第22話 救世主
王城の中で鳴り響く金属音。大勢の兵達が侵入者を排除しようと剣を振るが、全て弾き返され反撃される。誰一人として、その男を止めれる者はいなかった。まさに、王城の広間は乱戦状態になっていた。
「くそっ……やはり敵が多いな……」
頬に伝う汗を拭いながら、僕は顔を顰めた。早く3階に続く階段を探し出して登りたいが、どれだけ兵を気絶させても次から次へと兵が向かってくる。正直、殺さないで戦うのが面倒になってきた……。そんな時だった。
「ぐぁっ!?」
「な、何だ!?どうした!?」
急に一人の兵が倒れる。そして、それをキッカケに次から次へと兵が倒ていく。側にいた兵が声をかけるが、既に意識が無いのか返事がない。僕ですら困惑している中、城中に響き渡る声がひとつ。
「やぁ、一昨日ぶりだね。冒険者君」
「イシュタル!?何でここに!?」
そこには、白髪のイケメンが立っていた。四本の注射器を全部の指と指の間を使い、器用に持っている。それを、目の前に向かって投げる。注射器が刺さった兵は、そのままバタリと倒れてしまった。
「僕が作るのは、お薬だけじゃないんだよね」
「おい……大丈夫なのか……?」
「大丈夫、これただの麻痺毒だから。でも、この毒は3時間は動けないから安心して」
イシュタルは爽やかな笑顔でとんでもない事を言った。僕はそれに若干引きながら、何故ここにいるか聞いた。
「街の人達が君たちの事を話しててね。それを聞いたら居ても立っても居られなくてね」
「何でそこまで……」
してくれるんだ……と言おうとした瞬間、イシュタルの背後から兵が攻撃しようとしていた。「危ない!!」と叫ぼうしたが、イシュタルは流れるような動作で兵の攻撃を避け、すぐさま手に持っていた注射器を刺す。あまりにも無駄のない動きに呆気にとられた。
「どうやらお話している時間はないみたいだよ。ここは僕に任せて冒険者君は行って」
「……お願いします」
聞きたい事は山ほどある。だが、今はミルちゃんの救出が最優先だ。あの動きなら、どんなに兵が束になっても簡単にはやられないだろう。僕は、広間の右手にある通路に入り、一直線に通路を走り抜けた。
◇ ◇ ◇
「見つからねぇ!!」
あれから全速力で走り、攻撃してくる兵を気絶させながら階段を探したが、一向に見つからない。この屋敷がデカすぎる……それも思った以上に。
「くそっ……時間がないのに……」
早くミルちゃんを見つけないと、手遅れになってしまう可能性がある。そうなる前に助け出したいが、階段が見つからねければミラス王の部屋に辿りつけない。
「どうしたら……あっ」
その時僕は、ある事を思いついた。そもそも、何故こんな簡単な事に気付かなかったのか自分でも恥ずかしく思う。だって今の僕には、この方法を実行できるだけの力を持っているのだから。
「はぁっ!!」
僕はレイの剣で天井を切りつけると、天井がガラガラと大きな音を立てて崩壊する。僕はその場から退避し、崩壊が納まるのを待つ。
「納まったか?」
僕は崩壊が納まったのを確認し、崩れて穴が空いた天井に向かって思い切り地面を蹴り跳躍する。二階の床の淵に手をかけ、体を上下に揺らし、勢いをつけて再び上に体を放り投げる。
「よっ」
バランスよく床に着地する。うん。この方が楽だし速い。それに、この城がどうなろうと僕には関係ないしね。そんな下衆の極みみたいな事を考えながら、同じように天井を切りつけて、三階に向かう。
◇ ◇ ◇
拓が天井を突き破る少し前。ミラス王は自分の部屋にある隠し部屋にミルを閉じ込めていた。隠し部屋は、クローゼットの裏にあるから、一見しただけでは分からない。クローゼットの中にある特定のハンガーをある角度まで傾けると開く仕組みだ。
「さて、どうしたもんかねぇ」
「…………」
ミラス王は、ミルの体を値踏みするかのように見る。舐め回すような視線に嫌悪感を感じながらも、抵抗する気力を失ったミルは、ただただ黙って拘束されていた。後ろで手錠をされているのだから、抵抗したところで無駄だと知っているけれど。
「まぁ、まずはこれを付けるか」
「何これ……」
ミラス王はミルに鉄で出来たとても簡素な首輪を付けた。まるでミルをペットにでもするように。
「これは『奴隷の首輪』と言ってな。もし俺に反抗的な態度をとったり、命令に背いたりした瞬間、想像を絶するような痛みが全身を駆け巡るのだ。俺の奴隷には皆にこれを付けさせている」
「っ……!?」
今すぐにも取り外したいが、手を拘束されているため外せない。ミラス王はその様子を愉快げに見ていた。
「これで今日からお前は俺の奴隷だ。一生な」
「いや……いや……」
ミラス王は、ミルの頬を撫でて醜悪な笑みを浮かべる。ミルは今後の人生の事を考えて涙を流す。
(助けて……)
その時、ふと拓とレイの姿が脳裏に浮かぶ。広場で助けてくれた優しくて強い二人組。
「けて……」
「あ?」
あの時、自分から連れて行けと言ったのだから、拓達が助けに来てくれるはずがない。そう思いながらも、本能は救いを求めていた。もし今、本心を言えるなら……。
「誰か……助けて……!!」
ミルはそう叫んだ。
「うん。助けるよ」
「……え?」
その瞬間だった。隠し部屋の扉に一本の線が入り崩れるのは。
「やっと本心を叫んでくれたね」
「なん……で……?」
何で……ここにいるのだろう。そんな疑問に答えるように“彼”はミルに微笑む。
「今、助けるから。待ってて」
彼……拓が剣を構えて立っていた。
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