五章 永遠に捧げる愛の詩
第百二十六譚 一ヶ月
戦争終結から一ヶ月。
帝国の再建も終わり、新たな皇帝の決定と共に帝国が復活した。
完全というほどまでには至らないものの、続々と炭鉱族が帝国に集まりつつあり、復興は順調だ。
新たな皇帝は、元帝国軍人である『オトゥー=カタプレイト』。
オトゥー皇帝陛下は、炭鉱族内での信頼が厚く、多くの炭鉱族から是非にという声が上がり、新皇帝となった。
オトゥー皇帝陛下は積極的に私たちの作業を手伝い、率先して行動を起こしていた。
そんな皇帝陛下に、私たちは呼び出された。
正式な謁見ではなく、個人として話がしたいと山岳地帯の向こう側に存在する村の跡地に来いとの事。
私たちは不思議に思いつつも、その村の跡地にまで足を運んでいた。
「オトゥー……ねえ。なんか変な感じね、アイツが皇帝なんて」
「アザレアさん、あいつではなくて皇帝陛下です。そのような軽い気持ちで呼んではいけません」
「ああ、そうだったね。セレーネちゃんには言ってなかったけど、僕らは転生する前にオトゥーと会っているんだよ」
「えっ!? それは本当なのですか!?」
私は思わず声を上げて驚く。
確かに、オトゥー皇帝陛下は若くない。五十年前にアル様たちと出会っていたとしても納得できる。
「あの頃のオトゥーはまだこんなに小さくてね、それでも正義感溢れる強い子だったよ」
腕を小さく広げ、大きさを表現するジオさん。
その表情は優しげで、懐かしむようにオトゥー皇帝陛下の昔話を語った。
「そういえば妙にリヴァに懐いてたわね」
アザレアさんはふと、思い出したように手を叩く。
「オトゥー皇帝陛下がアル様に……」
小さな子供が勇者に懐く……というよりは、憧れだったのだと私は思う。
勇歴よりも前の時代――統歴といったか、その時代では勇者という存在は全世界で認められ、憧れの対象だったと、ある人から教えてもらった事がある。
まさかその時代の勇者様が転生し、アル様として再び勇者を続けているとは思いもしなかった。
だけど、だからこそわかる。
あの方が勇者であったなら、子供たちが憧れるのも当然なのではないか……と。
「でも、今のオトゥーには勇者は悪の存在だろうけどね……。ほら、聖王が勇者のふりして帝国を滅ぼしてるからさ……」
「まあ気持ちはわかるわよ、あれだけ好きだった人に裏切られて国を滅ぼされたら私だって憎むもの」
二人の言った通り、聖王と名乗る男の所業によって現在では勇者という存在が全世界に認められておらず、憧れの対象とはなっていない。
王都トゥルニカとエルフィリムでは大勢に勇者として認められていたようではあるけれど、それでもあと三ヵ国には未だ認められてはいないだろう。
特に、ドフターナ帝国と『キテラ王国』には……。
「……ちょっと待って?」
首を傾げながら、シャールさんは不思議そうに言葉を発した。
「どうしたんだい?」
「さっきから聞いてたんだけどさっぱりわからなくて、何の話してるの?」
私たちの呼吸が合ったように、シャールさん以外がピタリと揃って足を止めた。
「……あの、私が言える立場ではないのは重々承知していますが――話していないのですか?」
「……アタシそういう説明苦手だからグラジオラスに任せてたわ」
「えっ僕なのかい!? てっきりアルヴェリオが話してるんだと思ってたよ僕は!?」
「……逆に聞くわよ、ただでさえちゃらんぽらんなアイツがあの状況で説明できたと思うわけ?」
「理不尽だ!! 完全に悪者じゃないか僕!!」
「皆してずるいよー! わたしも混ぜてー!!」
その後、私たちは三人でシャールさんにアル様たちの素性を明かした。
シャールさんが全てを知って驚愕の声を上げたのは言うまでもない。
□■□■□
暫く歩き、私たちは呼び出された村へと辿り着いていた。
村で待っていた護衛の方に連れられ、大きな民家の中へ入る。
「……よく来たっ、わざわざ足を運んでもらって悪かったなっ」
民家の中で待っていたのは、質素な椅子に座るオトゥー皇帝陛下。
私たちは膝を付いて頭を下げようとしゃがもうとするが、オトゥー皇帝陛下によって止められる。
「楽にしてくれ、オイラはそういうことされんの苦手なんだっ」
「ではお言葉に甘えて……」
「それでオトゥー陛下? アタシたちを呼び出して一体どういうつもり?」
「ちょ、ちょっとアザレアさん! 軽すぎます!」
楽にしてくれと言われても、そこまで楽にしてしまうのはどうかと思ったが、オトゥー皇帝陛下は笑みを浮かべて、問題ないと言うような表情だった。
「それでいいんだっ。お前たち皆、オイラとは知り合いなんだから気楽にしてほしいぞっ!」
「皆? でもセレンは――」
「アザレア、皇帝陛下が言っていたの憶えてないかい? 僕たちが来るより前に村を支援していた女性がいたって」
「あ、そっか! セレーネちゃんだったんだね!」
私は思わず声を上げる。
あれほど誰にも伝えないでと念を押していたのに、結局話されてしまっていたとは思わなかった。
「じゃあ、オトゥー陛下にアタシたちの道案内を頼んだのもアンタってこと?」
「道案内……ですか? いえ、私は何もお願いしていませんが……」
「まあなんでもいいだろっ。そんなことより、今日お前たちをここに呼んだのは見せたい物があったからだっ」
そう話すと、オトゥー皇帝陛下は立ち上がって近くの箱から何かを取り出した。
その何かを持って椅子に座ると、私たちに向けて広げてみせた。
「……これは」
私たちは同時に同じような言葉を呟いた。
皆、これには思い当たる節があるらしい。
「今朝、海岸で見つかったんだっ。これ、お前たちの仲間の物だろっ?」
どう見てもボロボロで、至る所が傷ついており、丈の方はほつれが目立つ。
でも、たなびく黒いそれは、どこか懐かしいものを感じさせた。
私たちの前に広げられたそのマントは、アル様の物だとすぐに確信した。
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