第6話 戦闘。そしてーー

 肩に痛みが走った途端、血が溢れ出てきた。咄嗟に傷口を手で押さえるが、こんなもので止まるとは思えない。それにしても、いつのまに斬られた……!?全然剣先が見えなかったぞ……!?


「あえて外した。すぐ死なれてはつまらぬからな」

「っ……!」


 まるで殺しを楽しんでいるかのように……!男の態度に怒りがふつふつと湧き上がってくる。つまらないとか、そんな感情論でこの村の住人を斬ったのか……?


「ほう?やっと面構えが変わったな」


 この男は止めなければならない……本能がそう言っていた。剣を構え直し、男から視線を一瞬も離さない。さっきの斬撃も、見えないくらいに早かった。多分……僕の視界から男が消えた時、僕は死ぬだろう。死の瀬戸際に立つ経験が無い僕にとって、正直全身が小さく震えていた。怖くない……等と冗談でも言えないくらいに。それでも……!


「許せない……!」

「なら、その剣で私を貫いてみろ」


 どこか余裕の表情をしている男に向かって、剣を構え走り出す。男が剣の間合いに入った瞬間、薙払いをする。しかし、男はさらりと簡単に避け、僕を肘で突き落とした。まだ剣を振った勢いが残っていたせいで、上手く受け身をとれなかった僕は、モロに地面に叩きつけられた。胸辺りから直撃したため、数秒上手く息が吸えなかった。


「このっ……!!」

「甘い」


 倒れ込んでいる状況で、男が目の前にいたので、剣を男へと突き出した。しかし、男は人差し指と中指で剣を止め、剣と一緒に僕を投げ飛ばした。飛ばされた先には木があり、そのまま木へと背中が激突する。背中への急な痛みに意識が飛びかけ、まだ朦朧とする視線で男を睨みつける。


「まだ意識があるとはな。根性だけは認めてやる」


 手を地面に着き、なんとか立ち上がろうとする。しかし、思うように腕に力が入らなかった。くそっ……!早く起き上がらないといけないのに……!そう内心では思っていても、体がいう事を聞いてくれない。


「これで最後だな」


 男はそう言い、剣を前に突き出すように構える。その瞬間、地面が揺れ、大気が歪んだ。あ、やばい……本能的にそう思った。避けようにも、今は体が上手く動かせない。死という言葉が脳裏にちらつく。また……何も出来ないまま終わってしまうのか……?


「死ね」


 その言葉と同時に僕は痛みに備え、目を強く閉じ、歯をくいしばる。しかし、痛みがなかなか襲ってこない。疑問に思い、そっと目を開ける。そこには、目を疑うような……信じたくない光景が広がっていた。


「ぁ……がっ……」

「なんだ貴様」


 そこには、僕と男の間に立ちはばかるようにガルトさんが立っていた。僕に背を向けて立っているが、背中の中心からは、ガルトさんの血で真っ赤に染まった剣先が突き出ていた。


「ガルト……さん……?なんで……?」


 男は勢いよく剣を引き抜くと、引き抜いたところから血が吹き出る。そして、ガルトさんは力なく地面にドタッと倒れ込んだ。その光景を見た瞬間、僕の胸から何かがゴッソリと抜け落ちたような錯覚がした。そして、“絶望”という黒くドロドロしたものが僕の胸を掻き回した。


「ふん、雑魚が出しゃばるな」


 男は、目の前に倒れているガルトさんをゴミのように足蹴にし、脇へと蹴り飛ばした。


「ぁぁあぁぁあ!!!」


 許さない……


「なんだ……?」


 許さない許さない許さない!!


「あぁぁぁあぁ!!」


 僕は腕に思い切り力を入れる。背中が体を起こす度にズキズキと痛むが、そんな事、今の僕には関係なかった。今すぐあいつを殺す……僕の頭の中はそれでいっぱいだった。体を起こし、足で地面にしっかりと踏みしめ、ゆっくりだが立ち上がることが出来た。


「まだ、楽しめそうだな」


 僕を見て、男はふっと小さく笑った。僕は剣を握り直し、足を少し動かす。正常に動いている事を確認し、グッと足に力を込める。そして、スタートダッシュのように地面を思い切り蹴る。


「っ……!?」


 身体能力底上げのおかげで、瞬時に男の目の前に移動出来た。急に動きが早くなった僕に男は驚いている。でも、そんな事は僕には関係ない。容赦なく剣を振り下ろす。男はそれを避けるが、振り下ろした剣を男に向かって振り上げる。男はそれを剣で防御する。恐らく、これが男に攻撃を喰らわせる最大のチャンスだったのに、当てられなくて内心で舌打ちする。


「はははっ!!いい動きだ!」


 男は狂気に満ちた笑みを浮かべた。そして、スイッチが切り替わったように男の動きも変化があった。


「ははははははっ!!」

「くっ……!!」


 狂気じみた笑みを崩さないまま、剣の速さが一段と増した。底上げで強化された動体視力をフルに使い、男の剣をギリギリで捌く。


「守ってばかりだと勝てぬぞ!!」


 その通りだ。このままではジリ貧だ。いくら僕が『どんな武器でも使いこなせる加護』を持っていても、責められなかったら意味がない。だから、一か八かで剣が噛み合った瞬間、思い切り剣を弾く。その隙に横薙ぎを食らわせる。しかしーー


 ガキンッ!


 僕の目に飛び込んできたのは、中間辺りから折れた僕の剣だった。





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