第9話 仮面男

『……私がやります』


 レイちゃんがそう言うと、剣が急に激しく光り出す。なんだ……!?と僕が困惑している間にも光は輝き続ける。そして、レイちゃんが何やら詠唱を始めた。


『我が身に力を与えよ。全てを切り裂き、道を開け!ライトニングソード!』


 レイちゃんがそう唱えた瞬間、剣が光を纏った。男の闇を纏う剣とレイちゃんの光を纏う剣……相反な二つの剣の力がぶつかり合う。


『拓様っ……!剣を……私を使ってください……!』

「でもっ……!」


 確かのこの剣ならあの靄は斬れるだろう。何故か確信めいた物が僕の中にはあった。だが、それとレイちゃんが無事かどうかは話が別だ。あんな巨大な闇を切り裂くのだ。下手したら死すらあり得るかもしれない。そんな事は出来ないと僕の脳がレイちゃんを使う事を拒否している。だがーー


『……ここで防がなければ死んでしまいます……!村も私も……拓様もっ……!』

「っ……!」

『……そんな事は絶対にさせません……この命に代えても……!』


 レイちゃんの覚悟は本物だ。それを、何故自分が無下に出来る?自分の身勝手な偽善でレイちゃんの覚悟を無下にするなんて……そんな事出来る訳無いじゃないか。


「……分かった!」

『ありがとうございます』


 今僕とレイちゃんの気持ちが一つになったような気がする。この村を……お互いを守るために僕は剣を振るう。


「はぁぁあぁあぁっ!!!」


 光を纏った剣を思い切り振り下ろす。すると、目の前まで来ていた靄が一瞬にして真っ二つに割れた。剣を振り下ろした衝撃により、空気が、地面が揺れる。そして、黒い靄は剣の衝撃波により一瞬で霧散する。


 ピキッ


『あぐっ……!?』

「レイちゃん!!」


 しかし、やはり闇を斬るなんて所業は代償なしでは無理があった。闇を切り裂いた直後、刀身にヒビが入る。そのヒビがレイちゃんと繋がっているのか、小さく悲鳴を上げる。


「くくくっ……ははは!!どうやらまだ力を出し切ってないみたいだな!!」


 男は口を大きく開け高笑いする。力を出し切れてないだって……?今の状態ですら強力なのに、実際はもっと強力な力を発揮するとでもいうのか?僕はその事実に驚嘆する。そして、力を発揮できていない事を知った男は、隙ありと言うように剣を前に突き出し、勢いよくこちらに突っ込んで来る。


「ぐっ!?」


 助走も相まって、攻撃力が格段と跳ね上がる。咄嗟に剣で防御したが、そのまま剣に弾かれるように後ろへと体ごと吹き飛ばされる。その防御でも、レイちゃんは小さく悲鳴をあげる。この剣の負担はレイちゃんの負担と同義だ。無理させるわけにはいかない。かといって、この剣を使わなければ確実に殺される。


「死ねっ!死ねっ!!」


 男は、僕との距離をまた詰めて剣を振るう。その目は、もはや最初の印象とは異なった殺意に支配された眼光で、乱れきった髪で、余裕のない表情で剣を乱雑に振るう。もはや剣技などあったものではない。だが、今はそれが厄介でもある。


(くそっ……剣が見切れない……!!)


 レイちゃんの氷の剣と身体能力底上げの加護を持っていても、相手が何も考えずに振り回している剣を僕が分かるはずもない。威力も方向も技も何もかもがめちゃくちゃだ。だけどーー


(その分、隙ができるっ!!)


 男が剣を振り追えた直後を狙い、胸から腹にかけて一閃する。男は目を見開き、何が起きたのか一瞬理解できていなかった。切られた胸部と腹部からは血が溢れ出る。そして、遅れて自分が斬られた事を理解すると同時に痛みが伝わる。


「あ“がぁ”あ“っ!!??」


 男はその場で崩れ落ち、代わりに倒れた場所から赤い液体がじわじわと広がっていく。今がこの男を殺すチャンスだ。僕は剣を男の上で構える。この男はガルトさんを、村の皆を斬り捨てた。それは、絶対に許せない悪行だ。だからここでーー


『……怖いですか?』

「っ……!?」


 レイちゃんの言葉で、自分の手が細かく震えているのが分かった。剣をカタカタと揺らし、額には冷たい汗をかいていた。自分は初めて人を殺す……その意識が無意識に働いている。そもそも、人を斬った時点でその覚悟は出来ていたはずなのに、いざとなると怖くなる。


(こいつは……ここで殺さないといけないのに……何で……!!)


 何で手が動かないのだろう。葛藤している間にも時間は過ぎていく。僕は深く深呼吸して覚悟を決める。構えていた剣を真下に振り下ろした。


「何をしている」

「っ……!?」


 しかしそれは、今までに感じたことのないような威圧により中断される。ばっと声のする方に目を向けると、宙に浮いた仮面の人物がいた。声からして男だろうが、黒髪の髪は長く、声を聞かなければ女と思っていたかもしれない。そして、その背には1mはありそうな大きな剣が二本携えられていた。


「ぁ……ぅ……」


 声を出そうにも、仮面男の威圧によって時間が止まったかのように体が動かない。そして、仮面男はふと村を見ると、手をかざし魔力弾を生成した。黒く禍々しい魔力弾は、サイズは小さくとも肌をピリつかせる程の膨大な魔力量だ。


(まさかっ!?)


 僕は仮面男のやろうとしている事を理解し、止めようとする。しかし、間に合うはずがなかった。仮面男が放った魔力弾が村の中心に降りる。次の瞬間、村を覆い尽くすほどの爆発が起きた。

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