第3話 運命の出会い
掛け声とともに男は剣を構え、僕に突撃して来た。それを、右に飛び避け回避する。そして、避けている最中に落ちていた木刀程の長さの木の枝を掴む。木の枝っていうのが少々頼りないが、見た目以上に頑丈そうで何もないよりはマシだろう。
「ふん、そんな木の枝で私の剣が止められると?」
「無いよりはマシかと思ってね」
口ではそんな軽口を言っているが、実際は全然余裕がない。普通に考えて、木の枝が剣に勝てるなんて絶対ない。こんなの死ぬ時間が少し伸びるのが精々だ。
「では、その木の枝で、この状況を打破して見せよ」
男はそう言い、剣を横薙ぎする。男の剣は2m弱はありそうな大きな剣で、前へ飛んでも後ろへ飛んでも、横へ飛んでも防げないだろう。だからーー
バキンッ!
「なっ!?」
持っていた木の枝で剣を一瞬だけ止める。剣は木の枝をへし折ったが、それを犠牲にして僕は剣の間合いから外れる。男は、信じられない光景を目の当たりにして動揺していた。その隙を逃さず、すかさず腹に殴りをいれる。どの程度かは分からないが、神様に身体能力を底上げされている。無傷では済まないだろう。
「ぐべっ!?」
腹に殴りを入れると、男は聞いたことも無いような音と声を出して、数十メートル吹き飛んだ。
「うっそ……」
これは予想外だった。大の大人を数十メートル吹き飛ばす程の力が、少なからず僕にあるということだ。周りも僕の力にびっくりしているが、僕もびっくりしている。多分、ここにいる誰よりも。
「お、おめぇ!!隊長に何しやがった!?」
うわっ、下っ端テンプレ発言。皆が唖然としている中、魔王軍の兵一人が声を荒げる。それを合図に、取り巻く他の兵も次々と声を荒げる。しかし、僕が拳を少し動かすだけで、「ひっ……」と言ってビビっている。何これ楽しい。ん〜……そうだな……。
「今すぐその人を連れて退いてくれるなら、僕は何も手を出さないよ」
正直これを機に魔王軍に目を付けられて、ちょっかい出されたら面倒くさい。出来ればここで関係を切っておきたい。
「ぐっ……!この借りはいつか返してやるからな!!覚えとけよ!!」
逆効果だったらしい。マジか……。兵は隊長を数人で担ぎ、その場からそそくさに離れた。魔王軍の人たちが離れた瞬間、村人たちが一斉に歓声を上げた。え?なになに?
「おめぇやるじゃねえか!魔王軍を追っ払ったのを見たのは、人生初だ!」
僕の背中をバンバンと叩きながら、大柄な男が大笑いしていた。痛いから正直やめてほしい。辺りを見ると、先程までがらんとしていた村には、20〜30人ぐらいの人達で溢れかえっていた。こんなに隠れていたのか。
「いや〜……長年苦しめられてきたから、すっげぇスカッとしたな!」
ある人は隣にいる人と肩を組んで笑い、ある人は苦しめられていた状況からの脱却涙をしている。でも、その中には暗い顔をしている人もいた。
「魔王軍をやっちまって大丈夫だったのか……?これを機に魔王軍が総戦力を上げてこの村に攻めてきたら……」
不安な顔をした青年が言った言葉に、先程まで喜んでいた者も暗い表情になる。その不安は村全体に広がり、皆んなの表情がどんどん暗くなっていく。どうしようかと悩んでいると、僕の目の前に先程の中年の男が僕の前に座り、頭を下げた。え?何事?
「先程はご無礼を致しました。都合のいい事は承知の上ですが、どうか私めの願いを聞いてください」
「願い……?」
「はい……。どうか私達の村のお守りくださらないでしょうか……?」
「え……?僕が……?」
ふと、村の方へ目を向けると、皆んな僕の方を真剣な目で見ている。あ、これ断れないやつだ。そもそも、この空気で断れる程僕に根性はなかった。でも、村を守るって言っても、自分の能力の範囲とかもろもろ分からない事ばかりなのに、無責任に承諾するわけには……
「お兄ちゃん……行っちゃうの……?」
「っ……」
村人の中に、まだ5歳程の女の子がいる事に気づく。もし、僕が断ったら魔王軍がこの村を攻めて、皆んなが虐殺されるかもしれない。もちろん、女・子供も……。それに、魔王軍にこの村に目を付けさせてしまったのは、自分が隊長をぶっ飛ばしてしまったからだ。自分が撒いた種を無責任に放り投げるなんて……これでは転生前と同じだ……。
「……絶対とは言い切れませんけど、僕で良ければ村を守ります」
「……!ありがとうございます……!」
その瞬間、村では大歓声が上がった。これは、魔王軍が撤退した時よりも声大きくないか?少したじろぐと、後ろにいた大柄な男に担がれてしまい、そのまま胴上げされた。……このまま上げて地面に落とすとかないよね……?
「あの……良ければお名前教えて頂けますでしょうか……?」
「えっと……伊藤拓って言います」
「拓様ですね。それでは、拓様の住居に案内させてもらいます」
「住居?」
急に現れた僕なんかの住居なんてあるのだろうか?今日の夜のために寝床を探してたけど、まさか屋根がある場所で寝れるなんてツいているかもしれない。
「ここです」
「マジか……」
そこは、小さな村には相応しくない立派な家が建っていた。部屋は4〜5室くらいはあるんじゃないだろうか?予想以上の大きさに唖然としていると、扉がギィィと音を立てて、ゆっくりと開かれた。
「……?お客様……?」
そこには、銀髪ロングの、人形と間違えてそうなくらい整った顔立ちにつぶらな瞳をしている美少女が立っていた。
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