第51話 廃

「うらっしゃあああああ!」

「夏樹いいいいい⁉」

 星也達を取り囲むいかにも悪人面をしたやつらを、目の前で夏樹が盛大に蹴り飛ばしている。

「ふう。あとは星也君に頼もうかな」

「え……ああ」

 夏樹は力を発生させ、1人1人にそれを浴びせていく。

 夏樹の蹴りで気を失っていた殺人犯たちは、悲鳴を上げることもなく消滅していった。

「一件落着、だね!」


 数分前、夏樹は星也達の姿を見つけると、俺を置いて全力疾走していった。

 そして俺がそれに追いつくころには、夏樹の蹴りによって殺人犯たちは気を失っていた。

 大胆な蹴りと掛け声に、俺も思わず変な声を上げてしまった。

「加恋ちゃん、どうしたの?」

「あ、これは……」

「とりあえず安全な場所に行こう。グループに分かれるべきじゃなかったかなあ。ごめんねえ」

「……」

 夏樹はごく自然な流れで加恋をおぶろうとした。

 が、悲しいかな夏樹は身体は中1のそれだ。まだ身長も低いし、体格だっていわずもがな。

 年上の女子をおぶるのには少し無理があるだろう。

 本当に、中身と見た目のギャップが激しい。

 案の定夏樹は加恋を持ち上げることができる停止していた。

「夏樹、加恋は俺がおぶるから」

「うん……」

 加恋を受け取り、よっこらせと立ち上がり夏樹を見ると、羞恥で顔を赤くしていた。

「……」

「……」

「あ、安全な場所って、心当たりがあるんですか?」

 微妙な空気を察してか、それとも純粋な疑問か、星也が夏樹にそう聞いた。

「うん、まあね。ついてきて」

 そこから歩いている間はずっと無言だった。

 星也はずっと黙ったままで、さらにどんよりとしている空気すら漂わせている。

 さすがに俺も夏樹もその理由を聞くわけにはいかず、かといって逆に明るくして場を和ませるほどの話術も持っていないので、結果として気まずい空気のまま歩くことになったのだ。

 そうして歩くこと約10分。

「ここだよ」

「ここって……怪しい雰囲気すぎるだろ」

「ま、まあまあ。雰囲気はともかく安全は保障するよ」

「や、この謎の廃病院感は危ない感じしかしない」

「そんなことはない。生者の世界の建物を前て作った結果これできたけれど、単に使われずにボロくなっただけだから」

「そのボロさが危ないっつてんだが」

「大丈夫、大丈夫。神の保護は受けてるし」

「……そうなの?」

「うん。僕自身その場に立ち会ったから」

 いや本当、夏樹はいったい何者なんだ。

 夏樹が足を踏み入れるのを見て、俺と星也もおそるおそるそこに入る。

「とりあえず加恋ちゃんを寝かせようか。その辺のベッド使っちゃっていいよ」

「えええ……」

 その辺のベッドというのは、汚れてグレーに変色している挙句、ところどころ破れているこれの事だろうか。

「衛生的にどうなんだこれ」

「大丈夫だよー。というかずっと身体曲げてる方が加恋的にも負担かかるんじゃないかなあ」

「ぐ」

 それには反論の言葉が思い浮かばない。

 俺は仕方なく加恋をベッドの上におろした。

「にしても汚ねえな……。なあ、星也」

「……」

「星也」

「え? あ、ごめん。うん、そうだね」

「……」

 星也は加恋の傷を眺めた。

「……春樹君達は何も聞かないんだね。加恋がどうして怪我をしたのかとか」

「や、んなもん予想できるから」

「いっそ責めてくれた方がよかったんだけどな」

「責めないよー? 星也君の処置は正しいから、しばらくすれば目を覚ますと思うよ。むしろありがとうだね」

「……」

「しっかしシンジロウさんは今何やってるかな。シンジロウさんはここに長くいるからこの場所も知ってると思うんだよね。まあ、休養も兼ねて少しここで休んでいくか」

「なんでこんなボロボロなんだよ……」

「まだ言う?」

「こんなところにいたら加恋もかえって悪くなるんじゃねえか?」

「それはないよ」

 俺が何気なく発した言葉に夏樹は反応した。

「ここは神の保護を受けていると同時に、モイチャーによって治癒魔法もかけられているからね。どんどん回復するよ」

「そうなんだ? っつうか知識量ハンパないよな。これがこっちにいる時間の差ってやつか……」

「それもあるけど、それだけじゃないんだ。逃げてる時の話の続きをしよう。丁度いいから星也君も聞いてほしい」

「何ですか」

 夏樹は少し間をとると、やがて神妙な面持ちで切り出してきた。

「僕の役職、それは……貴族なんだ」


 その発言に俺は全くぴんと来なかったが、隣にいた星也が信じられないといった様子で驚いていた。

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