第19話 眠らないで

「星也⁉ どうしたの⁉」

 俺と星也がシンジロウさんの部屋に戻った時、一番に声を上げたのは扉の近くにいた加恋だった。

 その声に驚いたシンジロウさんが部屋の奥から出てくる。

 そして言葉を失った。

「……おまっ、それ、どうした」

「シンジロウさん、話したいことがあるんです」

 俺の真剣な目に、シンジロウさんは一瞬驚くも、すぐに冷静さを取り戻した。

「加恋、星也を手当てしろ。なるべく急げ」

「え……。うん、わかった。春樹、星也ちょっと借りるよ」

「ああ」

 シンジロウさんは俺が加恋に星也を渡したのを確認すると、再び部屋の奥へと入っていった。

 俺もそれについて、部屋の奥へと入っていく。

 シンジロンさんは床に座ると、一切オブラートに包まず質問してきた。

「何をした?」

 俺は、アランと出会った時の事から、すべてを正直に話した。

 話していくうちに、シンジロウさんの表情はどんどん険しくなっていた。

「いくつか確認だ。まず、お前と星也は仲直りをしたんだな?」

「……はい、表面的には」

「表面的には?」

「星也は許してくれたけど、心に傷を負わせたのは確かだから」

 なるほど、とシンジロウさんが頷く。

「2つ目。お前、黒い力を出したんだな?」

「はい」

「ちょっと腕を見せろ」

 言われた通り、服の袖をまくり、腕を見せる俺。

 すると現れたのは、腕に刻まれた黒い魔法陣のようなものだった。

「なんだ……これ」

 シンジロウさんは嘆息すると説明をしてくれた。

「ったく、めんどくせえもん持ち込みやがって。お前どんだけ怒ったんだよ。いいか、お前、もうなるべく力は起こすな。練習もするな」

「どうして……?」

「呑まれる。お前が力を起こすと、おそらく怒りの力に支配されてあたりを焼き尽くすことになるぞ」

「……」

 予想外の、しかしある程度は予想できたいた言葉に、俺は何も言えなかった。

「だからその力はフェイトディザスタアにとっとけ。そんときは役に立つだろうな」

「そうですか……。あの、星也は、助かりますか?」

 俺の質問に、シンジロウさんはあからさまに微妙な表情をした。

「お願いです。星也を助けて……!」

 シンジロウさんは、手当された星也をちらりと確認した。

「正直、どうなるかわからねえ。身体の傷ではまだ死に切ってはいねえんだが……。あとは星也がどれだけ生きたいと思ってるかだな」

「……どういうことですか?」

「星也がもう死んでもいいと思っていたら死ぬ。まだ生きたいと思っていたら目を覚ます」

「……!」

「今は迷ってるんだろうな」

 俺はシンジロウさんの言葉に返事をすることができなかった。

 そしてそのまま返事をせずに、眠っている星也へと向き直る。

「ごめん、星也……。俺のせいで……!」

 俺があふれてくる謝罪の言葉を口にしていると、シンジロウさんが止めに入ってきた。

「やめろ。そういうのは意外と伝わるもんだ。死んでほしくねえならそういうことは言うな」

「……はい」

 そんなこと言われたってどうしようもできない。

 俺があの時星也を突き放していなければ。

 俺があの時外に出ていなければ。

 そういうことばかりが頭に浮かんでくる。シンジロウさんが俺のことを責めないのも辛かった。

 いっそのこときつく叱ってくれればいいのに。

 ずーんと肩を落としている俺に、加恋がおずおずと話しかけてきた。

「あのさ、春樹」

「……何?」

「そんなに落ち込まなくてもいいと思うよ」

「……」

 俺は思わず、軽く加恋を睨むようなとをしてしまったが、そんなことをしてはまた同じことを繰り返すだけだと思い直した。

 しかしいつも通り接することは難しい。

 そこで、目線を加恋から外し、星也だけに注ぐことにした。

「だってさ、最終的には星也を守ったんでしょ? すごいじゃん」

「すごくねえよ。守れてだってない。俺がもっと早く動けてたらこんなことにはならなかった……!」

「春樹……。で、でもさ。春樹が何もしてなかったら、星也は死んじゃってたと思うよ。だから、遅くてもちゃんと星也を助けた春樹はえらい」

「そんなこと……ないのに」

 加恋は優しい言葉をかけてくれたが、その言葉は心にしみる。

 目に涙があふれてきた。

 その時、ふわりと人の温かさを感じた。

 加恋が、座った体勢のまま、俺を抱きしめてきたのだ。

「大丈夫、星也は死なないよ。それに、ほら、春樹がそんなんじゃ星也も困っちゃうよ。だから自分を責めないで」

 その言葉を引き金に、俺は日が暮れるまで、加恋の胸で泣き続けた。

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