avant-titleB「そして深い森の中、一人少女は夢を見た。暁に染まる空の下。それは刹那の白昼夢。儚い希望の愚かな結末。泡沫の幻想が終焉へと至る。その旅路の始まりの記憶へ――」



――夢。


 夢を見ていた。


 それは懐かしい記憶。


 暖かな陽だまりの中、平穏な幸せを生きる――夢。


――。



 私は夢を見る。

 それはもう、取り戻せない過去。

 失ってしまった大切な思い出。



 脳裏に浮かぶのは幸せだった頃の陽だまりの……。



――そう、それは……夢。



 手に入れたくて、もがき続けて、やっと得られた刹那の……。


 浮かんでは消える、ありし日の残り香。



 私はきっと、幸せだった。

 失ってしまっても、その時の気持ちだけは覚えている。



 だから―ー無くしてしまったとしても、それは永遠。



 さぁ、行こう。


 傷ついた翼をめいっぱい広げて。



――手を伸ばす。



 そしてまた、きっと掴み取る。



 だから――。


 いつか再び、あの暖かな日常を取り戻すために。


 今は一時、眠りにつこう。



 刹那の時の旅路の果てに、また、飛び立てる力を取り戻せるように。




 私はまた、夢を見る。

 ありし日の思い出を。


 私はかつて夢を見た。

 幸せだった陽だまりの記憶を求めて。




 見上げた空は暁の紫と、オレンジの朝焼けに染まっていた。



 終わってしまった紫の時間。

 夜と朝が交差する狭間の時間。

 あらゆる生が眠る時間。



 黒々とした樹々は終わりを見せず、未だ辺りは暗い森の中。



 鳴り止まない銃声。




――溶け込んでいく。


 白の中へと。


 ズブズブと、暖かな泥の中へと沈んでいくような……

 それは安らぎの……そして絶望の……。


 ……心地よい、まどろみの合図。




 刹那の時に見る夢は――



 帰りたくても、もう帰れない。

 壊れてしまった時の欠片。



――失ってしまった暖かな日々の思い出。



 その始まりの記憶。






 そう、全てはあの日から始まった――。




――彼と出会ったあの場所から。





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