一目惚れ

 一目惚れなんざ、四十五年間かろうじて生きてきた中で、一度だってお目にかかったことない。


 たしか中学生の時だったか、やけに鼻の高いバトミントン部の男、そうだ、前田という喋るだけしか能のない奴が、練習試合で見かけた女の子に一目惚れしたと、やけに自慢げに話していたな。なんて説明していたか忘れたが、一足先に人生の醍醐味を体験した事を、同情求めながら誇るように、恋する辛さを身勝手に話し続ける。気味悪いほど女性の事を褒めちぎるその態度が、やたら気にくわなかった事だけは覚えている。


 そうだ、おれだってその当時はすでに好きな子がいて、誰にも気づかれずに、さりげなく相手の動きを知ろうとたくらんでいた。毎晩寝る時思い浮かべて、枕を強く股間に抱きしめることを、ははは、こんな中年が思い出すには、べっとり脂汗をかいちまう。淡い思い出どころか、夢にも描けなかった今の現実を突きつけるだけの、腐った塩辛ぐらいのものか。


 前田の一目惚れが最初で最後、半端なやんちゃを振りかざして、世間下目に歳を重ねりゃ、気づいた時はすでに深みの中、商売回す頭もなきゃ、人にぶら下がる要領もない。漢字検定ほどの価値もない、立派な自分だけの信念だって、他人の得にならなきゃ何にもならず、職を得る邪魔ばかりしやがる。変えようったって、とっくに固まっちまって言うこと利かねえ。


 一目惚れなんぞに縁がない。好きになった女は皆、気がつきゃ好いていたような曖昧な女ばかりだ。心底愛した女も何人かいたが、ああ、高校に入った頃から、心底恋することなんてなかったな、そういえば。


 まったく、とんだ事になっちまった。梅雨の半ばの晴れ間が好く、派遣の仕事がないっていうから、ついつい渋沢松田間の景色を眺め、ついでに箱根駅の紫陽花でも見ようかと、柄にもない呑気な休みを考えちまった。こいつは全部陽気のせいだ。


 ちょっと思い出しても、あの、得体の知れない、苦笑いばかり浮かばせる、むず痒い胸奥の火照りが焚きつけられる。人生の半分ぐらい生きていれば、普段味わうことのない珍しい感情も、そりゃ多く知っている。精根尽くして築き上げた会社が倒産した時、それに合わせて婚約済みの女が隠れた時、赤灯が蟻のように周りに群がった時、おふくろが亡くなった時、いや、もっと嬉しい時もあった。


 しかしこいつは今まで味わったことのない感情だ。小さい頃の、女に恋した時に似ているようで、まったく質が違う。歳を重ねて擦れちまったせいじゃないな、こいつは完全に別物だ。交通事故に遭うようだとは、何かで聞いた事あったが、まさしく事故の衝撃と同じ、唐突に襲われる重圧、一瞬で世界の裏側へ移動する頭の混乱、時間が経つごとに痛みが増してくるこの浸透、交通事故そのものなんだよ。


 あの子はどの駅から乗って来たんだっけ? 相模大野の時点ではいなかったよな、やっぱり海老名か厚木だったはずだ。視界の脇に薄いピンクと黒、なにより白くて細い脚が光って目についた。確かめようと目を追えば、乗客に紛れ、隙間を動く色のみ覗けるだけで、すぐに巨大な腹の裏に消えちまった。


 まったくでかい腹だったよな! どうしてああいう中年のおばさんは、ああも図々しく、太鼓と呼ぶには立派過ぎる腹を、でかでかとおれの顔の前に据えるんだ? 乗客が目の前に座っているんだから、少しは気を使って、間隔を開けて吊り革を握ればいいのによ。白いTシャツを透ける醜い腹が、興味をそそる色を飲み込んじまった。まさに巨大な卵のような腹だった。車窓の景色も何もあったもんじゃない。


 視界を埋める垂れたでかっ腹が、伊勢原停まった電車にころころ転がりゃ、驚いたことに、同じ女とは思えない艶な姿が向かいの席に! 


 しゃんと揃った櫛の前髪、後ろに結った髪が引き締める、玉と言う他ない丸顔、これまた細い首、風に散りそうなピンクのカットソーに、骨に沿って張られる淡い皮膚、膨らみのおだやかな胸、自信を示す短い漆黒のスカート、慎ましやかに両手を添えて、腿と腿を挟んだ奥をぼやかせ、細い脚をほどよく寝かす。 


 おせちを見るようだと言っちゃ、なんだか仰々しいが、見るも喜ばしい豪華な料理を目の当たりにするんだから、やはりおせちのようだ。繊細に透きとおる体の部位に、控えめで小さな個々の形だ、ゆかしいところが安っぽくない。それでいて、脚には恐ろしい色気を含んでいる。


 そんな女の子が、瞳を閉じてすやすやと眠っているんだ。背筋を曲げず、首も傾げず、立場をわきまえた振る舞いで寝入っている。おれが中年の卑しいおやじだからじゃない、あれを見れば、性も歳も関係なく、惚れ惚れと見ない奴がいるか! そうだ、あの子は瞳を閉じて、紫陽花染まった上瞼をさらし、鑑賞として存在していたんだ。対峙しているのもはばかりたくなる、おれの卑小さを圧迫する美しさが、威嚇も警戒もすることなく、静としてじっとしていたんだ。おれの四十五年間で、一度だって個人的な関係を許さない、圧倒的な位の人間が!


 そんな強い存在に、いくらおれだって最初はどぎまぎした。眼がつぶれるほど見とれていたくったって、あまりに美しいもんだから、なんだか罪悪感というか、妙に落ち着かなくてよ、真正面にいる女の子から目をそらして、平凡極まる男子学生の後ろの風景に視点を定めて、盗むように女の子を見た。しようがねえ、何も持たないしがない男だ、夢も虚勢も中途半端な弱い中年だ。


 けどよ、電車に乗っていて、正面にいる人を見るのは普通だろ? 見たいものが正面にあるのに、わざわざ見たくねえもんを見て、不自然に前を見るほうが変だろ? 第一、おれの隣に座っているおっさんなんか、スポーツ新聞を広げながら、いくらだって字なんか見てねえんだ、それに比べりゃ、おれが正面を見続けるのもおかしくないだろ。いつもは真正面を向いて座っているんだしな。


 それからだな、機会を逃さないように意気込み、周りの目も気にしないで、まじまじと女の子を観賞し続けたのは。見れるものは、見れる時に見とくべきだもんな。女の子がちょっとした拍子に眼を覚ませば、絵を見るように、細かい所まで見ることなんか出来やしない。次の駅で降りでもしたら、視界の脇に入れることさえ出来ない。悔しがること間違い無しだ。


 ほんとむずむずする時間だったな。触れるだけで融けそうな女の子、傍に寄るだけで気が違いそうな女の子、あんな子を視界に独り占めにして、血管の伝う筋、微細な皮膚の紋様、浮かぶ質感まで覗けた。おやじがこんな事をすりゃただの変態か、いや、絵に走らされたタッチ、細かい技法、眼を凝らさなきゃ気づけない、小さな色を見る鑑賞者のようなもんだ。美しいものを見ようとする姿勢は、ちっとも変わりゃしない。


 中でも股間の隙間、梅雨に似合わぬ春の香りをまとう姿態の中で、唯一暗い影を落として、華やかさを妖艶にまどろむスカートが、薄い布地に凛として、一切の無駄なく腰まわりを隠す。あれは見事だった。すこしのずれでもあれば、股間の膨らみに光があたる。中年のおれなんか、ただの助平で片付けられちまう。


 しかし期待しないわけにはいかない! 偉そうに女性を褒め讃えておきながら、やはりおれは若い股間が好きな中年男性なんだ。見たくないなんて思いもしない、むしろ見せろだ。美に取りつかれた芸術家どころか、わずかな金にすがりつくごろつきだ。花より団子に騒ぎ、進んでわかめ酒、いやいや濁っちまう。


 そんなだから、秦野に近づく頃には、隙間ばかりに集中しちまった。時折全体を眺めて、女の子の美を確認してから、可憐な美を単なる性欲の対象に下げる、股の色が表れるのを待った。こうなると中年の卑しさ、見初めの軽い遠慮などとうに失せ、面の厚い欲に正直になっちまう。恥じらいなんざ上辺だけのもだ、すぐに手の平を裏返しちまう。


 それでも相手は洗練された美の存在だ。どうせ、幼稚園にならないぐらいから自分の優等に気づき、磨いて、ぼろを出さないことに励んできたんだろう。その証拠が、いくら寝ていようとも乱れない、練りこまれた上半身の姿勢と、見えそうで見えない脚の位置だ。おれならすぐに、秘部をあからさまに晒しちまいそうだ。とてもあんな姿勢を保っていられねえ。


 それでも万が一にへまするかもしれないと、渋沢松田間の景色に目もくれず、ただ股間の影一点に眼を凝らした。次の駅が近づくと、降りはしないかとひやひやしたが、降りる際に色を晒すかもしれないと、気を抜くこともなかったな。男の助平根性には自分でも驚いちまう。


 それでも隙を見せない艶な女の子、静かに眠るその裏で、卑小な男のあせりをほくそ笑んでいるのかと、思うこともちらほらあった。


 さすがに足柄を過ぎて、小田原が近づいたと知ると、見れない事の悔しさがいよいよ募り、残り少ない機会を逃さぬよう、心を引き締めにかかったその途端だ。なんの前触れなく、彫像のような体が動いて、その、若い紫陽花瞼に包まれていた瞳が開かれた。


 なんて大きな白眼が存在するんだ! 黒が小さいわけじゃない、眼のキャンパスが広すぎるだけ。おれはつくづく思い知らされた。どんなに体が優れていようと、結局人を決めるのは眼だ。彫像なら眼がなくとも、腕が欠けても、美しく居られるかもしれない。しかし生きた人間を決めるのは、その眼に拠るところが大きい、いや、すべてと言ってもいいだろ。どんなに不出来な部位も、魔法のような眼の力に活かされちまうのに、見ごたえある可憐な体とくりゃ、そりゃあとんでもねえ。


 眠っていたのが嘘のように、寝ぼけた瞳をしていない。なんだ? 汚いおっさんを一秒だって見ないよう、ただじっと眼を閉じてやり過ごしていたのか? 自身の美を見せつけ、同情として眼の保養を許したのか? それとも気ままな悪戯か? 


 怯えちまった。おれの乏しい想像ではとても描かれない、強烈な命を持った瞳に射られ、ただ衝撃に震えるだけだ。吸い寄せられながらも、咎められるようで、とてもまともに見られない。悲しい中年の習性か。


 車窓の風景だけ明るく移る、人もまばらな、心地良い、昼に近づく小田急線が、こうも劇的に世界を変えるとは。たった一人の女の子が、その瞳を開かせるだけで。


 至福の終わりを告げるよう、電車は優しく速度を落とし、小田原駅に着いた。それでもおれは立派な男だ、二度と見れない機会を捉えるため、勇気を絞って股間の誘いに視線を集中させた。いくら心がざわついて、口から湯気が出ようとも、本能だけは忘れない。他人に助平と思われ、女の子に寒気を覚えられても、これだけは譲れない。見るは一時の恥だ。


 しかし手練な女の子、わずかにずらした脚に期待寄せるも、肝心な部分は晒さずに、すっくと立ってホームに降りてしまう。


 なんて優雅なんだ! おれの見る間、わずかな隙をたったの一度も作らず、性に汚れぬ際を保ち、その艶姿を卑猥に落すことなく、プラトニックな小僧でも讃歌しそうな、完全なる美の形跡を残した。なんであんな女の子が、この時間の、こんな小田急線にいるんだ?


 強烈な余韻に陶酔して、もっと味わいたいと、我を忘れて後ろ姿を追いかけた。さすが手落ちのない女の子、歩く姿にも芯が入り、ホームの階段上るも手抜かりない。


 上りきると、凡俗な人の群れの中、たった一人魅惑な存在を誇示しながら、足早に改札を抜けて行くのが見えた。見失っちゃたまんねえ、人の群れを追い越して改札に近づき、女の子の姿を追いつつキップを入れると、ああっ! 入場券か! 間の抜けた機械音と、容赦のない扉に行く手を阻まれちまった。


 なんて情けねえ。駅を出る金が勿体ないとけちって入場券を買い、それだけの金しか持ってこないから、こんな羽目になっちまった。いわば日頃のおれが、女の子との接点を失わせたようなもんだ。定職も持てずに、派遣の肉体労働でどうにか食いつなぎ、酒には金を払うが、それ以外にはとんと払わねえ。そんなけちったれな性格、いや、そうさせる今の生活が、女の子を、はあ・・・・・・


 なんだか魂抜かれて、骨抜きにされちまった。首筋のむず痒い青い感情が沸き立ち、鼓動を焚きつける。胸から腹にかけての空洞が、次第に形を表して伸縮する。おれはあんな女の子を見たことねえ、いや、あったとしても、あんな瞳を生で拝んだことはない。


 はあ、夢とも思う生々しい記憶は頭を巡り、静と湛える婀娜な様から、いくらだって痛みは募ってくる。おれだって恋は知っているさ、しかしこんなに血を沸騰させる代物は、とんとお目にかかったことはない。


 やられちまった、こいつが一目惚れか。あの子に会いてえ。笑っちまうことに、どうしようもなくあの子に会いてえ。会って、話しかけて、うお! 死んじまう! 話しなんかしたら、あの瞳を目の前に、耐えられねえ、おじさん嬉しさに舞い上がって、失血死しちまうよ。


 あの子と話せたらな、良い匂いするんだろうな・・・・・・ どんな声で話すんだろうか? きっとか細くも芯のある、濁りのない冷やかな声で、さっと受け答えるだろうな。ああ、笑うかな、笑い顔はどんなだろうか? 笑顔を振りまかれたら、ミイラだって潤っちまうだろうな、半端に乾いたおれなんか、溢れて破裂しちまいそうだ。


 でもあの子は行っちまった。けちな心に遮られ、話しかける機会を失った。いや、無理だ、改札機を通過したって、どうしてこんなおれが話しかけられる? 一つだって持っていやしない、あの子に立ち向かえるだけの、あの子を惹く為の道具なんか。せいぜい狡い小細工を弄するだけで、本物になんかてんで通じないのがおちだ。


 なんで今頃一目惚れなんかするんだよ! 金も職もなくていい、知識も経験も要らない、たった一つ若ささえあれば! そうだ、向こう見ずな血気溢れる若さがあれば、おれは改札機を乗り越えて、駅員をぶん殴ってでもあの子に辿り着いているんだ。


 たまらねえよ。こんなおれの歳になって、若者だけが味わうべく一目惚れに襲われるなんて、いったい何の因果があってこんな目に遭う? お門違いもいいところだ、神様も耄碌してやがる。


 あと二十年若ければ良かった。それならおれも遠慮なく、あの子を惹く為に命を捧げたさ。あの子が笑い喜んでくれるなら、おれはどんな境遇にだって耐えて、あらゆるしがらみにそっぽ向かず、真正面に立ち向かい、描かれた人生を切り拓いたさ。ああ、あの子がおれに!


 けど遅い。中年男の青い夢なんざ、湿気たマッチほどにも価値がねえ。あまりに現実を見る目が肥えて、擦る気さえ沸いてこねえよ。


 それでもあの子に会いてえな。話しかけるなど、おこがましいこと望まないから、もう一度だけ、あの広い瞳に射抜かれたい。ああ、それでいいよ、ほんと。


 もう会えないか? いや、会えないこともなさそうだな。海老名か厚木だっけ、違うな、小田原だ。小田原の改札を毎日張ってりゃ、もしかしたら会えるかも? そうだろ、会えるだろ。小田原だめなら、厚木と海老名も張ればいい。大した仕事をしてるわけじゃねえ、そんなの放り出して、あの子を探すのに日を尽くせば、いつでも会えるだろう。生活パターンさえ知ってしまえば、駅で長く待つこともない。


 それはいいな、それならこのおれでも出来るぞ、あの瞳を覗くのなら、おれだってそれぐらいは頑張れる。へたに話しかけて、現実を突きつけられるよりも、最初から現実をわきまえて、遠くから眺める事に徹すりゃ、そうそう痛い目にも遭わないだろ。


 馬鹿野郎、そんな考え方が痛いんだよ。そんな負け犬決め込んでかかるから、今のおれに至ったんだろ? そんな半端な事するぐらいなら、いっそあの子を忘れてしまえ! ・・・・・・ないよな、あんな瞳、たやすく忘れることできりゃ、そもそもこんなに悩まねえんだよ。


 やっぱり話しかけてえな・・・・・・ おっかねえけど、近くであの子を感じれりゃ、きっとよ、生んでくれてありがとうさ、両親に感謝すること間違いなしだ。いや、思わねえな、もっとましな体で生んでくれと思うだろ。


 毎日見れば話しかけたくなるよな。話しかけて知り合いになれば、生活も潤うだろうな。あの子に合った身だしなみを揃えようと、必死になって働くだろうな、ああ、必死に働きてえな。


 いやそうじゃねえ、必死に働いて身なりを整えれば、こんなおれでもそれなりに格好がつくだろ。そうだ、外見磨くことに必死になりゃ、中年だってちょっとぐらいは物になる。そうだよ、若い女を惹きつける衣服を身につけ、受ける話題を叩き込み、心を操る陽気な話術を揃えりゃ、あの子に話しかけても朽ち果てないような、頑強な体に仕上がるだろ。


 そいつはいい! イベント設営の仕事に、女釣る事しか能のない、前田のような青年が幾らでもいる。仕事ができねえくせに、生意気に口ばっかり発達した、拳骨で思い切りぶん殴っても手を傷めるだけの、どうしようもねえのがたくさんいる。癪にさわるが、あいつらを利用して、あの子に話しかける為の、最低限の作法を身に着けるか。考えただけで腹が立ってくるが、あの子の為なら我慢してやる。我慢できなくなったらぶん殴ってやる。


 あの子に話しかける事も夢じゃないぞ。なんだか、本当に話しかけて、仲良くなれそうだな、でも知り合っちまえば、物にしたくなるよな。ああ、あんな子がおれの彼女に? おお背骨が痒い! もう彼女を作る歳じゃねえんだ、愛人だよな、別に結婚して不倫するわけじゃないが、そう愛人、まさかあの子結婚してねえよな?


 あんな子がおれの女房だったら? 想像するまでもねえ! 金、金が必要だ、金、あの子に話しかけるには、ある程度の努力でなんとかなるが、あの子を物にするとなると、莫大な金が要る。そうだ、金があればそれも可能だぞ!


 もう一度事業でも興すか? とろとろ働いたって、金なんか入って来ねえんだから、どかんと金を集めて仕事を興すか? そうだな、もう一度社会の荒波に飛び込んでみるか? うまくいきゃ、精鋭気鋭の中年社長なんかと呼ばれて、鷹だか鷲だか鶏だか知らねえが、乙な獣に喩えられ、経済紙面を賑わすだろ。そうなりゃ、女房は和服の似合う艶な女、細い体に強さを秘め、銀杏に結った玉の面に、静かに湛える二つの白眼、おっと、もう箱根湯元か。 


 梅雨の晴れ間も終いか? あれだけ晴れてた午前の空も、すでに重い雲に延して、小雨を降らし、じめじめした陰気を取り戻すか。


 おお、ちょっと早いか、 ・・・・・・それでも立派に膨らんでいる。ああ、陽に照るよりも、やはり露濡れた艶姿だな。

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