【Another Episode】 密会


 この世界に存在する六つの国。

 その中の一国。とある城の一室で、密会が行われていた。


 金がふんだんに使われた豪華な部屋に、二つの影が見える。

 向かい合う立派な椅子に腰かけている人物たちの笑い声が部屋に響いた。


「これで連合も終わり。これからは儂の時代である」


 一人の男が下劣な笑みを浮かべ、目の前のグラスの中の液体を飲み干す。

 

「キヒヒっ、その通りでございますなぁ」


 フードを目深に被った怪しげな男が不気味に笑う。


「しかしながら、今回の決断は我らの王も大変満足されていましたぞ」

「うむ、そちらも今は苦しい状況なのであろう? ならば致し方なかろう。このご時世、助け合いは必要不可欠であるからな!」

「いやはや、流石でございますな。我らも参戦したいのですが、こちらも抗争が激化しておりましてな。かれこれ一ヶ月と幾日かの時間を労しておりますが、これが中々しぶとく抵抗してくるものでして困っておるのですよ」

「ならば我が軍勢が戻り次第、精鋭を揃えてすぐに『そちらの世界』に向かわせるとしよう。さすればその長い戦いも終結へと向かうであろう?」

「なんとなんと、これまた嬉しいご提案でございます。では早速『門』を開けておくように連絡をしておきましょうぞ」 


 男たちの笑い声は外路にまで響く。

 

 太陽がすっかりと堕ち、暗闇が世界を支配する時間帯の出来事であったこの密会は、当事者二人と御付きの者しかしらない――そのはずだった。


 扉の向こう。外の通路で聞き耳を立てていた青年が一人、この状況に憤怒と絶望を感じながら音を立てずに去っていく。


「――この国は、いつからこのようになってしまったんだ……」


 悲しみを帯びた言葉が、暗闇の中に消えていく。


「父上……一体この世界をどうなさるおつもりか……!」


 短い金髪の青年は、歯ぎしりをたてながら通路の奥へと歩いていった。

 それに気づかない二人の男たちは、部屋の中での会話に華を咲かせていた。


「こちらの世界の王は儂、そちらの世界の王は聖王……。良き関係が築けることを祈っておるぞ……!」

「キヒヒっ、二つの世界其々の王がそうなられた暁には、きっと世界は今以上に輝くでありましょうなぁ」


 数時間後、真夜中の密会は夜明けとともに終わりを迎えた。


 密会が終わると、フードを目深に被った男は跡形も無くその場から姿を消す。

 静寂だけが残ったその一室にて、もう一人の男は立ち上がって窓の外を眺める。


「……いずれは奴らも我が手中に治める。そして、儂が世界の支配者になるのだ……!」


 静かな笑みをこぼしながら、男は部屋を後にする。

 静まり返った城内をゆっくりと歩いていく。その足取りは、どこか軽やかだった。


 ここは、キテラ城四階。キテラ国王の趣味部屋という名目で使われている小さな部屋。


 キテラ城は、トゥルニカと同様人間族が治める国。

 そして、世界に存在する六国の内、聖王国を除いて唯一、『八皇竜に襲われなかった国』である。

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