第13話 薬屋のイシュタル

 兎と戦った後、僕達は変わらず森の中を進んで行いく。たまに兎が出てきたが、難なく対処出来た。その度にミルちゃんには皮を剥いでもらったが、……とてもグロかった。


「もう少しですよ!」


 そう言われ数分後、木々の隙間から灯りが見えた。その灯りに向かうにつれ、人々の喧騒や笑い声が聞こえてくる。そして森を抜けると、目の前には大きな門が建てられていた。高さ3mはあるだろうその門に、ミルちゃんは迷いなく進んでいく。


「ここがミラス王国です!」


 ミルちゃんが僕達に振り返りながらそう説明する。門をくぐるとすぐに、雑貨店や飲食店が並んでいた。飲食店といっても、カフェやレストラン等の洒落た店ではなく、居酒屋とかの類の店だ。ある店では片手に大きなグラスを持ち、浴びるように酒を飲んでいる男や、フルートグラスにワインを注ぎ上品に飲んでいる女性など様々だ。


「実は、私この国に住んでいるんです」


 ミルちゃんは少し誇らしげに言う。まぁ、これだけの王国だ。住んでいるってだけで自分のステータスになりそう。


「では、私はこの辺りで!宿なら、ここの十字路をまっすぐ行って二番目の曲がり道の突き当たりにありますので!」


 それだけ言い残し、ミルちゃんは僕達に手を振りながら十字路の右方向へと走って行った。僕とレイはミルちゃんの行った通りに進むと、少し古めだが宿があった。しかし、そこで僕は、ある事を思い出した。


「あ、お金換金してないな……」

「……そういえばそうですね……。確かさっき薬屋の看板が立ててあった店があったので、そこ行きましょう」


 レイの村を出発する前に、レイの『鑑定』で薬草を何種類か摘んできた。薬草の売値がどれだけなのかは分からないが、少なくとも宿代くらいは換金したい。


「えっと……あ、ありました」


 来た道を戻ると、不思議な言語で書かれた看板が立ててあった。マジかよ……。どうやら言語は理解できても、文字までは理解できないようだ。どんな基準だよ……。


 レイと僕は、薬屋(らしい)の扉に手をかけ、そっと開く。ギィと音を立てながら開いた先は、机の上に商品らしき薬や、調合などに使うのか、すり鉢など置いてあった。


「あの〜……すみませーん」


 カウンターには誰も座っておらず、自分たちが来た事を知らせるように声を出す。すると、奥の方からギシッギシッと床を軋ませながら、誰かが出てきた。


「こんな時間にお客さんとは珍しいね」


 奥から出てきたのは、白髪のイケメンだった。スラリとした体系で、肌などもとても綺麗だ。なんか近くにいるだけで眩しい……そんな絵に描いたようなイケメンだった。


「あなたが店の人……?」

「まぁ、一応ね。イシュタルって言うんだ。よろしく」

「えっと……よ、よろしく」


 イシュタルは「ははっ」爽やかに笑う。何が「ははっ」だよ。どこぞの夢の国のネズミかよ……等と内心吐き捨てるようにツッコんだ。いや、イシュタルの容姿に嫉妬したからイラついているわけではない。本当に。


「おや?可愛い子だね。お兄さんとお買い物かな?」


 イシュタルは腰を屈め、レイちゃんに話しかける。普通の女子や女性なら、このイケメンに話しかけられたらキャーキャー言うのだろう。しかしレイは、いつもと変わらない表情だった。


「……この薬草を売りたいのですが」

「ん?どれどれ……?」


 イシュタルはレイから受け取った袋を覗く。すると、イシュタルの目の色が明らかに変わった。先程もキラキラさせてたが、今は一段とキラキラしている。


「これはすごいっ!!何個か品質が落ちてしまっている物があるけど、ほとんどが品質優!最近ではここまでの物は見ないなぁ〜」


 何かうっとりしているけど気にしないでおこう。というか、レイの『鑑定』結構凄いな……。薬屋がここまで絶賛するのだから、品質優というのは結構良い方だと思う。


「それだと、お金はそのくらいになるんだ?」

「え?あぁ、そういう話だったね!ここまでの品となると……銀貨80といったところかな?」


 それは高いのか?安いのか?基準が分からないでいると、レイが銀貨を受け取っていた。


「これなら宿屋にしばらく泊まれますね」

「宿屋ってそのくらい?」

「ん〜……ほとんどの宿屋は一泊で銅貨5枚ですから、ここもそのくらいでしょうか?」


 なるほど、銀貨は銅貨よりは価値が上なのか。まぁお金の単位は追い追い分かっていけばいいか。とりあえず、宿屋には泊まれるらしいし。僕達は目的が達成したから、この薬屋から出ようとした時、イシュタルが僕達を呼び止めた。


「ちょっと待って!この薬草はなかなか取れなくて貴重だ。もし、また薬草を手に入れたら是非僕のところに売りに来てくれ!」

「分かったよ」


 どうやら、僕達はイシュタルに気に入られたようだ。まぁ、薬屋は今後来るようになると思うし、贔屓にしてくれる店があればとても助かる。断る理由はないな。


 薬屋から出た僕達は、ミルちゃんに教えられた宿屋に戻り、手続きを済ませた。どうやら銀貨1枚で二日泊まれるらしい。ということは、銅貨10枚で銀貨1枚の計算か。少しずつだけど、この世界に馴染んてきているのかと思い、少し嬉しい気持ちになった。……なんでか分からないけど。


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