1. 初めまして、死神さん②
死神。
その言葉に、思わず息を呑んだ。ついに私はその域まで見えるようになってしまったのだろうか。
顔を顰めていると、《死神》と名乗った青年は何かを察したようだった。
「あー、でもきっとおまえが思っているようなもんじゃねぇよ。簡単に言えば、死んだ魂をあの世に運ぶ幽霊か」
青年は空を指さしながら言った。
「死んだ魂、ですか?」
「そう、死んだ魂。だから本当ならおまえに俺は見えないはずなんだが……。一応、おまえの名前を聞いてもいいか」
名前で死んだ魂を見分けることでもできるのだろうか。あまり深く考える前に、私は自分の名前を呟いた。
「
幸せと書いてゆき。どうせなら、あの白い雪と同じ漢字がよかった。それが駄目ならいっそ平仮名でもよかった。幸せが意味するようなものとは遥かにかけ離れた現実を生きているから、自分の字を見るだけで私はいつもどこか虚しくなった。
私の名前を聞くと、青年の動きが一瞬だけ止まったように見えた。それからポケットから黒いスマートフォンを取り出し、画面をしばらく見つめていた。死神もスマートフォンを持っていることに私は少し驚いた。
「やっぱりおまえの名前はないな」
画面から目を離し、青年はポケットにスマートフォンをしまった。
「そうですか」
「いつから見えるんだ? 俺達みたいなもの」
「いつから……でしょうか。物心ついた時には、もう見えていたのかもしれませんし、あまりよく覚えていませんが」
人には見えないソレを、人々は幽霊だとかお化けだとか適当な名前をつけて呼んでいた。でも、実際その人達が目にすることは無い。きっと想像している幽霊やお化けとはだいぶ違っているだろうから。確かめようのないものに、人はどうして名前をつけたがるのだろう。
人には見えないソレがはっきり見えるようになったのは、高校生の時だった。高校生の時、1度死にかけたことがあった。あまり当時のことは覚えていないけれど、悲惨な事故だったことは覚えている。通学に使っていたシャトルバスが対向車のトラックと正面衝突した事故だった。原因はトラックの運転手の居眠り運転。日も暮れたあとで、乗客があまりいなかったようだが、乗客も運転手も、誰一人助からなかった。ただし、私を除いて。
「ただ一つ言えるのは、こんなもの、無くなって欲しいということぐらいです」
見たくないものが見える。誰もが憧れる他人と違う力の類いだ。
憧れたなんていつ言ったのだろう。欲しいなんていつ願ったのだろう。そんなこと、一体いつ私が望んだというのだろう。特殊能力なんてものは、欲しい人にあげればいいのに。
現実はいつだって思い通りにならない。
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