第7話 覚醒
ガキンッという鈍い金属音と共に剣が折れた。刀身がない剣など、もはやただのゴミだ。剣が失くなった僕は、咄嗟に体を捻り回し蹴りを食らわす。しかし、男は僕の回し蹴りを片手で軽く受け止めた。
「くっ……!離れない……!」
足を男の手から離そうとするが、とてつもない握力のせいで僕の足がぴくりとも動かないでいる。男は僕の足を握ったまま腕を横に振り、僕を遠くへ投げた。身を屈め、なんとかダメージは最小で防げたが、勢いが強すぎて地面を数回転がった。
「っ……!?」
すぐさま身を起こすと目の前には、剣先を僕に向けている男が立っていた。剣はあと数ミリで僕に届く距離にあった。少しでも動けばこの剣は僕を襲う。かといって、このまま動かなくても……。一瞬で回避してもそれは死ぬ時間が伸びるだけ……。頬に冷たい汗が伝うのを感じた。どうするかと頭をフル回転して打開策を探す。
「終わりだな」
「ーー!!」
男はゆっくりと剣を引き、それを僕に突き刺さすーー
「お父……さん……?」
「!?」
かと思われたが、横からした少女の声に僕と男の動きが止まる。すぐさま声のする方を見てみると、目を見開き、ヨタヨタとゆっくりとこちらに向かってきているレイちゃんの姿があった。
「レイちゃん!!こっちに来ちゃダメだ!!」
「ぁ……ぁぁ……」
レイちゃんはガルトさんの遺体の前でドサっと座り込み、ガルトさんをユサユサと揺らし始めた。「お父さん……お父さん……」としきりにガルトさんの名前を呼んでいるが、当然ガルトさんは返事をしない。次第にレイちゃんの瞳から涙がポロポロと溢れてくる。
「や……だよっ……こんなの……!」
その姿を僕は見ていられなかった。自分の無力さや情けなさ……弱さを痛感する。もっと僕に力があれば……そんな事を思っても、もうガルトさんはこの世にはいない。
「邪魔だな」
「ぁ……」
男はレイちゃんの前に立ち、見下ろしていた。そして男は剣を振り上げレイちゃんに斬りかかった。
「させないっ……!!」
「ーー!?」
僕はレイちゃんを庇うようにして男の前に出る。その瞬間、斬られた熱が痛みとなって背中全体に広がる。
「ぁぁあぁ……!!」
あまりの痛みに地面に蹲る。痛みによる汗が大量に出て、息も荒くなる。レイちゃんは涙目で僕を見つめる。
「拓……様……!」
「逃げて……」
「でもっ……!」
レイちゃんは瞳を揺らし、どうしたら良いのか迷っている様子だ。でも、そんな事は決まっている。早くこの村から逃げて、安全な場所に逃げる事。それがレイちゃんにとって最善の行動のはずだ。なのにーー
「なんで……!」
「時間切れだな」
そう言って男は、僕の横腹を蹴り上げる。突然の痛みと、空中のふわりとした感覚を感じた途端、ドタッと地面に叩きつけられる。
「お前も、その女も生かすつもりはない」
「くっ……!」
これは本当にやばい。少なくても、レイちゃんだけは逃さなくては……と、痛みで朦朧となっている頭を無理矢理動かす。しかし、どんなに考えても、この状況を打開する方法が浮かんでこない。
「だ……め……」
「ん?」
レイちゃんが僕の前でナイフを男に向けながら立っていた。あのナイフは、護身用に持っていたのだろう。しかし、レイちゃんの足はガクガクと震えており、誰が見ても男に勝てるとは思えなかった。
「もう……誰も……傷つけない……で……」
自分も怖いだろう……今すぐここから逃げたいだろう……それでも、レイちゃんは皆んなが傷ついてくのを、これ以上ガルトさんみたいな人を出さないようにと、小さい体に大きな勇気を背負っていた。
「そんな震えて……話にならん」
男はそういい、レイちゃんに近づいて剣を振り上げる。レイちゃんは死を感じ取り、恐怖で動けないでいた。このままではレイちゃんまで……!その瞬間、ガルトさんの最期が僕の脳裏に蘇る。そして、そのガルトさんの遺体がレイちゃんに置き換わる。
ーー嫌だ……そんな事は……させない……!!
ガキンっ!!
「……ほう?まだ動けたか」
僕は持っていたもはや刀身が15cmぐらいしかない剣で男の剣を止める。ガチガチとお互いの剣がかち合う。レイちゃんは守れた。だけど、このままでは押し負ける。
「死ねっ!!」
男はより一層体重をかける。ぐっ……!だめだ……限界……。
「やめてーー!!」
「「!?」」
もう少しで押し負けそうなった瞬間、レイちゃんの体が光だし、どこからともなく発せられた突風に、男も僕も飛ばされないように踏ん張る。まるで、レイちゃんを中心に突風が巻き起こっているような……。というか、僕は目の前で起きている状況に頭が追いついていなかった。
「レイ……ちゃん……?」
「もう……誰も失いたくない……!」
レイちゃんは涙を流し、その涙の雫が地面に落ちた瞬間、より一層光が強くなりだした。なんだ……?何が起きているんだ……!?
「これは……!?いや、まさかそんな……!?」
男は今起きている現象が分かるのか、戸惑いを隠せないでいる。そして、なにかの結論に達したのか僕をキッと睨みつけてきた。
「まさか……こいつが……?いや、今はどうでもいい!とにかくこの男をあの女から引きはがさなければ……!」
どうやら男は僕とレイちゃんを引き離したいようだ。……まだ、僕には勝ち目があるかも。
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