1. 初めまして、死神さん⑧

少年がそう言うと、頬に生えている青い花が瞬く間に全身に広がった。私は驚いて尻込みしていると、花は風に吹かれるかのように空へと舞い上がった。その光景は、枝に止まっていた鳥達が一斉に飛び立つかのようだ。渦を巻きながら、頭からつま先まで一片も残すことなく、空へ溶けていった。


「……終わったか」


私と同じように空を見上げていた青年が言った。


「あの少年はどこに行くんですか?」


青年は空を見上げたままだった。


「あっちの世界に行って、リセットすんだよ。双子だった記憶も、兄への罪悪感も、全部時間をかけて落としてくんだ。また、命として戻ってくるためにな」

「消えてしまったんですか」


青年は見上げていた顔をこちらに向けた。それから、頭を横に振った。


「消えたわけじゃねーよ。弟も、兄も。ただ、兄貴の方は、間に合わなかったけどな。まぁ、腐敗する前に回収できればこっちとしては十分だ。それにしても、あんな風に還っていくのは久しぶりに見た」


青年は私に近づいた。それから少しだけ屈んで、私を試すかのように訊ねた。


「それで、おまえはこれからどうする?」


どうしたいのか私には分からない。何が正しいのか、どうあるべきか。そんなことは何一つわからない。消えた少年の笑顔が浮かんだ。逃げていても変わらなかった日常が、今は少しだけ違う。一つだけ分かることは、私は前に進まなくてはならない。いつまでも逃げてばかりでは駄目なんだ。


「やっぱり、こんなもの要らないと思ってます。だけど、それは逃げるしか方法がないからではなくて。私は、幽霊の救世主になりたい訳では無いですから」

「じゃあ、条件をのんでくれるな?」

「私のすることが正解かは分かりません。でも、私に出来ることがあるなら……見える間だけでも、やってみます」


青年はにやりと微笑んだ。それから屈んでいた姿勢を戻して、右手を出した。どうやら握手を求めているみたいだ。


「俺の名前は、ソウ。よろしく、幸」

「こちらこそよろしくお願いします、ソウさん」


された右手を握って、頷く。その手は氷のように冷たかった。

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