第32話 前
「星也、さぼりは良くないよ」
今の俺は、本題から入るのに怯えを感じていた。
だから、どうでもいいセリフを一番最初にもってきたのだ。
「春樹君……。思っていたより早かったね」
まったく感情の読めない声で星也が言う。
「ここは聖大公堂から見ればすぐわかる。妥当な速さだと思うよ」
「そう。でもほら、春樹君って意外と周りが見えてないというか、大事なところに気が付きにくいからしばらくは見つからないと思ってた。春樹君のことを甘く見ていたよ。反省しなきゃね」
「反省なんてしてくれるな」
お互いに、びっくりするくらいに落ち着いた話し方だった。
ただ、それは少し前までの口論を感じさせないわけではない。
俺の声は少なからず緊張をはらんでいたし、星也の声にはわずかな怒りがこもっていた。
「それで? ここに来たのには話すことがあるからなんでしょ?」
「ああ、まあね」
「僕には話すことなんてないけどな。春樹君、さぼりは良くないよ」
聞き覚えのある言葉を星也が吐いた。
「そうだね。でもまあ、少しくらいのさぼりは許容範囲なんじゃないの? 俺は別に星也と言い合いに来たわけではない。でも、お互いの意見を理解しに来たわけでもない。俺たちはお互いのことを知らなすぎるんだ」
「たしかにそれは言えてるかもね。何でも話せる仲になりたいとか言っておきながら、恥ずかしいよ」
「だからまずは、俺がああ思っているわけを聞いてほしいんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます