2. ポーンの往訪②

「あの、この白のキングっていうのは、意味があるんですか?」


この黒の駒が、依頼としてあがっている魂であるのならば、この白の駒も誰かを表しているのだろうか。


「特に意味はねぇよ。コードネームも俺が何となくチェスの駒の名前にしただけだしな」

「ソウさん、チェスやるんですね」

「なんだよ。その意外だなって顔は。そういうおまえはやれるのかよ」

「ボードゲームは得意なんです」


「やりますか?」と誘うと、ソウさんは一瞬迷った顔をしてから「また今度な」と言った。

ボードゲームは得意だけど、友達と遊んだことは無かった。昔から幽霊が見えるのもあって、周りとは距離を置いていた。嫌われていたり、避けられたりということは無かったが、気味が悪いと思われていたことはあった。きっかけは小学校の時に友達に言った些細な一言だったけれど、人がよそよそしくなる瞬間をみたのはこの時だった。だからといって、距離を置いたのは自分自身だ。この悩みは、どう足掻いても誰にも分かってもらえないと知ってからは、自分で境界線を引いた。孤独とはこういうものなのだと、身をもって知ったからなのかもしれない。


「そんで、どこからいこうか」


ソウさんは盤上に並べてある駒に目を戻した。それからポーンの駒を摘んだ。


「腐敗が近い順番で行けばポーン辺りか。とは言っても、姿を出してくれるかどうかは分からねぇけど」

「とりあえず、詳細を教えてください」


ソウさんはポケットからスマートフォンを取り出し、そのまま私に渡した。画面に表示されていたのは、顔写真、年齢、コードネーム、名前、それから現在地だった。


立花春斗たちばなしゅんと。中学三年、ちょうど受験生だったな」


八重歯を出して可愛らしく笑う少年は、十数年で人生に終わりを迎える。若い女の子に人気のありそうな甘い笑顔を武器にして、青春を謳歌する手前だったようにも見える。

その少年がいるであろう場所に、私は疑問を抱いた。


宮園みやぞの中央病院……。病院に何かあるんですかね」

「ポーンはずっと病院に通ってる」

「幽霊だからどこか悪いってわけでもなさそうですし。そうすると、この病院で死んだとか」

「それは行って確かめてみるんだな」


ソウさんは病院の住所とポーンの名前を裏紙に書いてから、用事があると言って帰っていった。壁はすり抜けられるはずなのに、律儀に玄関から出ていく姿が面白かった。

残されたメモ書きを手に持ってよく見る。予想とは違って、ソウさんの字は程よく丸く、払いが美しかった。もっと角張っていてバランスが悪い字を書くと思っていた。人は見た目によらない場合もあるようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る