第5話 脅威再び
「村が消滅するって……それはどういう……?」
初めは冗談かと思ったが、ガルトの表情は真剣そのものだった。僕は一旦持っていたカップを置き、背筋を正した。
「この村は、あの魔王軍がいてもいなくても……どっちにしろ消されていたんです……魔王に……」
「なっ……!」
じゃ、この村にそもそも救いなんてなかったって事か……?僕はその理不尽さに絶句するしかなかった。
「で、でも!物資とか渡していた筈じゃ……!」
「物資なくなれば、こんな村いらなくなるんです……。そんな村、残すわけないじゃないですか……」
ガルトさんは力なく笑う。それが無理して取り繕っている笑みということは、すぐに分かった。レイちゃんやルシアさん、村の皆んなの前では笑顔で心配をかけないようにしていた。でも、その笑顔は一人になった途端崩れてしまうくらいにガルトさんは追い詰められていたのだ。その事実に、僕はどうしようもない虚しさを感じ、それが痛みとなって胸の中を突き刺した。
「だから、拓様にはこの村から逃げて欲しいのです。拓様までこの村の犠牲になる必要はありません。村の皆んなを安心させるために拓様にあんなお願いをしましたが、いくら拓様でも生きている確証が……!」
「お断りします」
「ーー!!」
それは、ガルトさんの本音だった。真っ直ぐ僕を見据えて、心の底からお願いだった。その願いは、ガルトさん……いや、村長の最期のお願いなのかもしれない。村長の最期のお願い……。叶えてあげるべきなのだろう。でも……僕は……!
「僕はもう、この村と関わりを持ってしまいましたからね。この村は、最期まで僕が守ります」
「うっ……ぅぅ……」
ガルトさんが初めて見せてくれた涙。今まで一人で抱え込んでいた物を誰かと共有するだけで救われる事だってある。もう、この問題はガルトさんだけが背負っているわけではないんだ。僕も一緒に背負っていこう。そう思った。
ドゴォン!!
しかし次の瞬間、外から爆発音が聞こえた。大地を揺らし、ガルトさんの家がぐらりと揺れる。あまりの突然の事にバランスが崩れ、とっさに近くにあった机にしがみつく。何が起きたんだ……?と辺りを見渡すと、窓の外で煙が上がっているのが見えた。
「っ……!」
「拓様……!」
ガルトさんと一瞬目を合わせ頷く。僕とガルトさんは急いで家を出て、爆発が起きた場所へと急ぐ。煙が上がっているのは村の入り口あたりだ。……嫌な予感がする。
◇ ◇ ◇
「これは……!」
「ぁ……ぁああ……!!」
煙が立ち上っている場所に着くと、そこは地獄絵図のようだった。家は焼けているか元が分からなくなるくらいに潰れているかだった。子供はこの状況で何をしたらいいか分からず泣き叫び、女は自分の子供を守るために子供の手を引いて逃げるか、子供を抱きしめて守っている。男は自分の家族を守るために、武器を手に何者かに立ち向かっている。
「全く……つまらない」
男達が向かっていった先から聞こえたその声と共に、男達が一斉に四方八方に飛ばされていく。もはや確信めいた予感がふつふつと湧き上がってきた。無意識のうちに手を強く握りめており、掌は手汗で湿っている。そして、何故か肌がピリピリする。これがいわゆる“殺気”というものなのだろうか。
「ここに“大層強い剣使いがいる”と聞いて来たが……期待はずれだ」
煙が晴れると、黒髪ロングの男が立っていた。右手には細長いレイピアが握られている。黒を基調としたお洒落な軍服を思わせる服装だった。男が持っているレイピアには、村の男を吹き飛ばした時に着いたであろう血が剣先から垂れていた。その血を見た瞬間、ぞわりと体が震えた。……やばい。僕の本能が警鐘を響かせていた。
「ほう?貴様からは異様な魔力を感じる」
「っ……!」
呆然と男を見ていた僕に男は気がつき、こちらに歩いて来る。逃げなきゃ……頭ではそう思っているのに、何故か体が動かない。男が目の前に来た瞬間、もはや息をするのも忘れていた。
「貴様か……。“強い剣使い”というのは」
声が出ない。喉につっかえている様な錯覚が起き、頭が真っ白になっていく。やばい……これはやばい……!
「拓様……!これを……!」
「えっ……?」
そう言われて、ガルトさんが僕に投げて来たのは、銅で作られたロングソードと言われる武器だった。当然だが、先ほどの木の枝とは比べ物にならないくらいに丈夫で重い。右手で持つと、その重さを深く実感する。
「これは……」
「村の倉庫にあった剣です!是非使ってください!」
「ありがとうございます……!」
僕は、ガルトさんが渡してくれたロングソードをしっかり両手で構え、戦闘体制に入る。今の僕には、女神様が授けてくださった『どんな武器でも使いこなせる加護』がある。これがあれば怖いものなしだ!
「…………」
剣を構えた僕を、男は無言で睨みつけてきた。そして、はぁ……と小さくため息をついたかと思った瞬間ーー
「っ……!?」
肩に強烈な熱を感じた。そして、すぐさま痛みが襲ってくる。僕の肩が斬られたのだと理解するのに、そう時間はかからなかった。
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