Opening.

2. ポーンの往訪①

ソウさんの話によると、依頼としてあがっている魂は全部で五つあるそうだ。その魂にはコードネームがついている。それらは全てチェスのピースの名前だった。


「ポーン、ビショップ、ナイト、ルーク、クイーン……。あれ、キングは無いんですね」

「キングは失踪していねぇんだよ。まぁ、気にすんな」


キングが失踪したら、そもそもチェスとして成り立たない気はするけれど。

ソウさんは小さなテーブルにチェスの駒を綺麗に並べていった。


「あの、あえて突っ込まなかったのですが、私の家にどうやって入ったんですか」


大学の講義を終えて家に帰ってみると、我が家のようにくつろいでいるソウさんがいた。少年が空に吸い込まれていってから三日後のことだ。そのうち会うことは分かっていたが、こうも部屋で帰宅待ちされるとは思っていなかった。


「何言ってんだよ。俺は《死神》なんだぜ。おまえが大体どの辺にいて、何してるかくらいはマークつけときゃ分かる。それに実質幽霊と変わらねぇから壁とかは余裕ですり抜けることが出来るしな」

「なるほど……。でも、今まで幽霊が家で出待ちしていたことなんて無かったですけど」


よく思い出してみれば、今まで金縛りにあったりうなされたりということはあまり無かった。部屋にいるのが何となく落ち着くので、用がない時は基本的に家にいることが多い。


「あー、言われてみれば確かにここは気を感じるな。けどそもそも、俺達が運べなかった欠陥品──言い換えれば、未練や執着がこの世界に大きすぎて、欠如した魂ってのは、そう簡単に姿を出さねぇんだよ」

「よくテレビとかで特集されているああいったのとは違うんですか?」

「あれは、腐敗が進みすぎて《枯死》した魂の仕業だ。今は、知らなくていい」


ソウさんはチェスの駒を並び終えた。盤上には、白のキングと、黒のキング以外の駒が一つずつ配置されている。しかし、それはどう見ても普通の並べ方ではない。


「これって、チェス・プロブレムですよね」


チェス・プロブレムとは、いわゆる詰将棋のようなもので、パズルゲームに近い。駒の特性を活かし、決められた手数でチェックメイトさせるというものだ。


「そうだな。ただし、これはもう詰んでる」


白のキングを取り囲むように黒の駒は並んでいる。どこからどう見ても、白のキングの逃げ場はない。


「さて、ここからが本題だ。この黒の駒達は、白のキングに猶予をあげた。暫くすれば、確実に白のキングは殺られちまう。おまえと俺がすることは、この猶予のある間に、黒の駒達を寝返らせること」

「寝返らせる……?」

「黒を白に変える。枯死から、開花へ」


枯死へと向かう魂を、連れ戻すということだろう。あの双子の少年達のことが、頭によぎった。

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