第18話 お互いの気持ち
僕は何を言われたのか、しばらく理解が出来なかった。冗談でしょ?という目でレイを見るが、レイの表情には、嘘を言っている気配はなかった。それがますます僕を混乱させる。
「……証拠を見せます」
「え?」
レイは腰に携えていた短剣を取り出し、刃を握る。
「っ!!だめっ!!」
レイが何をしようしているのか、すぐに分かり止めにかかる。
しかし、レイは何の躊躇いも無しに短剣で掌に傷を付けた。痛みにレイの顔は少し歪んだが、それも一瞬だけだった。
レイの掌から絶え間なく流れ出している血を見て、早く止血しないと!と急いで道具屋で買った回復ポーションを取り出す。しかし、僕が回復ポーションを取り出した時点で、レイの掌からの出血は止まっていた。
「もう傷がもう治りかけている……」
掌をよく見てみると、傷口も少しだが塞がっている。どうやらレイの言っている事は本当のようだ。
「……先程、皮を剥いでいる時に指を切ってしまって……その時に気づいたんです」
あぁ、あの時かと思い出す。僕はすぐにレイから目を離したから、この能力について知れなかったって事か……。いや……もしかしたら、僕は既にその能力を受けていたのかも知れない。
「もしかして、グラインとの戦いで付いた傷が塞がっていたのって……」
「恐らくは……」
これでようやく納得した。少し前から不思議に思っていた。何故、傷口が痛まないのかと……。その時は、身体能力の底上げで自己治癒力も上がったと無理矢理納得してたが、レイのお陰だったとは……。
「ヴゥゥ……」
「っ!?」
そんな話をしていると、ケルベロスが突っ込んでいった方向から唸り声が聞こえた。すぐさま見ると、既に戦闘態勢に入ってるケルベロスの姿があった。しかし、少し様子がおかしい。
「アォォォォンッ!!」
ケルベロスはビルビリと肌に伝わる咆哮をし、何やら苦しんでいる。しかし、それは一瞬の事だった。ビキビキッと骨が軋む音が聞こえ、ケルベロスの付け根から首がもう一つ生えてくると同時に、ケルベロスの体が徐々に巨大化していく。
「おいおいおい……」
ケルベロスの体は、既に僕の数倍にまで巨大化していた。毛も、巨大化するにつれ蛇のようになり、尾が龍の姿になる。あまりにも悍ましい姿に息を呑む。
「早く私を使ってください!」
確かにこの大きさのケルベロスにロングソードで傷を負わせられるか分からない。ならレイの氷の剣を使った方が可能性は十分にある。でも、それだとレイが......!
「傷つけたくないのは私も同じです......!私も拓様には傷ついて欲しくないです……!だから私を使ってください!」
「っ!!」
レイの言葉に目を見開く。ずっとレイが傷ついて欲しくなくて守ってきたけど、それはレイも同じなのだと今更ながら気づく。僕がレイを守りたいと思っているのと同じくらいに、レイも僕を守りたいと思ってくれている。その事実に、嬉しさもあるが、それに気づけなかった事への情けなさや不甲斐なさを感じた。
「レイ……準備していて。僕が合図したら僕の所まで来て」
「!!はい……!!」
それは、今から戦闘する者の表情ではなく、やっと自分も守れるという純粋な喜びの表情だった。
「っ!!」
僕は剣を握り直し、脚を踏ん張ってケルベロスとの間合いを詰める。僕はこのことが出来た事実に、おぉ!と内心感動する。さっきまで脚に力が入らなかったのに、今は万全とまではいかないが、ちゃんと動く。どうやらレイには傷だけでなく、体力も微量だけど回復させる能力もあるらしい。
「ガウッ!?」
一瞬にして間合いを詰められらた事に対して、ケルベロスが驚愕の表情を浮かべていた。それに構わず僕は、剣を横に一閃し、ケルベロスの脚を斬りつけた。しかし、蛇の毛を何匹か切断できたが、その切断面から瞬く間に再生した。
「くっ!!」
僕は背後に回り、剣を振り上げて斬撃を食らわそうとする。しかし、龍の尾に剣が受け止められ、そのまま剣ごと振り回されて投げ出される。僕は空中で何とか姿勢を作り、ザザーっと両脚で着地し、どうにか体勢を崩さなかった。
「がぁっ!?」
しかし直後、僕にケルベロスが突進してき、そのまま背後にあった木に激突する。ケルベロスの頭と木に挟まれ、上手く息ができない。……まだだ。まだレイを使う訳にはいかない。レイを使うと決めたが、それはレイが傷ついてもいいという事ではない。出来るだけレイを危険に晒さないために、敵の隙を作らなくては……。
「ぐっ……!!あぁぁ!!」
剣を掲げ、ケルベロスの目にめがけ横へ一閃する。すると、ケルベロスの目から血飛沫が飛び、押し付ける力が弱くなる。その隙に板挟みから逃れ、ケルベロスの背後に回る。
「レイ!今だ!」
僕がそういうと、既に剣になる準備をしていたレイの体が発光し、僕の左手に光が飛んできて、そのまま剣の形となった。
(遠隔で剣を呼び出せるのか……!)
その事事実に驚いたが、今、ケルベロスの目が見えないこの最高の好機を逃すまいと剣を振り上げ、脚を曲げ高く跳躍する。
「終わりだ!!」
「ガァァァアァ!!!」
レイの剣は、蛇の毛も龍の尾も切断し、そのままケルベロスの胴体を真っ二つにした。飛び散る鮮血は僕の顔や服、レイの剣にも付いた。僕は剣を一振して剣に付いている血を飛ばす。顔に付いた血は服で拭った。
「ふぅ……」
やっと終わった戦いにホッと息を付く。手に持っていた剣が再び発光し、元のレイの姿に戻った。レイは初めての自分達の勝利に少し嬉しそうだ。空を見上げると、既に夕日が見え、辺りも暗くなっていた。
「帰ろうか」
「……はい」
レイはすぐにケルベロスの蛇の毛や龍の尾、肉などを剥ぎ取りバックの中にしまった。……やっぱり剥ぎ取りの光景は慣れそうになかった。
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