第57話 生贄

「まさか、これって……」

 星也がぽつりとつぶやいているのが聞こえる。

「ああ、そうだ。予定より早まってんな……」

 シンジロウさんすらも攻撃するのを忘れて呆然の言葉をこぼしていた。

 つまり、そういうことなのだろう。

「お前ら! このゲームは俺の負けだ。なにせ殺す前にフェイトディザスタアが始まっちまったんだからよ。ここからは意識をフェイトディザスタアに向けろ! 今、ここで、最大限の力を起こすんだ!」

 シンジロウさんに切羽詰まった声が耳に響く。

 俺はシンジロウさんに吹っ飛ばされて動けないはずだが、ここは死者の世界。外相はすぐに治る。

 俺は立ち上がり、皆がいる方へ近寄った。

「くっ……」

 いつのまにか外からまばゆい光が差し込んでいる。

 その光はすがすがしいものではなく、明るいのだが、どす黒い雰囲気を漂わせていた。

「来るぞお!!」

 シンジロウさんの言葉に俺たちが身構え、それぞれに力を起こし始めた、その時。

 ふわり。

 宙に浮く加恋の姿が目に入った。

「え……?」

 加恋のちょうど心臓があるあたりが淡く光っている。

 それを見ていると、その心臓からツタのようなものが伸びてきた。

「加恋さんを生贄とするか、通常より低い生存率で戦うか、選んでください」

 どこからともなくそんな声が聞こえてきた。

 意味が分からない。

 生贄が必要だというところまでは何とか飲み込める。

 が、なぜその生贄が加恋なんだ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る