第11話 食事
加恋は、かわいらしい容姿をしていた。
白くてもちもちの肌に、茶色い大きな目。色の薄い髪はさらさらとしてる。ピンク色に染まったほっぺたに、小さくてプルプルな唇が特徴的だ。
今は、その顔をこれでもかというほど緩ませて、シンジロウさんが作ったカレーを食べている。
「何これ! めっちゃおいしい!」
加恋は見た目とは少々ずれた言葉遣いをする子だった。
「どうやったらこんなおいしいの作れるの⁉ シンジロウさん天才⁉」
「なはは、もっと褒めてくれてもいいんだぞ?」
「よっ、日本一!」
「どうもどうも。というか加恋、本当にカレーでよかったのか? 定番中の定番だが」
「やだなあ、定番だからいいんでしょ」
シンジロウさんは加恋と同様カレーを食べている俺たちを見て、小声で尋ねた。
「そういうものなのか?」
「さあ? 食べ物の好みは人ぞれぞれだからね。ま、シンジロウさんが作るのはどれもおいしいから大丈夫だよ」
「おう……」
「シンジロウさんも食べたら? おいしいよ」
「おう……。そうするか」
シンジロウさんは俺たちと同じ席に着くと、むしゃむしゃとカレーを食べ始めた。
と思ったら加恋がお皿を持って勢いよく立ち上がり、
「シンジロウさん! これ、おかわりってある?」
「んあ? ああ、そこの鍋の中に入ってる。つうか早くねえかお前」
「だっておいしいんだもん!」
実際シンジロウさんが作ったカレーはとても美味しかった。
甘口に作られてはいるが、少しだけ舌先にピリッと来るスパイスの感じなんかは、もう最高だ。
そりゃあ加恋だって一気に食べてしまうだろう。
と考えていたのだが……。
30分後。
「マジで速すぎだろお前」
「んん?」
加恋は、俺たちが2杯食べている間に、4杯のカレーをたいらげていた。
「おいしかったよ? シンジロウさんって料理上手なの?」
「まあな。一応ここは俺の店だし」
「やっぱり! じゃあさあシンジロウさん、スイーツも作れる?」
「おう。そこまでレパートリーは多くないけどな」
「わあ! ねねね、パフェ作って! 苺いっぱいのやつ!」
「おうよ。お前らもいるか?」
「ああ、じゃあ、少しだけ」
「よし。ちょっと待ってろ」
「わーい!」
シンジロウさんがやる気たっぷりに厨房へと入っていく。
加恋はとてもいい笑顔で俺たちに話しかけてきた。
「君たちいつもこんなにおいしいの食べてたの? いいなあ」
「いやまあ、いつもってわけじゃないけどな」
「ふうん」
加恋はテキトウに相槌を打つと、俺たちの体をじろじろと眺めまわしてきた。
「ねえ、聖大公堂で出てくるごはんって、ちょっと量少ないと思わない?」
「そうか? 適量だと思うけど。なあ星也」
「うん。ちょうどいいくらいじゃない?」
加恋はそんな俺たちの反応を見ると、少しニヤリとして喋りだした。
「そっかあ。まあ君たちひょろひょろだもんね? もっといっぱい食べないと大きくなれないぞ?」
「いや、身長なら俺らは加恋よりだいぶあるぞ」
「身長だけの話じゃなくてよ。筋肉もつかないぞー? ほら見なさい、この私のいい感じの体を!」
加恋はそういうと、むふんと薄い胸を張ってきた。
「あらあら、2人とも黙っちゃってどうしたの? この私の体を見て圧倒されちゃったのかしら?」
「いや、そんなんじゃねえよ。これマジで」
「もー、照れなくていいんだよ? 本当の気持ちをさらけ出してごらん?」
ニヤニヤと挑発的な顔でしゃべり続ける加恋。
そこに星也が容赦のない言葉をかけた。
「いや、別に加恋の体系をうらやましいとは思わないよ? あと、さっきから胸を強調する体勢とってるけど、そんなに胸ないよね?」
「ひぐっ!」
「食べるのが好きなのは結構なことだけど、僕たちはそんなに食べないし、太るよ?」
「うえええん! 春樹いいいい、なんかこの人めっちゃひどいこと言ってくる!」
加恋はそういって俺の後ろに隠れると、星也に向かってガルルルルルと威嚇しだした。
「ごめん、加恋。俺も星也と同意見だ」
「なっ! 君たちグルだったの? ひどいひどい! もう知らない!」
そういって加恋がむつけてしまってから数分後、パフェとシンジロウさんが到着した。
加恋は1人早々にパフェを食べ終わると、さっきまでの態度はどこへやら、猫なで声を出して、俺に、おねだりをしてきていた。
「ね、ねえ春樹? そのパフェ、私に一口くれたりは?」
「しないな」
「じゃあ、二口くれたり?」
「も、しないな」
「なるほど! この私に全部くれるというのか!」
「んなわけないだろ。ちょっと離れて。食べにくいから」
「むうううう! いじわる。……ねえ星也」
「……」
「おーい?」
「……」
「いや無視はやめようぜ星也さん」
「……」
「……」
「……」
「……そんなにさっきのこと怒ってる?」
「……」
「……ねえねえ」
するとさっきまで加恋のことを無視し続けていた星也が、いきなり笑い出した。
「ぷ、ふふふふふ」
「え、何で笑ってるの?」
「ごめ、だってさあ、加恋がすごい不安そうな顔するから」
「いやマジでやめてよそういうの」
「ごめんって。パフェはさ、フェイトディザスタアが終わったらまたシンジロウさんに作ってもらお?」
「終わったらって……生き残れるかどうかわからないのに」
「生き残るんだよ。僕たちは」
そういう星也の目は、確かな信念を宿らせていた。
フェイトディザスタアまで残り6日。
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