっ……またかよ……!」


 しかしその剣は、同じく剣の形になった左腕で受け止められる。右腕にはランチャー、左腕には剣、僕はこれを見てある物を想像した。ーー人造人間。人の手によって作られた人間。ゴートの姿はそれに相応しい姿をしていた。笑えない現実に、僕は心の中で舌打ちをした。







 


 



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