第20話 侵入

「助け……ないとっ!!」


 僕は弱っている体に鞭を入れ、ミラス王達を追いかけようとする。しかし、すぐにレイに止められた。


「……だめです!今の体では、たとえ追いついたとしても返り討ちにされるだけです……!」

「っ……!」


 図星だった。今でも足がフラついているのに、追いついたとして何ができる?ゴートと呼ばれたあの兵にまた殴られ無様に転げ回るのがオチだ。そんなの、自分がよく分かっている。分かっているけど……!


「くそっ!!」


 僕は激情に任せて壁を叩いた。また……守れなかった。ミルちゃんが自分を連れて行けといった時の表情……とても辛そうだった。あの提案がミルちゃんの本意でない事は誰でも分かる。あれは……僕達を守るために……。そこまで考えた時に、自分の無力さに絶望した。レイの村から戦闘に少しは慣れたと思っていた。今なら……と少しは思っていた。でも、現実は違った。あの時と何も変わらない。何も変われていなかった。


「…………」


レイは何も言えずにいた。何の言葉をかけていいか、まだ12歳ぐらいの子だ。こんな自分にかける言葉が見つかるほど人生経験は多くない。


「……あの、先程のはいったい……」


 レイが近くにいた男の人に先程の事を聞く。突然街にミラス王自身が来て、ミルちゃんを連れて行った。流石にこれを日常で済ますには異常すぎる。僕もその話に耳を傾ける。


「……あれは審査だよ。ミラス王の奴隷になるに相応しいか否か。年は15歳未満の女が対象のね。目に適った子をその場で選び、自分の奴隷にする忌まわしい催しだよ……」


 それで、今回はミルちゃんがそれに選ばれてしまった……って事か。聞いているだけで胸糞が悪くなる。


「あんた達は正しいよ。女の子が連れてかれるのを止めようとして。私達はただ見てるだけしか出来なかった……」


 男の人は自嘲するかのように薄く笑う。他の人達も暗い顔をしている。そして、辺りを見渡すとある事に気付く。それは、分かっていたはずの事実。だけど、無意識に否定をしていた事実。


「……もしかして、この街に女の子が少ないのって……」

「……………」


 無言。それは静かに僕の言葉を肯定するようだった。自分の身内が連れていかれて何をしているんだと怒鳴りたくなるが、出来なかった。出来るわけなかった。この自分の無力さへの悔しさを押し殺している表情を見れば。


「皆さんは……悔しくないんですか?」

「そんな事……!」


分かりきっている事を聞く。でも、確かめないといけない。


「なら、一緒に戦いましょうよ。怖がってないで、怖じ気付いてないで一緒に戦いましょうよ。でないと、何も変わりませんよ」

「っ……!君に何が分かるんだっ!?つい最近この街に来たばかりの君に!!」

「分かりません。でも、何も出来なかった悔しさなら誰よりも分かるつもりです」


 僕が守ると決めた村が目の前で消えて、泣いて嘆いて……そして自分の無力さや弱さを恨んだ。だから強くなろうと決意したんだ。


「……僕は行きます」


 僕は振り向いて、向こうに見える丘の上を睨む。そこには、とても大きな城が建ってた。恐らくあそこがミラス王の城だろう。レイの方を見ると、レイも僕の方を見ていた。その目には、もう覚悟は決まったという意思が込められている。


「行こうか」

「……はい」


 僕はミラス王がいる王城に向かって歩き出した。


◇ ◇ ◇


 僕とレイはミラス王の王城前に来ていた。王城は高く頑丈そうな塀に囲まれており、唯一の出入り口である城門の前には、兵が二人で門番をしていた。僕達は、近くの茂みに隠れて様子を窺っている。


「……良いのですか?流石の拓様でも、城に正面から突っ込めば……」

「かもね。でも、だからと言って塀を壊そうにも固そうだし、飛び越えるのも困難。残るのは正面突破しかないでしょ」


 僕は「それに……」と続ける。


「どうせ遅かれ早かれバレるんだから。ね?」


 僕がそう言うと、半ば諦めのような溜息をレイは吐いた。そして、レイの体が淡く光り剣の形になる。こうすればレイは危険な目には逢わないだろう。右にレイの剣を握り、左にロングソードを持つ。いわゆる二刀流というやつだ。『どんな武器でも使いこなせる加護』を持っているいまなら、二刀流でも戦えるだろう。


 「よし……行くぞ!!」


 僕は回復ポーションを口に流し込んだ後、掛け声と共に茂みを飛び出す。急に現れた僕に兵達は驚き、剣を抜くのが一瞬遅れた。僕はその一瞬の間に、二人の兵達の間に潜り込み、両手に持っている剣の峰で胴体を殴りつける。


「ぐぁっ!?」

「がっ!?」


 二人の兵は勢いよく壁に衝突し気絶したようだ。今回はあくまでミルちゃんを助ける事が目的だ。あまり人を人を斬りたくない。僕は目の前に佇んでいる城門の扉を足で思いきり蹴り飛ばし開ける。


「なんだっ!?敵襲か!?」


 扉は大きな音を立てて開き、城内にいる兵達が一斉にこちらを向く。ふぅ……と深く息を吐き、僕は城内に足を踏み入れ駆け出した。

 


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