1. 初めまして、死神さん⑨
人は死んだらどこに行くのだろう。そんなことを昔は考えていた。
ある人は、俺に言った。
「きっと花になるんだよ。綺麗な、綺麗な花になって、そしたらまたこっちに戻ってくるの。だからね、死んじゃってもどこにも行かないんだよ」
その人の言っていることは、半分当たっていた。俺は一面に咲いた小さな花達を踏み潰さないように、歩いた。
「お疲れ様、ソウ」
「別に疲れてねーよ。何もしてないからな」
花畑の真ん中に、俺と同じように黒いスーツを着た少年が立っていた。
俺よりもだいぶ若い姿をしているが、その年齢に反してとても落ち着いた話し方をする。マッシュルームのような髪型で、前髪は乱雑に切られている。その髪型だけは、年相応に見えた。
「届けてもらった双子の魂は、僕が預ることになったよ。お兄さんの方は残念だったね」
「弟の方は無事にいけそうか?」
「大丈夫だよ。今は少しだけ眠ってるよ。そう慌てて削り落とすものでもないからね」
「そうか。なら、よかった」
足元の青い花に目をやる。桜の花びらに形が少し似ているが、花冠は黄色だったり白色だったり様々だ。この花の名前を、何度聞いても忘れてしまう。
「揺り籠の仕事はどうだ? もう慣れたか?」
「そうだね。僕はこっちの仕事の方が合っているみたい。その人の物語を、ゆっくりじっくり読むことが出来るから」
そう言って俺の同僚は微笑んだ。俺と同じような時期に《死神》になり、俺より先に昇格したそいつは、運び屋として共に働いていた時に比べて暖かに笑うようになっていた。
魂に寄り添うことが出来る。それが揺り籠の仕事の本質だ。それは時に残酷である。
「それより、ついにあの依頼を受けることにしたんだね。僕と仕事をしていた時は、あんなに嫌がっていたのに」
「……気が変わったんだよ。それに、いつまでも腐敗を待ってても仕方ねぇだろ」
「それもそうだね。もう三年も経つのに、宙ぶらりんのままじゃ可哀想だ。それに今の君には、切り札があるようだしね」
宮野幸。大学生には見えない華奢な女だったが、あの死んだ瞳は、そこら辺の魂よりもくすんでいた。赤く染めたら、俺よりも立派な死神になれそうな気がする。
この仕事は、俺の為にも、そしてあの人の為にも果たさなければならない。
何としても。
「そんじゃ、邪魔したな、ミロク」
「またいつでも」
「仕事が成功したら、またよろしくな」
そう言って俺は来た道を戻る。ふわりと足元の花が揺れた。
青年を見つめながら、揺り籠の少年は遠ざかる背中に言葉を贈った。
「君の終わらないゲームに、どうか終止符を」
その声が青年に届くことは無い。
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