第九十三譚 次の行き先
武闘大会終了から一ヶ月が経った日の夜。
シャッティの家にて俺は皆を呼び出した。
皆は不思議そうに俺を見る。
俺は現在ビストラテアに流れる噂についての話を始めた。
「戦争が起こるって話、皆も聞いてるよな?」
その問いに全員が頷く。
「トゥルニカとエルフィリム……それとビストラテアもでしょ?」
「まさか戦争が起こるなんてね。僕はただの噂だと信じたいけど」
「そっか……。グラジーとアザレー、それにアルっちの故郷だもんね……」
やはり、アザレアとジオは戦争に対して何かは感じているらしい。
俺もそうだ。第二の故郷であるトゥルニカが戦争するなんて事になったら黙ってられない。
きっとアザレアたちも同じ想いのはずだ。
でも、本題はそれじゃない。
「皆、聞いてくれ」
俺は真剣な表情で三人を見る。
三人も気持ちを察してくれたのか、真剣な表情に変わった。
「連合の相手は聖王国――つまり聖王軍だ。となると、必然的にあいつらが出てくる」
あいつら、という単語に三人が反応する。
「……そう、エネレスだ」
俺の言葉に、アザレアが舌打ちをした。
「エネレスね……」
「アザレア、まだあの時の事を根に持っているのかい?」
「当然でしょ!? なによアレ、魔法が一切効かなかったじゃない! ズルよ、ズル!」
アザレアがこうも拗ねているのには理由がある。
武闘大会本選準決勝にて、アザレアたちはエネレスたちと対戦し、そして敗北した。
俺とシャッティは見ることができなかった試合だ。ここからは全てアザレアの話なんだけど、どうやらアザレア必勝法の開幕魔法が通じなかったらしい。
まあ、予選と本選で開幕魔法を見せているから対応されても仕方ないわけで、むしろなぜ開幕にこだわるのかも疑問だ。対応された時の戦い方とか考えないのかと言おうとしたけどやめた。
こいつが馬鹿なの知ってるから。
しかし、エネレスたちがどうやって開幕魔法を防いだのか聞いてみたところ、ムルモアがエネレスを庇ってダメージを受ける瞬間に回復していたらしいのだ。
この話を聞いて、スヴィンの攻撃が何故ムルモアに効かなかったのかが判明した。
あれは幻術でもなんでもなく、ただの回復魔法だったのだ。
俺がムルモアを斬った時、奴は回復することができていなかったため、回復魔法を使っていたのは恐らくエネレスのほうなのだろう。
そして、開幕魔法を防がれたアザレアは躍起になって魔法を連発。
全て防がれた挙句魔力を切らしたアザレアを狙ってムルモアに攻撃され、その衝撃で場外になったというわけらしい。
ジオによると、その時に襟元を掴まれて自滅させられたらしい。
なんとジオの可哀想な事か。アザレアはもう少し考えるという行為をしようね。
「それに、リヴァの話が本当ならセレンを攫った犯人って事でしょ? 許せるわけがないじゃない……」
アザレアの言葉にジオとシャッティが下を向いた。
「――それで、どうするんだい? 行くのかい?」
「決まってる、俺たちもドフタリア大陸に渡るぞ」
「この時の為にお金を集めてきたんだものね。まあ、一気にお金が無くなるのは少しツラいけど仕方ないわ」
ジオはスッと立ち上がり、家の中の大きな収納箱からじゃらじゃらと音のなる袋を取り出した。
あの袋の中には、テッちゃんに貰った報酬金と俺たちが一ヶ月の間に貯めた金が入っている。
総額でいえば、金貨八十四に銀貨六十七、銅貨三十二、翠貨十一。
これだけあればしばらくは持つはずだ。
「……というわけだからシャッティ、今日までありがとうな」
俺はそう言って袋の中の金を感謝の気持ちとして取り出そうとする。
だが、その時思いもよらぬ言葉を耳にする。
「え? 何言ってるのアルっち。わたしはいつでも大丈夫だよ?」
「……は? いや、もう俺たちに付き合わなくていいんだぞ? 武闘大会で優勝したんだから世界を回るって夢も叶えられるんだし――」
「わたしがアルっちたちに着いていけば問題ないよ? それにもう着いてくって決めてたし!」
「おまっ……! 着いていくって俺たちがどこに行くか知ってて言ってるのか?」
「ドフタリア大陸だよね! 実は前から行ってみたいって思ってたんだぁー!」
そういう事じゃないんだがな……。
俺とシャッティのやり取りを見ていたアザレアたちが口を押えて静かに笑う。
その様子を見て俺は頭を抱えた。
「それにね、わたしはアルっちたちと一緒に行きたいの! お願い、一緒に連れて行って!」
「……はあ、わかった。ただし、途中で抜けるのは無しだからな?」
「わあー! やったーっ! ありがとうアルっち!」
こうして、俺たちの行き先が決まった。
俺の大切な仲間は誰一人として死なせやしない。
絶対に守る。そして、全員で世界を救うんだ。
もう、後悔はしたくないから――。
□■□■□
「錨を上げろ! 帆を張れ!」
青く澄み渡った空の下に野郎どもの声が響く。
俺は船首に立って遥か遠くを見つめた。
「頭ァ! 出発の音頭を取って下せえ!」
船員の一人が俺に向かって言葉を発する。
それに応えるように俺は右手を上げて船員たちのほうを向いた。
「とりあえずドフタリア大陸な!」
「もっとかっちょいいのおねげえしますよー!」
「ブーブー!」
俺の言葉に文句を言ってくる船員が数人。
音頭取れって言っといてその態度は何だ、魔物の餌にすんぞ。
「ま、まあ……アルヴェリオらしいね」
「そうだー! もっとカッコいいことを言えー!」
「やっぱりアイツはこうでなくちゃ締まらないわよ」
「はいそこ! バカにしてるんですか!?」
帆が風を受け、船足が速くなる。
「……ああ、もう! 行くぞお前ら! 目指すは北の大陸――ドフタリアだ!」
その言葉と共に、船上で大きな歓声が上がる。
俺たちはドフタリア大陸目指して船を進め始めた。
三章 獣たちは眠らない 終
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