第8話 氷の剣
よく分からないけど、どうやらこの男はレイちゃんを僕に近づけさせたくないように見える。敵が阻止したい事=自分が有利になるという方程式が僕の頭の中に浮かぶ。この戦いでの鍵がレイちゃんなのは間違いない。
「レイちゃん!こっちに!」
「させるか!!」
僕を離すまいと再び剣で襲いかかってくる。咄嗟に剣を構え直し、同じ状況になる。くっ!あと少しなのに……!今すぐこの剣を払い除けて、レイちゃんの下に行きたい。そこに勝機があるのに……!
「拓様から離れて!」
「ぐぁっ!?」
レイちゃんが叫ぶと、空気が揺れる。それをもろに受けた男は、耳を抑え苦しみだす。言う所の超音波だろう。男が動けない今をチャンスとし、レイちゃんの側へ行く。
キィィン
「っ……!?」
なんだ?レイちゃんに近づいた瞬間、耳鳴りに近い感覚に襲われる。それは、レイちゃんに近づく度に強くなっていく。無意識にレイちゃんの肩に手を置く。本能がそうしろとでも言うように。次の瞬間、手を置いた場所が急に光りだした。
「何これ……」
レイちゃんは自分の体に起こっている事に戸惑っている。しかし、レイちゃんの体は光に集まるようにして消えていき、その光は僕の手に形を合わせるように形状を変えていく。レイちゃんの体と入れ替わるようにして、光が僕の手の中で優しい光を発していた。そしてーー
「これは……」
その光が徐々に消えていき、光の中から銀色の剣が現れた。氷の剣がイメージされる美しい剣だ。竹刀と同じ大きさだが、鞘や柄には豪華な装飾がされているが、持つ事に違和感を感じさせない。重さも見た目程重くない。まるで、この剣が昔から持っていたように自然と手に馴染む。
「って、レイちゃんは!?」
神秘的な現象のせいで忘れてたが、この剣はレイちゃんから出た光で出来上がったものだ。それも、レイちゃんの体と入れ替わるように。まさか死ーー!?等と狼狽えていると、頭の中で声が聞こえた。
『私、どうなったの……?』
「レイちゃん!?大丈夫!?」
『うん……平気』
よかった……と胸を撫で下ろす。どうやら、最悪の事態は避けられたようだ。しかし、これは一体どう言う事だ……?レイちゃんの様子がおかしくなったと思ったら、急に光りだし、この剣になった。それに、素人目から見ても相当な業物だと判断できる。
「くっ……!」
見ると、男が忌々しそうにこちらを見ている。どうやら、この剣が男にとって都合が悪い品らしい。そっと柄を握り、鞘から刀身を抜く。刃の色は透き通った白で、陽にかざせば透けるのではないかと思わせる程の透明感だった。
「なんだろう……力が湧いてくる……」
先程までとは比べものにならないくらい体が軽く、力が漲る。軽く剣を一振りすると、突風が吹き荒れ、大地にヒビが入る。これで一振り!?人間離れしている力に自分自身でドン引きした。まぁ、神様から色々と底上げしてもらったから、普通の人間ではないが……。
「これでお前とも戦えるな」
「ちっ!その剣ごとお前を消滅させてやる……!」
地面を蹴ったのは、ほぼ同時だった。互いに剣を振り下ろし、剣と剣が衝突する。しかし、先程と明らかに違うのは、僕の剣が男を押しているという事だ。ガチガチと剣が絡み合う。男が刀身を滑らせ僕の間合いから離れる。しかし、すぐさま横薙ぎをして追撃する。背を曲げ避けられたが、薙払いした方向の木がバキバキっと音を立てながら10、15本折れた。威力は申し分ない。
「強力だけど、使い方には気をつけた方がいいな……」
下手に振り回して村に被害が及んだら、本末転倒もいいところだ。でも、この剣は不自然なくらいに自分の手に馴染む。相当な事をしない限り間違いはないだろう。加護だってあるし。
「ちっ!」
男は剣を構え直し、ふっと消える。
「何っ!?」
消えるなんて聞いてないぞ!?いくら剣を使えても、相手が見えなければ意味がない。辺りを警戒するが、いきなり背後に回れたら防ぎきれるか怪しい。
『右……!』
「!!」
レイちゃんの言う通りに右を警戒した瞬間、男が目の前に現れる。男が振り下ろした剣を間一髪のところで弾き返す。危なかった。
「よく分かったねレイちゃん」
『……気配がしたの』
何にしろ、レイちゃんのおかげで助かった。男は、剣を防がれ顔をしかめる。あの消える技もレイちゃんがいれば対処は可能だろう。男は直ぐに次の手を繰り出す。持っていた剣を前に突き出したかと思うと、何やら黒い禍々しい靄が剣に吸い込まれていく。いやあれは纏っているのか……?
「汝に力を貸す我に答えよ。闇を纏い光を断ちあらゆる物を飲み込め!ダークプレデター!!」
「何だっ!?」
男が剣を振ると、剣を纏っていた靄が勢いよく広がり、僕達を飲み込まんと迫り来る。プレデターは捕食者という意味だった気がする。名前から察するに、あれに飲み込まれてはいけないだろう。
(どうするどうするどうする……!?)
今更避けても間に合わないだろう。それに、あれは物体のない靄だ。斬っても無意味だ。八方塞がり……この状況を何とかしなければいけないが、方法が分からない。
『……私がやります』
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