第18話 消える

 アランの言葉に、空気に一瞬で緊張が走ったのが分かる。

「まあ、きっと楽勝でしょうね。1人は力を出せないようだもの。星也はおそらく力を習得したばかりなのでしょう? そんな奴らにこの私が負けるわけがないわ」

 無表情のまま、しかし声には自信を溢れさせてアランは言う。

「さようなら」

 アランの言葉とともに、鋭い力が飛んでくる。

「危っ……!」

 俺も星也もそれをよけるも、体勢を立て直す暇もなく次の一撃が飛んでくる。

「悲しい抵抗はやめて殺されたらどう? その方が早く楽になれるわよ」

「……」

 次々と繰り出される力をよけているうちに、俺と星也の間にかなり距離ができてしまった。

「あら、散らばったわね。それじゃあ、最初は力を出せない春樹君からとしましょうか」

 アランは顔に気持ちの悪い笑みを浮かべながらそう言った。

 俺に向けて無数の力の針を飛ばしてくる。

 しかし、まあ。俺は逃げることにかけては自信があるのだ。

 頭を狙う針を軽くしゃがんでかわし、足を狙う針はとんで回避する。

 その勢いのまま左へ前転。かなり痛いが、針をかわすことができた。

「なかなかにすばしっこいのね。まあ、その体力が尽きればよいだけなのだけれどね。さっさと疲れさせてあげるわ」

 アランは宣言通り、休む暇もなく力を繰り出してきた。

 俺はそれを何とかかわし続ける。

 そうしている間に、星也がアランの背後へと忍び寄っていた。どうやら、後ろから力をぶつけるようだ。

 だったら、俺は少しでもアランの目をひきたい。

 が、俺にそんなことができるわけは当然なく。

「はあっ……はっ、っぎ……」

 どんどん体力を消耗して息が切れていくだけだ。

 それでも力の針から逃げ続ける。

 星也が力をため切って、いよいよアランへ向けて発射した。

 

「うあああっ!」

「星也⁉ うおっ!」

 星也に目を取られ、力の針の一本が足をかすった。

「あなたたち、甘いわ。私が気付かないとでも思ったの? 星也、君はかなりいい力を出すわね。ごめんなさいね、それを利用させてもらったわ。うまく跳ね返ったようね。よかったわ」

 アランはそういうと、俺への攻撃を止めた。

「星也っ!」

 俺はずきずきと痛む足を無視して、星也に駆け寄った。

「春樹君、離れて頂戴。さもないとあなたを殺すわよ? ここであなたが死んだら、星也は絶対に助からないでしょうね」

 アランの言葉に、俺はおとなしくその場を離れた。

 もちろん、離れたくなんてなかったのだけど。

 アランは苦しむ星也を見て、ニヤニヤと気味悪く笑うと、やがて星也を蹴り飛ばした。

「星也っ‼」

 蹴り飛ばされた星也は、聖大公堂の壁に激突した。

「うああっ!」

「いいわあ、いいわあ。私、苦しむ少年、大好きなのよ。本当尊い姿よね。舐めまわしたいくらいよ」

 アランはうっとりと星也を眺めていった。

 こんな時、俺は何もできないのか?

 答えはNoだ。

 結果が出るかどうかは別として、星也を見殺しにするなんてできない。

 俺は走り、アランの首元にけりを入れるよう狙いを定める。

 その瞬間、アランが放った力が、星也の足にあたった。

「春樹君、動かないで。さっきはあなたを殺すといったけれど、撤回するわ。あなたが動けば星也を殺す」

 アランが、俺のことを見ずにそう言った。

 その言葉に、俺は立ち止まってしまった。

 むやみに動くことは星也の死につながってしまう。

 星也はもうすでに一度大きな傷を負っている。さらに力を受けると死んでしまうのは目に見えている。

 俺は、手段を求めるように星也を見た。

 その星也の目から、涙が流れるのが見えた。星也が泣いているのだ。

 俺はもう一度自分に問うた。

 こんな時、俺は何もできないのか?

 そして再び出た答えはNoだった。

 俺はほぼダメもとで、手に力を込める。

 視界の中で、星也がアランに痛めつけられて気を失うのが見えた。

 許さない。俺は、アランを許さない。

 手にこもる力が、より一層強くなる。

 強くなっても、その手から力は出てこない。

「くそっ……」

 俺はアランを睨みつけた。アランに対して怒りがわいてくる。

 その時、俺は、手が燃えるように熱くなっているのに気が付いた。

 手を見ると、そこには大きな力があった。

 しかしその力は、皆が使っていたような火の色ではなく、闇のように黒い色をしていた。

 憎しみの力といったところだろうか。

 なんというか、ありきたりな展開に笑いそうになったが、今はそれどころではない。

 この力を放てば、まず間違いなくアランを消すことができるだろう。

 しかし、アランは星也の近くにいる。そして、星也はまだ生きている。

 このまま放ってしまえば、星也を巻き込むことになる。

 どうしたものか。考えた結果、いいアイディアが浮かんだ。

「なあアラン。ちょっとこっち見てみろよ」

「何かしら」

 アランは面倒くさそうにこちらに振り向いた。そしてその表情が、驚愕のそれへと変わる。

「あなた、それ……」

「俺、今からこれでお前殺そうと思うんだけど」

 俺は極めて冷静に、そう言った。

「ふ、ふざけたこと言わないで頂戴。あなたに殺されるなんてごめんよ」

「でも、これぶつければお前死ぬよね? ここで提案。あんた、今すぐどっかいけよ。そうしたら今回は見逃してやるから」

 アランは悔しそうに唇をかむと、大きくジャンプ、近くの建物の上へと飛び移り、そのまま逃げようとした。

 このチャンスを逃がすわけにはいかない。

「なあんて、逃がすとでも思ったか! まんまと騙されやがって、ばっかじゃねえの⁉ じゃあな、お前の人生ここで終わりだ!」

 俺はそう叫ぶと、アランに向けて力を放った。

 アランがいたところ、アランはとんでいる最中だったから、空中で大きな爆発が起きる。

 その爆発は、先ほどまでアランがいた建物も吹き飛ばした。

 そしてもちろん、アランという存在も消えた。

「俺の勝ちだ」

 俺は1人で小さくそう呟くと、今度こそ星也のもとへ駆け寄った。

「星也……」

 星也の身体はボロボロだった。

 力による傷の他、蹴られた時の傷など、様々な傷ができている。

「シンジロウさんのところに行こう」

 俺は星也を抱きかかえると、聖大公堂の中へ入っていった。

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