1. 初めまして、死神さん⑤
少年は私の少し後を、ひよこみたいについてきた。その歩き方はどこかあどけなくて、可愛らしかった。こうして見ると、幽霊に見えない。普通の幼い子どもだった。けれども、黒の瞳は深いほどの赤色に染まり、右頬は微かにひび割れていた。きっとこの子も《腐敗》が近い。
幽霊が黒く染まることを、私は《腐敗》と名付けた。身体のあちこちから生える無数の黒い手に覆われ、全身は漆黒に包まれる。黒くなった塊は、人の形を失い、影のように揺れるだけだ。そうなった塊が、その後どうなるかは見たことが無かった。見たいとも思わないけれど。
「兄ちゃんに、どうして会いたいの?」
追いついた少年に、私は顔を向けた。見上げていた顔が、少し暗くなった。
「……兄ちゃんに、ぼく、謝らなきゃいけないことがあるんだ」
「謝らなきゃいけないこと?」
少年は大きく頷いた。
「僕のせいで、兄ちゃんは、しんだんだ」
*
仲の良い双子だった。どんな時でもいつも一緒にいる、誰が見ても仲の良い双子だった。見た目もよく似ていた双子だったが、兄は兄だった。
勉強ができる。運動もできる。周りをよく見て、気遣いもできる。賢くて、かっこよくて、優しい、まるで見本みたいな兄だった。
弟も出来ないわけではなかった。勉強も、運動も、気遣いも、周りに比べれば頭一つ上だったけれど、どんな時でも何についても兄と比べたら頭一つ下だった。
それは、周りからも同じように見られていた。どんな言葉にも「でも、お兄ちゃんはもっと凄いよね」というおまけがついた。
双子じゃなければ、弟は一番だった。双子じゃなければ。
小学生になるとその差はますます開いていった。身長や体重や顔つきや声は何一つ違わないのに、能力だけが兄よりも劣化していた。能力だけならまだよかった。
周りからの信頼も、愛情も、兄には勝てなかった。
そのことを一番突きつけてきたのは、双子の母親だった。
「──は、偉いね。でもお兄ちゃんの方が偉いわ」
「テストで100点だったのね。でも、お兄ちゃんは算数も社会も理科も100点だったわ」
「お母さん、──のこと応援してるわ。もちろん、お兄ちゃんのことも」
そんな中でも、弟の心を打ち砕いたのは母親のちょっとしたひと言だ。
「何をやっても、やっぱり──はお兄ちゃんの弟ね」
別に差別されていた訳でも、除外されていた訳でも、愛されなかった訳でもない。
だけどいつしか、弟は兄を憎むようになっていった。
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