第4話 この村が
「おぉレイ!勉強はもういいのか?」
扉から出てきた少女に、隣にいる男が声をかける。少女の見た目の年齢は自分より少し下くらい。現代で考えたら、中学2年くらいだろうか。結構親しげだから親子か親戚なのかな?この歳の差で夫婦ってわけではないだろうし。女の子はゆっくりとこちらに歩いて来た。これが『立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花』というやつなのだろうか?
「うん……休憩中……」
少女は淡白に答えると、じっと僕を見つめてきた。
「えっと……」
急な事で上手く声が出なかった。もっとコミュ力がある人なら、こんな時でも何か話かけられたのだろうけど、僕はコミュ力0どころかマイナスの自信がある。逆に自慢できるかもしれない。自慢する人いないけど。
「なんか……貴方不思議な感じ……」
「えっ?」
突然そんな事言われて一瞬戸惑う。どう答えようかと迷っている間も、少女は瞬きもせずにじっと僕を見つめる。やばい、なんか変な汗が出てきた。
「こらこら、拓様が困っているじゃないか」
「拓様……?」
少女が小さく首を傾げる。そういえば、この子はあの集団にはいなかったな。こんなに可愛い娘がいたら、いくら僕でも見逃すわけがない。だから、僕からしても少女からしても、これが本当に初対面なのだ。これ、自己紹介とかした方がいいのかな?
「ほらレイ。拓様に挨拶を」
「うん……。私の名前はレイ。レイ=イリラース……。よろしく」
少女はスカートの裾を摘み、軽くお辞儀をした。おぉ、こういう挨拶の仕方は映画とかでしか見た事なかったな。少し感動した。少女が自己紹介してくれたし、僕もしないとね。
「えっと……ぼ、僕は伊藤 拓。よ、よろしく」
どうしよう、明らかに自分より年下の子より自己紹介が下手すぎた。噛みすぎて自分でも引いた。でも仕方ないと思う。今までに会ったことのない様な可愛い少女に加え、久しぶりに女の子と話すのだ。逆に褒めて欲しいぐらい。
「そして私がレイの父親のガルト=ライアです。以後お見知り置きを」
「ん……?レイとガルトさんの家名違うようですけど……」
「あぁ……よく言われるんです。実はこの子、元々は捨て子だったんです。私達の家の裏口に、名前の書いてある紙とこの子がいまして……。初めは同じ家名で名乗っていたんですけど、色々ありまして……この子から別々の家名にしようって言ってきたんです」
「なんでですか……?」
「それは私からは何とも……」
レイちゃんの方をそっと見ると、無表情のままガルトさんの隣に立っていた。この子は今、どんな気持ちでこの話を聞いているのか……今の僕には分からなかった。でも、良い気持ちでは聞いていないだろう……そう思った僕は早々にこの話を切り上げることにした。
「えと……ガルトさんの家って、周りと比べて大きいですね」
「ははっ、そう言っていただけると光栄です。一応この村の長をしていますから、皆んなの道を示す必要があります。しかしそれには、それなりの威厳が必要ですからね。私にはこの家くらいしか威厳を示せないんですよ」
「なるほど……」
「ささっ、立ち話もなんでしょうから、どうぞ我が家へ」
ガルトさんがそう言って僕に家の中へ入るように勧めた。ガルトさんに家に入ると、まず目についたのは大きな花だ。真っ赤な紅色で、花の大きさが尋常でないくらい大きい。下手したら僕の顔以上の大きさだ。その花は花瓶に活けられており生き生きしているように見えた。その花に気圧されていると、横から優しい声が聞こえた。
「あら?お客様?」
声のする方を見ると、スラッとしていて、長い髪を後ろで束ねている優しそうな顔をした女の人が立っていた。この人がガルトの奥さんなんだろうか?異世界ってこんなに顔面レベル高いの……?レイちゃんといい、この女性といい顔面偏差値高すぎる。
「こいつが私の妻のルシアです。おいルシア、この方はこの村の英雄なんだ。何かご馳走でも作ってくれ」
「そ……そんな英雄なんて……!」
「あらそうなの?それなら腕によりをかけないとね!」
ルシアさんは腕をガッツポーズにしてやる気を出している。これ、断れる雰囲気じゃないな……。でもまぁ、この世界に来て何も食べていないし、正直お腹も空いている。ここはお言葉に甘えさせてもらおう。
「レイ、ご飯作るの手伝って」
「……分かった」
そう言うと、レイちゃんとルシアさんは奥のドアへと消えていった。僕はと言うと、やる事が無くなって暇になってしまった。その様子を見ていたガルトさんが声をかけてきた。
「あちらでお茶でもしましょうか。先日に良質なコーヒー豆を商人から丁度貰ったばかりなんですよ」
ガルトさんが僕をリビングにあるテーブルに案内して、僕が椅子に座るとガルトさんはカップやティースプーンを二人分持って、ルシアさんとレイちゃんが入っていった部屋に入っていく。どうやらあそこがキッチンのようだ。しばらくすると、二人分のコーヒーとお菓子が乗っているお盆をガルトさんが運んできた。
「お待たせしました」
そう言いながら、僕の前にコーヒーが置かれる。カップを手に取りコーヒーの香りを嗅ぐ。コーヒー独特の濃厚な香りに体と心が安らぐ。少し啜ると、口いっぱいにコーヒーの仄かな苦味と香りが広がりとても美味しい。このコーヒーなら何杯でもいけるかも。僕がコーヒーを楽しんでいる間もガルトさんは神妙な面持ちだった。どうしたんだろう?
「拓様……一つ……よろしいでしょうか……?」
「?」
まだ何かあるのだろうか?今度はいったいーー
「この村が……消滅するかもしれません……」
「ぶふぉっ……!?」
ガルトさんの言葉に、口に含んでいたコーヒーを噴き出してしまった。
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