第61話 真っ白

 そこから先の展開は速かった。

 あっという間にミクリが生贄になり、どこから現れたのかわからない鎖でぐるぐるに巻かれて、とても俺たちでは追いつけないスピードへどこかへ行き、そのどこかで光をまき散らしながら爆発した。

 俺たちはその間、何もできずにただ見ているだけだった。

 その理由は3つ。

 まず、頭が状況を理解できず、ついていけなかったら。

 2つ目は、単純にコトに触れるのが怖かったから。

 3つ目は、ずっと一緒にいた加恋を失うのだったら、自ら名乗り出てくれたミクリを生贄にした方がいいのではないかと思ってしまったから。


 1つ目の理由は、まあ、頷ける。

 だが、他は一体なんだ?

 特に3つ目なんか、クズじゃないか。

 しかし、一瞬でもその考えが頭をよぎり、俺たちの動きを止めていたのは確かだ。

 特にシンジロウさんなんかは、ミクリとはそんなにつながりはないから、罪悪感も何も覚えなかっただろう。

 とにかく、俺たちは何もせずに見ていくだけだった。

 突如鳴り出した雷を、家でただやむのを待っているように。

 全てが終わるまでを眺めているだけだった。


 その時、正直頭の中は真っ白で、何も考えられなかったのにもかかわらず。

 いや、逆に何も考えられていなかったからこそ。

 出ていく寸前のミクリのあの笑顔が忘れられない。

 初めて見る本物の笑顔で、何かを言った。

 何を言ったのかは残念ながら聞き取れなかった。

 3日も一緒にいなかったけれど、そんなものを見てしまえば、脳内から離れなくなってしまう。



「おい、おい、春樹」

「シンジロウさん……」

「今はフェイトディザスタアの真っ最中だ。自分の命を守ることを考えろ。そういうゴタゴタはまた今度だ」

 シンジロウさんの言葉ではっとする。

 俺たちがこうしている間にも、ほかの場所ではたくさんの人が生き残りをかけて頑張っている。

 このままでは生き残ることができなくなる。

 俺は今度こそ、力を起こすことに集中した。

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