第1話 役職
気が付くと、俺は病院の待合室のようなところに座っていた。病院とはいっても、清潔感があって、怖い病院のイメージはない。
周りはすべてが白く、白い花まで飾ってある。そしてチラホラと数人人が座っていた。
皆どこか疲れ切った表情を浮かべている。俺もそんな表情をしているのだろうか。
そんな俺がここにいる理由は、確信はないけど心当たりが1つ。
多分、俺、死んでる。
死んだときの記憶はない。それ以外の記憶があるのにもかかわらず、だ。
ではなぜそう思うのか。理由は簡単。そんな気がするからだ。
言いようのない喪失感と絶望感、そして恐怖が俺の心を満たしている。
──誰かと話したい。
そんな俺の気持ちを見透かしたかのように、頭上から声がした。
「西島春樹。顔を上げろ」
逆らう理由もなかったので、言われた通り顔を上げる。するとそこには白髪の少年が立っていた。年は俺と同じくらいだろう。
「俺はミクリ。まぁ、偽名だがな」
ミクリとかいう少年が美しい顔をわずかに歪める。
「今日から3日間、お前の案内役だ」
「……」
「あぁそうだ。もう気が付いているかもしれないが、お前は死んでいる。もちろん俺もな」
「……」
真顔のままミクリが続ける。
「とりあえず立て。神々に挨拶へ行く。詳しいことはその後だ」
重い腰を持ち上げる。
誰かと話したいとは言ったけれど、ミクリは少し不愛想でどう話したらいいかわからない。
「神については行きながら説明する」
「……」
ミクリは嘆息すると、俺に向かってこう言った。
「お前って、不愛想だな」
「……君に言われたくない」
「お、喋った」
声の出し方忘れてんのかと思った、と言ってミクリが笑う。
こいつ、笑えたんだな。そう思ったことは言わないでおいた。
「こっちだ、ついてこい」
言われた通りについていくことにした。しばらく白い廊下を進んでいくと、広い場所が現れた。そこではたくさんの人が楽しそうに会話していた。しかし、みんな死んでいるからなのか顔色が悪い。
「わあ……」
上を見上げると真っ青な空が見える。ここは随分高い建物のようだ。空が遠く感じる。
「ぼんやりするな。そんなもの、これからたくさんみれるからな」
「ん」
白い建物を出ると、普通の街並みが広がっていた。町といっても都会ではなくて、古都のような。ちなみにさっきまで俺がいた建物は外観も真っ白だった。
「それじゃあ、神について説明する。神々がいるところは神堂。ここから大体10分くらいだな。全部で6体の神がいる。それを俺ら死人はトゥゲザーゴッドと呼んでいる。基本は神呼びだけどな」
「は?」
いきなりの中二病的発言に戸惑ってしまう。
「まあ聞け。質問はあとでまとめて受け付ける。神それぞれについて簡単に説明していくぞ。まずはヒストリア。一番長くいる神だ」
分かりやすい名前だな。
そういえばさっき通り過ぎた公園(みたいなところ)にヒストリア像なんて物が建っていた。
「次は
「仕事……?」
「あぁ。全部で7つの役職がある。俺は幹部だ。これから役職をデュティに決めてもらう。どんな役職があるかは追々な」
「わかった」
「説明を続けるぞ。
最後に
いっきに情報が入ってきて頭が追い付かない。
「まあこの世界にいればいやでも覚えるから安心しろ」
「え、俺声に出してた?」
「顔に出てた。ほら、ついたぞ」
「おお」
目の前にやたら豪奢な建物が建っていた。ミクリが何の躊躇もなく入っていく。
「え、入るの⁉」
「そりゃそうだ」
俺もミクリに続いて入る。全体としては銀と白が基調とされている。
「ほら、この部屋に入れ」
「え、ミクリは?」
「俺はここで待っている」
「え」
「早く」
「……分かったよ」
ギイイ。重く立派な扉を開いて部屋に入る。
「待っていたぞ」
突然聞こえてきたしわがれた声にびくりと体を震わせる。
「恐れることはない。私はデュティ。おぬしの名は何という」
「に、西島春樹です……」
「少し待っておれ」
やたら広いこの部屋には四隅にある水晶しか物がない。その水晶がゆらりと光る。
そうして待つこと数秒。
「おぬしの役職が決まった。歴史家だ」
「歴史家……?」
「うむ。この世界の関市の伝達、情報の公表をする役職だ。まあしばらくはここの歴史について勉強することになるだろうかな。詳しいことは案内役に聞くとよい」
「えっと」
「もうでてよい」
「あ、はい」
あっという間に部屋を追い出される。
「お、役職は決まったか?」
「はい……」
「何になった?」
「歴史家だそうです」
「歴史家ねえ……。この時期に歴史家か。少し大変だな」
「?」
「何でもねえよ。じゃあ行くぞ。お前の部屋に案内する」
ミクリが微妙な顔をした理由は、この後割とすぐに知ることになる。
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