第21話 国王の真実

 静かな夜。だがそれは、一人の男と武器に変身出来る女の子が城に攻め込むまでの話。


「クックックッ……今回は上物を手に入れた」


 ミラス王は、城へ帰還するために馬車の中にいた。ガラガラと音を立て馬車は走る。ミラス王は久々の上物に気分が高揚していた。しかし、ミラス王の隣に座らされている女の子は、ずっと暗い顔をしたままだった。


「まさかお主がここにいるとはな……ミル・ミラス」

「ミラス……?私がミラスな訳……」


 ミルの記憶では、自分はいたって平凡な、普通の家に生まれたはずだ。ミラス王はそこで口の端を吊り上げる。


「お前……親がどうなったか知ってるのか?」

「た、確か魔物に襲われたって……おばさんがそう言って……」

 

 両親は、ミルがまだ物心つく前に魔物に襲われて亡くなったと、育ててくれたおばさんから聞かされた。しかし、ミルの発言に、ミラス王はクックックッ……と嗤う。


「お前の両親は魔物に襲われたんじゃない……俺が殺したんだ!」

「ーーーー!!」


 ミラス王は心底愉快げに、愕然としているミルを見る。


「そ……んな事……だって私達はっ!!」

「『ミラス家じゃない。王家なんかじゃない』か?」

「…………」


 見透かされているようで気分が悪い。そう思いながらも、ミラス王は何かを知っているのは事実……そう言い聞かせて耳を傾ける。


「これは数年前の話だ。この国には大層仲の良い王と王妃がいた」


 ミラス王は、まるで昔話を話すように淡々と述べていく。


「兵や民からも信用され、この国は安泰と言われていた。しかし突如、どこから来たかも知れぬ男に王城への侵入を許してしまい、それをキッカケに兵達が一瞬にして反旗を翻した」

「…………」

「王城はわずか一夜にして落とされ、王と王妃は信頼していた兵達に串刺しにされてしまった。しかし、いち早く異変に気付いた王は、自分の娘を世話役と一緒に抜け道を利用して逃した」

「まさか……その娘って……」


 ミラス王は、まるで肯定するようにニヤリと嗤う。ミルは、自分の中で“何か”がヒビ割れたような感覚に襲われる。しかし、ある疑問がまだ“何か”を崩れないように抑え込んでいる。


「でも……すぐに兵隊さん達が裏切るなんてありえません……」

「まぁ、そうだな……

「…………え?」

「その男はある道具を持っていた。数十年前に危険すぎると封印された魔道具の一つ『支配の水晶』を」

「っ……!?」

「名前くらいは聞いた事あるみたいだな。クックックッ……」


 確かに聞いた事があった。前におばさんから昔には三大禁忌魔法道具があったと聞かされた。今はどこかに封印されているが、もし発見されれば、一つの国を揺るがす存在になると。


「いや〜……本当の助かったよ、この水晶には」


 ミラス王はそう言って、懐からある水晶を取り出した。その水晶は、紫色の靄がかかっており異様な存在感を発揮していた。ミラス王は、それを大事そうに撫でている。


「まさか……それで……」

「察しがいいな。あぁ、これで兵達を操ったんだよ。いやぁ、笑ったよ。なんせ、自分達が慕ってた王を自分達が串刺しにするんだもんなぁ。おかげで、俺は手を汚さずに済んだしな」


 どこまでが本当か分からない。全て嘘かもしれない。しかし、それをミルに判断は出来なかった。突きつけられた現実に絶望するしかなかった。ミラス王はそれを見て、愉快そうに高笑いをした……。


 ◇ ◇ ◇


「がはっ!?」


 僕は寄ってきた兵を剣の峰でなぎ倒す。これはあくまでミルちゃんの救出が目的なので、極力兵を殺さない方針で制圧する。しかし、この時僕は忘れていたのだ。


「……またやっちゃった……」


 僕には『身体能力および五感の底上げの加護』がある。今までは魔王の幹部だったり魔物だったりと、そこまで気を使う必要が無かったから、あまり気にしていなかったけど、普通の兵に攻撃すると、少し力入れただけで吹っ飛んでいく。これでは、最悪殺してしまうかもしれない……。


『拓様って、力がお強いんですね……』


 レイも若干引いている。そんな事がありながらも、難なく王城の中へと突入した。王城中は、あまり連携が取れていないのか、あまり兵が集まっていなかった。その事に少し疑問に思いながらも、飛んできた剣先をサラリと避けて柄で殴る。四方八方から攻撃されるが、今までの相手よりは剣速が遅い。


「ミルちゃんはどこだ……?」


 突入したのはいいが、どこにミルちゃんがいるか分からない。どうしようか……と考えてると、目の前に兵が現れる。その瞬間、ある事を思いついた。


「よっ」

「がっ!?」


 先程よりも優しく蹴り飛ばす。すると、兵は腹を抱えて蹲る。その隙に、辺りに立っている数人の兵を剣の峰や柄で殴り、気絶させる。辺りを見渡して、敵兵がいない事を確認して、先程蹴り飛ばした兵に剣を突きつける。


「っ……!?」

「今日連れてこられた娘の居場所を吐け」

「お前は……!誰がそんな事……っ!?」


 僕は威嚇のために兵の前に剣を突き刺す。それを見て、流石の自分の命が危ないと察したのか、悔しそうに話す。


「3階にあるミラス様の部屋の隠し部屋にいるだろう……。だがな、お前はそこに辿り着けないっ!!絶対にな!!」

「絶対だと?何故そんな事……くっ!!」


 兵の言葉の意味を聞き出す前に、奥から追加の兵がゾロゾロと出てきた。内心舌打ちをして、兵へ対応する。目標である三階を頭に浮かべながら。



 






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