1. 初めまして、死神さん④
《死神》と言っていた青年と出会ってから一週間が経った。あれから暫く幽霊を見ていない。あの青年とも会っていなかった。
一週間前に起こった出来事は、全て幻覚だったのかもしれない。確かにコンビニで男の子の幽霊に捕まったのはあったけれど、それ以外は皆私が見た単なる空想の出来事だったに違いない。そう思いながら、私は夕日に染まる川沿いの道を一人で歩いていた。
以前なら絶対に近寄らないであろうこの道を、今は一人で歩いている。時々ジョギングをしている女の人や、通学帰りの高校生とすれ違った。
もしかしたら、もう一度あの青年に会えるのではないかと期待しているのかもしれない。あのまま無かったことになるのは、なぜだかどこか癪に障った。
ふと橋の下に目をやると、橋の影に蠢く何かを見つけた。一瞬迷ったけれど、考えるよりも先に身体が動いた。私は、坂を下って影に近寄っていた。
そこに居たのは、一週間前に出会ったあの少年と瓜二つの姿をした幽霊だった。短髪で、どこかの小学校の体操服を着ていた。
コンクリートの地面にそのまま体操座りをして、小さく蹲っている。私が近づいても顔を上げることは無かった。
私はその少年の右隣に同じように座った。コンクリートの地面は、ひんやりとして冷たかった。
「君も、連れて行って欲しいところがあるの?」
真っ直ぐ前を見つめたまま、私は訊ねた。
少年は、顔を上げなかった。
「私、君たちのこと見えてるの。ずっと目を背けていたけれど、どんなに逃げてもくっきりはっきり。見たくないのに、見えるの。笑えるでしょう」
どれだけ見ようとしなくても、その努力はいつも実らなかった。自分が間違っているとは思はない。だって、そうでもしなくちゃ、生きている私までおかしくなりそうだから。この世にいないもののために、自分が、自分だけが話を聞くなんてことは、耐えきれなかった。
だから私は、あの青年が言っていた通り、何もしなかった。
何もしないままでいい。
何も出来ないままでいい。
それでいいと思うのに、私は今、自分の思いと反した行動に出ている。
「ずっと見ないふりしていたら、見えなくなる訳じゃないのにね」
私はそう言ってひとり微笑んだ。
少年は、いつの間にか顔を上げて私の方をじっと見つめていた。
「……ツレていって」
少年の瞳は思った通り赤かった。私が問い掛ける前に、少年は口を開いた。その言葉は、あの時よりも澄んで聞こえる。
「……連れて行って。ぼくを。兄ちゃんのところに」
それは、濁りのない言葉だった。
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