第12話 オッドアイの少女
草むらから現れたのは、年相応の愛嬌がある女の子だ。ショートヘアに麦わら帽子、白いワンピースと、どこにでもいる普通の女の子とあまり変わらない。……瞳以外は。女の子の瞳の色が左右違うのだ。右目は普通の黒なのだが、左目は鮮やかな
僕は、何故かその
「あの……?」
「へ?あ、えっと僕達道に迷っちゃって……」
女の子の声にハッと我に返り、誤魔化すように話をする。女の子はまだ怪訝そうな顔をしているが、深くは言及してこなさそうだ。
「この森は夜になると魔物が出ます。今日中にこの森を抜けるのは難しいかと……。ですがーー」
女の子がそう言いながら、何やらブツブツと唱え始めた。すると、赤い光がゆらりゆらりとこちらに近づいてきた。蛍みたいなその光が、女の子の目の前で止まったかと思った瞬間、一瞬のうちに僕達の周りの景色が明るくなる。昼間と同じくらいの明るくなった景色に、僕とレイはただ戸惑っていた。
「私、少しだけですけど、精霊のお友達がいるんです」
あぁ、だからこの子は灯りを持っていなかったのか。これだけ明るくできる精霊がいるのなら、わざわざ灯りを持つ理由なんてない。女の子は、自分の体付近を飛び回っている赤色の光を出している精霊を見て微笑んでいる。本当に仲がいいんだなと思った。
「私で良ければ道案内しますよ。この森付近なら大体の町や村は知っていますから!」
そう言って、それほど発達していない胸を張った。まぁ、僕はこの森に……というか、この世界に詳しくないから断る理由はなかった。それはレイも同じようで、僕と目があった時、コクリと小さく頷いた。
「それはありがたいよ。僕達はこの近くにある国に行きたいんだ」
「国……多分ミラス王国ですね。この近くに国と言ったら、そこしかありませんから」
そう言って、女の子は森の中へと歩き始めた。しかし、「あっ」と何かを思い出したのか、歩みを止め、僕達の方に振り向いた。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね」
女の子はそう言って、微笑みながら言った。
「私の名前はミルです。よろしくお願いします」
「えっと……僕は拓。伊藤拓です。で、こっちが……」
「……レイです」
軽く自己紹介をすませ、ミルちゃんの後をついて行く。妖精のおかげで夜道を歩く心配は無くなったが、不気味な鳴き声や所々から聞こえる物音にビクッとする。レイを見ると、無表情でミルちゃんの後をついて行ってる。すごいなぁと思いつつ、 黙って後をついて行く。
ガサガサっ
不意に近くの茂みが揺れた。瞬間全員の動きが止まる。揺れている茂みに皆んなの視線が集まる。僕は持っていた木の枝を持ち、レイは僕の袖を握り、ミルちゃんは僕の後ろに隠れている。
そして、茂みから何かが飛び出してきた!
「きゅう?」
それは、日本でも見たことのある兎だった。なんだ……とホッと気を緩めるが、何故かミルちゃんはまだ兎を警戒していた。
「どうしたーーっ!?」
それは、僕が兎から目を離した瞬間に起きた。兎が僕に噛み付いてきたのだ。兎の歯は、僕が知っている兎の歯ではなく、肉を引き千切るための尖った歯だった。いや、これはもはや牙と言うべきだろう。
兎は僕が持っていた木の枝に噛み付いた。すると、木の枝はバキッと容易く折れ、粉々になった。嘘だろ!?あの木の枝、結構な太さあったぞ……!?
「ふぅーー!!」
兎は、僕を捕食対象として認識したのか、僕を赤い瞳で睨みつけてきた。呼吸を荒くし、涎を垂らしている。これが野生の獣なんだなっと実感する。
「二人とも!僕の近くから離れないで!」
「は、はい……」
「……分かりました」
と言ったのはいいけど、対策が見当たらない。最悪レイの剣で……と思ったが、グラインと戦った時、レイの剣にヒビが入った瞬間の光景を思い出す。……あんな事、レイにはさせられない……。
「シャッー!!」
「おっと……!」
僕に突進してきた兎をサラリと躱す。やはり、兎と言うだけあって動きが早い。だけど動きが単調だ。だからーー
「シャー!!シャッ!?」
僕は、兎がまた僕に突っ込んで来た瞬間、僕は足を振り上げた。体の小さい兎は、そのまま上へ打ち上げられ、自由落下した後に地面へ直撃した。その瞬間、ベキョッと生々しい音が聞こえたが気にしないでおこう。
「すごい……」
ミルちゃんは僕の足技(仮)を見てポツリと漏らした。すると、レイにその呟きが聞こえたのか自慢気に胸を張っている。いや、なんでレイが自慢気なんだよ……。
「さぁ、行こうか」
「その兎の皮、剥ぎ取らなくていいんですか?」
「う〜ん……僕、剥ぎ取り方分からないしな……」
お金になるとは思うが、剥ぎ取り方分からないんだから、剥ぎ取れない。というか正直言うと、動物の皮を剥ぐなんて、なんかグロそうで嫌だ。
「だったら私がしましょうか?」
「え?出来るの?」
「はい!」
そう言って、ミルちゃんは兎に近づいて兎の皮を綺麗に剥がしていく。……しかし、剥がし終えた時の血で汚れたミルちゃんの笑顔は忘れらそうになかった……。
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