第16話 新たな敵

 夕飯を食べた後は、すぐにベッドに入り就寝した。レイは疲れていたのかすぐに寝付いたが、僕はレイが隣にいる事が原因でドギマギしていたから、あまり眠れていない。レイが寝返りで僕に抱きついて来たときは、静かに悶絶した。なんかもう狙ってやってるの?と思いたくなってきた。


「んっ……拓様、おはようございます……」

「あぁ……おはよう」


 僕は寝不足による眠気から、力なく微笑む。多分、目も開ききっていないだろう。レイはまだ頭がボゥっとしているのか、ウトウトしている。すごく可愛い……。


「さて……今日は何しようか……」


 外に出る身支度しながら呟くと、レイは提案して来た。


「……魔物を倒すのはどうでしょう?」

「魔物を?」


 話によると、どうやらこの辺りには魔物が住み着いているらしく、僕達が森を歩いている時に出くわしたあの兎も魔物だという。兎みたいな弱い魔物もいれば、もっと大きな凶悪な魔物もいるらしい。もっとも、凶悪な魔物は山奥とかに生息するらしく、人がいる場所にはあまり来ないらしいが。


「……武器も買いましたし、手慣らしにどうかと」

「確かに」


 いくら加護を持っているからといって、一度も剣を握らないのは多少なり不安を感じる。ここら辺の魔物は弱いらしいし、レイに危険はないだろう。


「じゃあ、今日は魔物を倒しに行くか」

「……はい」


◇ ◇ ◇


 僕達は、街の外に出て森の中にいる。土地勘がないから迷わないか心配だったけど、門を出てすぐに森の中に存在する道を見つけた。どうやらこれが一般的に使われている道らしい。

一昨日の僕達はどうやら獣道を歩いていたようだ。あの時、ここを通れば良かったんじゃ……という疑問が浮かんだが、グッと押し殺し、その道を歩く。


「……何か薄気味悪いですね」

「そうだね……一昨日はこんな感じはしなかったのに……」


肌を逆撫でするような嫌な雰囲気を感じながら森の奥へと入って行く。すると、茂みで何かが動く気配を感じた。


「シャァァァ!!」


 現れたのは、前と同じ兎の魔物だった。兎は脚を深く曲げ、自慢の跳躍力で僕に飛びかかる。しかし、あの時とは違く、僕は今ロングソードを持っている。すぐさま剣を抜き、下から滑らすように振り上げる。


「ギシャッ!?」


 兎の胴体が真っ二つに分かれ、数秒もしない内に絶命した。


「ふぅ……」


 剣は僕の手に馴染み、まるで昔から剣技をしていたかの様に体が動く。うん、加護はしっかりと作動している様だ。もう少し奥に行こうとレイに言おうと思い振り返ると、レイは兎の死体の前で何やらゴソゴソしている。


「レイ?何しているの?」

「……皮を剥いでいます」

「え?」


 僕は、レイの後ろからそぉっと除いて見ると、確かにレイは皮を剥いでいた。それも綺麗に。


「いつのまに……」

「……一昨日にミルさんが皮を剥ぐのを見ていましたから」


 いや、それにしてもスゴすぎるだろ……。レイは何でもないように皮を剥いでいるが、見たからと言って一日二日で出来るような事ではない。出来たとしても、僕ならボロボロにする自信がある。そんな自信いらない。器用だな……とレイを感心しながら見ていたら、何故かレイが顔を赤らめた。


「あの……そんなに見られると……」

「あっ!ごめんっ!」


 レイも僕と同じ年頃の女の子だ。そんな子が、男にジロジロ見られて良い気分になる筈がない。配慮の足りなさに罪悪感を覚えながら、少し離れたところでレイの作業が終わるのを待つ。


「……べつに嫌では……」

「?」


 レイが小声で何か言ったが、少し離れていたせいか上手く聞き取れなかった。少しすると、レイが皮を剥ぎ取り終わったのか、僕の方へとタタタッと小走りで向かって来る。


「もう終わったの?」

「……はい」


 レイは剥ぎ取ったと思われる皮を、持って来ていたバッグにしまう。道中に何匹か兎と出会うが、難なく対処していけた。ロングソードも手に馴染んできて、区切りもいいからそろそろ帰ろうかとロングソードを鞘に収めながら思っていた時だった。何処からともなく咆哮が聞こえたのは。


「「!?」」


 肌を震わす程の咆哮に、僕達は足を止めた。声の大きさから、それ程遠くない所に咆哮を上げた存在がいる。相手の強さも分からない現状、無闇に突っ込むのは下策だ。そして何より、レイを危険に晒したくない。


「レイ!早くこっちに!」

「は、はいっ!」


 レイに手を差し出し、レイはそれに答えるように僕の手を取る。僕はレイを引っ張るような形で来た道を戻る。神様に身体能力の底上げをしてもらった僕はあまり疲れを感じていないけど、レイは少し苦しそうだ。でも、まだ森の中だし、いつ襲われてもおかしくはない……。レイには悪いけど、もう少し頑張ってもらおう。


「はぁっ……はぁっ……」

「っ……!大丈夫?」

「だっ……大……丈夫……です……」


 口ではそう言ってるが、足はフラついており、呼吸も荒い。考えてみれば、出会った当初のレイは箱入り娘みたいだった。隣の国の生き方を知らないくらいだし……この長距離を走るのは、レイにとってとても辛いだろう。


「ごめんっ……!」

「へ?……ひゃっ!?」


 僕は、レイを抱きかかえる。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。急にこんな事してしまった事の罪悪感はあるが、今は一刻を争う。後で罵倒を受ける覚悟だ。レイも状況と僕の気持ちを理解したのか何も言わないが、顔を赤くして、僕の肩に顔を埋めて「うぅ〜……」と唸っている。


「っ……!?」


 僕の目の前を何かが通り過ぎた。急に止まった事もあってバランスを崩し、尻餅をついてしまった。レイは全力で守ったから怪我はしていない……と思う。


「グルルルッ……」

「……どうやら、素直に帰して貰えそうにないね……」


 まだ姿を現さない者の明らかな殺気にそう悟る。僕はレイをそっと降ろし、腰に携えているロングソードの柄に手をかける。




 



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