1章 レイの村編
第2話 転生そして遭遇
「どうするのか、ご自身の意思でお決めになってください」
「僕は……」
生きるのに恐怖がある。でも、このまま何もせず終わるのも嫌だ。そんなわがままな思いが、僕の中でうずまいていた。仕方ない………のだ。今までがロクでもない人生だったんだから。
「決まりましたか?」
もし、またやり直せるなら……。こんな僕でも普通の人生を歩んでいいなら……。僕は……!
「転生……したいです」
スエリスは満足そうに頷き、僕に手をかざす。
「分かりました。では、転生を開始します」
「ちょっ!ちょっと待って!!」
「?」
「僕、向こうの世界について何も知らないんだけど……」
僕を転生させようとするスエリスを止める。まだ、転生する世界の事とか常識とか諸々知らない。このまま転生させられても、飢え死にするか路頭に迷って死ぬしかない。
「……確かにその通りですね。転生してすぐに死なれましても、困りますし」
言い方よ。でもまぁ、今はスルーしてあげよう。
「向こうの世界は、一言で言うとファンタジー世界と似たような世界です。魔物や魔王もいますし、冒険者もいます。あとは行ってみればわかるでしょう」
「大雑把すぎるだろ……」
本当にこの人は、僕に情報を与える気があるのだろうか?
「では、簡単に死なないように、神の加護を与えましょう」
「加護?具体的にはどんな効果があるんだ?」
「まず一つ目は、『どんな武器でも使いこなせる加護』です。二つ目は、『身体能力および五感の底上げの加護』です。どちらも生きていくのに、きっと役に立つでしょう」
確かに、武器の訓練など受けているはずない僕にとって、武器を自在に扱えるのは凄く助かる。身体能力および五感の底上げも同様だ。
「最後に私からささやかなアドバイスです。転生し、目が覚めたら、道なりに進みなさい。そこからあなたの物語が始まるでしょう」
「分かりました……」
スエリスの言葉をしかと聞き、今度こそ身を任せる。そっと目を瞑り、転生へと備える。
「それでは今度こそ……転生を開始します」
「はい」
すると、スエリスが何やら唱えると、僕の意識が眠るように深く深く落ちていった。
「今度こそは……楽しんで……」
スエリスの呟きは、僕には既に届いていなかった。
◇ ◇ ◇
「ん……?」
風が肌を撫でる感覚を感じ、僕の意識がゆっくり覚醒していく。何度か瞬きをを繰り返し、自分の瞳に光を馴染ませる。少し重い身体を起こし、辺りを見渡す。
「ここは……?」
見渡すと、そこは数本の木があるだけの野原だった。どうやら僕は、ここに寝ていたらしい。
「マジで体治ってる……」
関節があらぬ方向を向いていた体が、嘘みたいに治っている。痛みも違和感も全くない。完治している。強いて言うなら、少し身体が重いくらいだ。
「確か、道なりだっけ?」
スエリスに言われた事を思い出し、道を探す。すると、少し先に一本だけ人が歩くための歩道があった。これの事を言っていたのか?
「どっちに進めばいいんよ……」
道なりに進めばいいとは聞いたけど、どっちに進めばいいかは聞いていなかったな……。ん〜……適当でいいか……。どうせいくら考えてもわからない事だし。
しばらく道なりに進むと、小さな村が見えた。
「あれの事か?」
村に行ってみると、人が一人もいなく、ガランとしていた。ここが僕の物語の第一歩……?僕の物語寂しすぎるだろ……。そんな事を考えていたら、どこからともなく矢が飛んできた。反射神経でかろうじて避け、その矢は、僕の頬を擦りながら飛んでいった。もし、身体能力を底上げしてもらえなければ危なかったかもしれない。
「矢……?」
突然の事で、頭の処理が追いつかなかった。でも、理解できたこともある。
(僕、攻撃された?)
自分が攻撃されたという事実だ。僕はこの村に……この世界に来て1時間も経ってない。恨まれるような……ましてや矢を撃たれるような事をした覚えがない。この世界に来て早々心が折れそうだ……。でも、この矢のおかげで、この村には人が住んでいることが分かった。素直に喜んでいいかは疑問だけど……。
「誰かいるんですか!?僕は何もしませんから、出てきて話をしてください!!」
しかし、誰も出てこない。警戒しているのか……?少し待つと、家の陰から中年の男が出てきた。小太りで、どこにでもいそう男だ。両手で斧を持ち、僕に向けている。
「そっ、それ以上近づくなっ!!もうこの村には何も無いんだっ!お前ら魔王軍には渡せるだけ渡したっ!なのに、他に何を望む!!何故奪うんだ!?」
「僕はそんな事……!」
男は、僕に敵意を宿らせた瞳で僕を睨みつける。これは話通じないな……と思った。この村に入ることは出来なそうだし、さっきの道を逆に行ってみるかと、戻ろうとするとーー
「誰だ貴様、見慣れぬ顔だな。ここは魔王様のテリトリーであるぞ。ここに入るという事は、どういう意味をもたらすか知ってこの地に足を踏み入れたのか?」
右の方から、全身黒ずくめの装束を着た、いかにも怪しい連中に話しかけられた。ざっと見20人くらいか?てか、ちょっと待って?魔王?テリトリー?
「あの、ちょっと何言っているか分からな……って、え?」
見ると、先頭に立って僕に話しかけてきた男が、剣を振りかぶって今にも僕を殺そうとしているのが見えた。
「あぶなっ!?」
咄嗟にその剣を後ろへ下がって回避する。1秒でも遅れてたら死んでたかもしれない。
「ほう?私の剣を避けるとは、なかなかやりおる」
男はフットを笑い、僕に剣を向ける。どうやらやる気らしい。でも、今の僕には、1つ大きな欠点がある。それは……
(武器がない……)
そう、僕は今、目の前にいる男から身を守る手段がないのだ。どうあがいても、僕は殺されるだろう。
(そういえば、僕の加護って……)
僕はある事を思い出し、辺りを見渡す。
「では、いくぞ!!」
僕は、今この瞬間だけ、勝機を神様に賭ける事にした。
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