第40話 対面
「西島夏樹です。よろしくお願いします!」
夏樹がそう言って自己紹介をしたのは、屋上での会話の日の夜。
有言実行で、もうこの場になじみつつある。
ちなみに俺が夏樹を呼び捨てにしているのは、ここに来る直前に呼び捨てにしろと言われたからだ。
「あー。お前、春樹の兄ちゃんつうのは本当か?」
「はい。本当ですよ。似てませんか? 似てますよね⁉」
夏樹がそう言ってグイっと顔を寄せてくる。
暑苦しいからやめてほしい。
「へー。この人が春樹のお兄ちゃん……。意外とかっこいいね」
加恋は加恋でどこかずれた感想を言っている。
あと今の話の流れでかっこいいというと、夏樹に似ている俺のこともかっこいいといっているようなものなのだけれど、その辺は大丈夫なのだろうか。
「まあ、座れ」
「はーい」
「お前、何でここに来たんだ?」
「いやあ、春樹と同居するんで、だったら春樹が普段仲良くしてる人たちに挨拶しておいた方がいいかなーと思いまして」
「なるほど。いい心がけじゃないか」
「ちょっと待ってシンジロウさん。夏樹が同居するって言ってることに関しては何も突っ込まないんですか?」
「突っ込むというか……。だってお前ら兄弟なんだろ? 仲良くすればいいじゃねえか」
「ですよね! シンジロウさんもそう思いますよね! で、そちらのお嬢さんは?」
ちらりと視線を向けられた加恋は、途端に姿勢を正して夏樹に向き直った。
「初めまして。加恋と言います。多分この中だと私が一番年が近いと思うから、仲良くしてね。よろしく」
「うん。よろしくー。いやあ春樹。君は中々いい人たちに囲まれてるね」
「今のでそれが分かったの?」
「うん。なんていうか、空気が違うんだ。少なくとも、僕を取り巻いていた空気感とは全然違うよ」
「ああ……」
なんとなく、夏樹のこの手の発言は当たっていることが多いのだろうと思っている。
頭もいいし、特殊な環境で育っているので、そういうことを見極める能力は高いのだ。
「で、星也君はいないの?」
「星也なら今日は疲れたからと言ってもう部屋で寝てるよ」
「そうなんだ。じゃあ明日改めてあいさつでもしようかな。いいよね?」
「もう好きにしろよ」
喋っていることは大人っぽいし、精神年齢もおそらく俺より上なのだろうけれど、いかんせん見た目が中1なのでそんな感じが全くしない。
なんていうか、見た目と中身がちぐはぐなのだ。
「じゃあ、僕は今日はこれでお暇しますね」
「え、もう行っちゃうんですか?」
加恋が悲しそうな声を上げる。
「うん。もう夜も遅いし、春樹と話したいこともあるしね。また来てもいいですか?」
「もちろん!」
「じゃあ、また今度ということで。おやすみなさい」
「おやすみー」
夏樹は立ち上がって部屋を出ようとする。
そしてドアノブに手をかけたところでこちらを振り向いて、
「春樹も行くんだよ? 僕春樹の部屋の場所分からないから案内してほしいんだけど」
「やっぱり泊まるつもりなんだね」
「うん。僕あんまし自分の部屋好きじゃないからさ、今日くらいは泊めてよ」
「……分かったよ」
そう言われては断れないじゃないか。
だって自分の部屋が嫌いって、きっと生きていたころのものがそのままあるから、母さんの形跡だって残っている。それが嫌なのだろう。
まあ、俺の部屋にだって多少はその形跡はあるわけだけれど。
そういう理由で泊めてくれというっている相手を拒むほど、俺だって馬鹿ではない。
「じゃあ俺も今日はこれで。おやすみなさい」
「うん、おやすみー」
そうして、夏樹と2人、シンジロウさんの部屋を出た。
そういえばさっき言っていた話したいこととはいったい何なのだろうか。
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