第52話 貴族

「僕の役職は……貴族なんだ」

 何ともいえない沈黙が場を満たす。

 俺はこの世界の役職についてあまり知らないから、迂闊に口を開くことができない。

 星也がすごく驚いているようだから、凄い役職なのかどうかは知らないが、とにかく普通ではないのだろう。

 やがて、数分が経った頃。

 俺たちが何か言うのを待っていた様子だった夏樹が、それをあきらめて切り出してきた。

「春樹は知らないかな。聞いたことはあると思うんだけど……。貴族っていうのは、神々の手伝いをする役職。この世界の人口の3%の人数しかいないんだよ」

 と、言われても、数字を聞くとすごいとは思うが、特に驚くことではないと思う。

「僕たち貴族は、神々から直接この世界について教えられ、指導を受けて、働いている。知識量がすごいのはこのおかげだよ。それからフェイトディザスタアでの生存も約束されているんだ」

「神々から直接……!」

 ここでようやく、貴族というものの凄さを感じた。

 すると、横で黙って話を聞いていた星也が口をはさんできた。

「そ、そんな貴族の人がどうしてこんなところにいるんですか? こんな危ないことしないで神々の近くで安全に過ごしてればいいじゃないですか」

 と、若干嫌みのようなものを含ませて星也が言う。

 それに対して夏樹は全く気にする様子もなく、その質問への返答をした。

「それはね、大きく分けて2つ理由があるんだ。1つは神様からの命令」

「命令?」

「そ。問題児がいるから様子を見てきてほしいってね」

「その問題児って……俺の事?」

「ご名答。黒い力を出した時から目はつけられてたよ。あと、こっちに来た手の時の話かミクリから聞いてたから」

 何でここでミクリの名前が出てくるのだろう。

 そう聞く前に、夏樹は2つ目の理由を話し出した。

「2つ目は、単純に春樹に会いたかったから。兄弟だからね、前にも言ったけど生きているときから様子は見てたんだ。だから神様から行って来いって言われた時は嬉しかったよ」

「でもなんでここまで一緒に行動してるんですか? リスクが大きいと思うんですけど」

「うんうん、だよねえ。僕も最初はそう思ったよ? でもねえ、一緒にいるうちに星也君達にもあって、春樹とも仲良くなってさ」

「仲良くはなってないと思うけど……」

「……仲良くなってさ、帰るに帰れないんだよなあ、これが。それになんか問題に巻き込まれてるし、これをほおって帰るっていう方が頭おかしいと思うよ、僕は」

「へえ……」

 再び訪れる沈黙の時間。

 ちらりと加恋を見ると、先ほどとは違って、気持ちよさそうに眠っていた。

 外で降っていた雨もやみつつある。

「ああ、そうだ、ミクリは星也君の時もいろいろ話してたんだよ。一見気が弱そうだけど、案外自分の意見を言いまくるやつだって」

「あ、それだよそれ。なんで夏樹がミクリのことを知ってるの?」

「へ? だってミクリって、神様の子供じゃん」

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